2人


 6月の、一日ごとのあたしが、なぜか同じ記憶だけを持って白い不思議な空間に集った。

 部屋の隅にはぽっかりと穴があり、そこに落ちると消えてしまうし、その落ちたあたしよりも後の日のあたしも消える。

 そして、消えた人数分だけ、もう一つの隙間が広がり、出口らしきものがおぼろげに見えるようになる。


 ◆◆◆


 部屋着のあたし自身と、もう一人の部屋着のあたし、そして制服のあたし三人。

 消えたあたし達よりも消えなかったあたしの方が恐い思いをしているような気がする。

 白い部屋は一気に広くなった。何せ、十人以上も消えてしまったのだから。

 先程まで点呼などを請け負ってくれていた白靴下のあたしも、消えてしまったようだ。残されたあたし達は、隙間の前に集った。


「どうだろ……まだつっかえそう」


 制服のあたしが隙間に頭を入れようとしたが、かなわなかったようだ。


「でも、ここから出られそうだよ、なんか向こうに光ってるところが見える。外みたい」

「あ、じゃああたしもあっちに行くね」


 申し出たのは、部屋着の、怪我初日のあたしだった。他に怪我を負ったあたしは居ないので、この状況ならば確かに一番最後の日付――6月5日土曜日のはずだ。


「トラの予防接種、忘れないでね」


 怪我初日のあたしはひっかき傷のある手を振ってあたし達に挨拶してから、躊躇いなく穴へ落ちていった。


 隙間が、また気付かないうちに広がった。

 30センチといったところだろうか、入り込むことはできそうだけど、中で身動きが取れなくなるのは確実だった。もう少しだけ広がればどうにか通れそうだが、それはつまりまだ誰か落ちる必要があるということだった。


「さて、」


 残された四人のあたし達の中から、一人がポンと手を叩いた。黒い靴下と制服のあたしだ。


「お一人様専用って感じがするね、これ」

「うん……」


 あたしは躊躇いがちに頷いた。


「何か、日付を特定できる材料は他に無いかなぁ」


 残ったのは、制服姿のあたし三人と、部屋着の――あたし自身。残る日付は6月1日火曜日から、6月4日金曜日。


「あ」

 黒靴下のあたしが唐突に声をあげる。その目線を追ってみると、そのあたしはあたし達の足下を見ていた。


「ローファーだ」


 そう言って、同じく制服のあたしを指した。ローファーを履いているということはつまり、体育の授業の無い日だ。


「火水木金の中で体育が無いのは、木曜だけだね」

「あー、ほんとだ」


 ローファーのあたしがぽんと手を打つ。


「じゃああたしは6月3日、木曜日だね。行ってくるー」


 ローファーのあたしはまるで近くの自販機まで行ってくるような気軽さで、穴の方へ向かって行った。


「元気でねぇ」


 そしてぶんぶんと元気に手を振ってから、するりと落ちていき――横にいた黒靴下のあたしも、消えた。二人が消え、隙間はさらに広がった。

 残されたのは、二人。制服のあたしと、この部屋着のあたし。お互い、それまでほとんど発言していない大人しいあたしだった。

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