脱出

 結局、何もできないあたしが残された。


 人をまとめたり、自ら行動したり、鋭い観察眼で違いを見つけたり――そんなあたしはみんな消えてしまった。

 そして何も出来ずに呻いていただけのあたしが残った。


 ――情けなかった。


 けれど、そのあたし達のためにも、あたしはここから出なければならない。あたしは深呼吸をして気を入れ替え、床に這いつくばった。



 広がりきったはずの隙間だけれど、やはり少し狭かった。頭や胸は平気だったのに、腹からお尻にかけてが苦しい。悲しい。


 あたしは、意を決して隙間に入り込んでいた。身動きが取りにくく、ほんの少しずつしか進むことができなかったが、必死でもがきながら前に進んだ。


 前方には、明るい光と外がある。あたしは無我夢中でそれを目指した。


 数分か数十分か――時間の感覚すら無くなっても、あたしはもがき続けた。本当は諦めたい。広いところに戻って休みたい。けれど、あたしのために隙間を広げてくれたたくさんのあたし達のために、ここで止まったり戻ったりするわけにはいかなかった。


 やがて、もう少しで外に手が届くというところまで来た。大した距離ではなかったはずなのに、既に体力が限界に近い。腰も足も、首筋も――全身の筋肉が悲鳴を上げている。


 あたしは必死で手を伸ばした。せめて、外の空気に触れたいと思ったのだ。


 そして光の先に手が届き、外の空気に手を入れた瞬間。

 誰かがあたしの手を力強く掴み、狭い隙間から引っ張り出してくれた。ずるずるとひきずられるのは気持ち悪かったが、それ以上に、解放感が大きかった。


 頭が、胸が、足が。外気に触れ、一気に弛緩する。


 いつの間にかあたしは、睡るように意識を失っていた。最後の記憶は、眩しい外の光が顔にあたり、とても温かかったと感じたことだった。

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