5人
部屋がだんだん広く感じられるようになる。
だが、隙間を通るにはもっとたくさんのあたしが穴へ落ちて消えなければならない。白靴下のあたしは、それを言うのを躊躇っているようだった。そこへ、おずおずと申し出たあたしが居た。
「あの……それじゃあ、あたしも確実に前の日のあたしが居るから」
それは、トラに引っかかれた怪我のあるあたしだった。治り具合からして、おそらく二日目だ。怪我初日の痛々しい傷を持つあたしを指して、次に自分の傷跡を白靴下のあたしに見せる。
「もうみんな、言葉にできないだけで何となく分かってるんだと思う。
みんな同じあたしだから、一人でもこっちから出られればいいって。だから、あたしも行くね。トラを病院に連れて行くとしたら土日どっちかだとして、もう21から先は無いから――6日、13日、20日あたりだけど、後の日の怪我してるあたしもまだ3人居るから、20日はもう無いとして――多くて16人消えるかもしれないけど、いいよね?」
夏服を着た怪我二日目のあたしは、しっかりした顔でそう言って、あたし達を見た。
怪我二日目のあたしが落ちれば、自分が消えるかもしれない。最悪6月1日のあたしさえ残って脱出できればいいはずだけれど、やはり分かっていても恐い。けれど、反対するあたしは誰も居なかった。
「行くよ」
そして、怪我二日目のあたしはするりとあたし達を掻き分け、穴の前に立つ。あとは一瞬だった。怪我二日目のあたしは、床のないところに一歩を踏み出し、そのまま消えていった。
数秒後。
視界から、ほとんどのあたしが消え、隙間はぐんと広がった。
穴に入ったあたしは、6月6日のあたしだったのだ。
残ったあたしは、5人だった。
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