第22話
私は別に聖女様を敵視などしていないからもっと友好的にしてもらいたいのに、どうにもお兄様もソフィーも聖女様とエミリオ様に対していい感情を持っていなさそうに見える。
「私は、エミリオ様のことも聖女様のことも、恨んだり妬んだりしていません」
私の発言に、みんなの視線が集まる。
「今となっては、ここだけの話ですけど、むしろあのエミリオ様と結婚しなくていいというのはありがたいとまで思ってます」
「まぁベアトリス! 貴女やっとあの馬鹿王子の本質に気付いたのね!」
ソフィーは言うなり私の手を両手で包み込んで頬を紅潮させる。
「ずっとあの男が貴女を娶るなんて釣り合わないにもほどがあると思っていたのよ。良かったわ、気付いてくれて。ベアトリスがもう王子に未練もなにもないのなら、私も心置きなく聖女様のお世話ができるというものよ」
「ソフィー、それは不敬罪にあたるわ。ダメよ、そんなことを言っては」
「でも、あの王子ってば馬鹿なんですもの」
私たちのやりとりにくつくつと笑っていたマクス様が、続きをいいかい? とソフィーを促す。
「ああ、そうそう。それで、セラフィカの泉に聖女様が触れた瞬間泉が黄金に輝いたんですって。近くを通りかかった人がそれを見ていて、聖女様だと大騒ぎになって。その後は教会の人の前でもう一度泉に触れて見せて、本当に輝くものだから大司祭様に聖女認定していただくべく王都に連れて行こうとしたら噂話を聞きつけた大司祭様が直接聖女様を訪問して、それからはみんなも知っている通りね」
エミリオ様と私の結婚式の最中に聖女が現れたと王に伝わり、私は婚約破棄された。
他国で育ってきて貴族としての身の振り方を学んでいないらしいミレーヌ嬢はだいぶユニークで、かなり快活で大胆な方なのだという。国王様の前でも怖気づくことなく堂々としていて、笑顔の愛らしいストロベリーブロンドの髪にアメジストの瞳を持った童顔の少女ということだ。
「なにを始めるかわからないから目を離せないとは思っていたけど、お勤めの後、聖典を片付けに行っているほんの数秒の間にいなくなるなんて思わないじゃない……!」
「聖女様が見つからなかったらソフィーは叱責されるのではないの?」
「されるでしょうね。ああ、もう……そんなことになったら首が飛ぶわね」
頭を抱えてしまったソフィーを撫でてあげる。きっと見つかるわよ、と言えば、見つからなかったら困るのよ、と大きく溜息をはいた彼女は立ち上がった。
「お邪魔したわ。ベアトリス、またね」
「ええ。ソフィーも気を付けて」
「年頃の令嬢を一人で行かせるのはやはり心配だ。僕も一緒に行くよ」
遠慮するソフィーをエスコートするようにお兄様も聖女様探しに行ってしまった。それにしても、かなり自由奔放な様子の伺える聖女様とあのエミリオ様。そんなお二人が結婚して大丈夫なのかしら。国王でなかったとしても、それなりに周囲の助けが必要になりそうだけど。
「ソフィエル嬢は聖女の世話係を押し付けられたようだな。彼女は優秀な聖なる乙女であった上に侯爵家の令嬢として貴族の振る舞いも身に着けている。ここではだいぶ砕けた態度ではあったようだが」
お父様の言葉にマクス様も頷いて口を開く。
「国としては教会側に聖女に関しての権限を集中させたくないのだろうなぁ。侯爵家の令嬢であり、ここ最近では最も優秀と言われているソフィエル嬢を聖女の教育係にするという提案に教会だって反対はできまい。しかも彼女は教会の手を離れている存在だ。なんとも都合のいいお嬢さんがいたものだよ」
「しかも、彼女はビーとも仲が良い。ついでにわが娘も聖女の妃教育の補佐として指名しようとしている可能性もなくはない」
「ビーがアクルエストリアの保護下にいるというのに、聖女のためならこちら側との契約も関係ないと言い切るつもりなのか? 舐められたものだな」
不機嫌そうに顔をしかめた彼は、長い指でトントンを机を叩いた。
「まぁ、ここでこうしていても仕方がない。私もビーが憂うようなことがないように考えてみよう。さて、随分と長居をしてしまったな。ということで、ビーとは書類上の夫婦ということにはなったが2年後には契約解除することになっている。その頃に合わせて彼女の婚姻相手を探していただくのも結構だ」
マクス様は綺麗な笑顔を浮かべて私の腰を抱く。その姿を見たお父様はなんともいえない顔をした。
「まぁ、この期間は彼女を我が最愛の妻として最大限に大切にすることを約束するよ。悪いようにはしない」
「……よろしくお願いいたします」
家を出る直前、マクス様になにやら耳元で囁かれたお父様が顔を赤くしたり青くしたりしたのが少し気になったけど、見上げた私に彼は意味深に笑っただけだったのでそれ以上の詮索はしないことにした。
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