四周目
第三十一話、五百円玉の話
平成の話なんで、全盛期とかじゃ全然ないんですけどね。
小学生の頃、一時期クラスでこっくりさんが流行ったんですよ。
夏の心霊番組とか、学校の怪談を集めた本で見たんでしょうね。あのくらいの女の子は占いとかおまじないとか好きだから。
ただ、昭和と違って、経験者も身近にいないし、ルールとかは曖昧だったんですよ。ほら、使った十円玉はお賽銭にしなきゃいけないとか、本来細かい決まりがいろいろあるでしょう。
そういうのを守ってなかったせいかあまり上手くいったことはありませんでした。
その分、仲間内で独自ルールを作ることもあったんです。
あるとき、友人のひとりが「十円玉より高い額の硬貨の方がいいんじゃない?」と言い出したそうです。ゲームのアイテムじゃないんだから、高価なほどいいなんてことはないんですけどね。
友人は五百円玉を持ってきたんです。小学三、四年生にはそれなりの大金でした。
早速放課後に試したんですが、十円玉より重いので当然動きませんでした。あれってみんなの指の力が集まって無意識に動かしてるっていいますもんね。
諦めて終えようかと思ったときでした。
急に五百円玉が動いて、紙に書いた五十音を「お」「こ」「り」と示したんです。
その日は訳がわからないし、気持ち悪いねと話して解散しました。
翌日、朝の会で突然、担任教師のお説教が始まったんです。
詳しい内容はもう覚えてないけど、クラスのみんなで悪ノリしてやったタチの悪いイタズラが見つかったようなものでした。全員ひどく叱られましたし、罰として校内清掃をやらされましたよ。
でも、例の友人だけイタズラがあった当日、風邪で欠席していたとかで罰を免除されたんです。
その子は「こっくりさんが怒られることを予言してくれたんだ」と嬉しそうでした。こっちとしては面白くないから、放課後は誘われてもこっくりさんをやらなかったんです。
例の友人は別の子を誘ってやるようになって、それからは喧嘩した訳でもないけど何となく彼女とは話す機会も減りました。
噂では新しい友人とこっくりさんをやっては、失くしたカラーペンの場所を当ててもらったとか吹聴してたらしいです。
一月くらいだった頃、下校時間に下駄箱の前でクラスの子に呼び止められたんです。
あの子の新しいこっくりさん仲間の子たちでした。彼女たちは周りにひとがいないのを確かめてから、例の友人が少しおかしいと言い出したんです。
彼女はそれからもこっくりさんは教室じゃなく神社でやる等、ルールをアレンジして続けてたらしいんですが、昨日とうとう「スペシャルな紙を持ってきたからこれでやろう」と変な紙を持ってきたらしいです。
チラシよりも小さくて分厚いツルツルした紙でした。表面に光沢があって鉛筆で鳥居と五十音を書くのに苦心している様子だったそうです。
「スペシャルな紙って何?」と聞くと、「紙が滑って裏面が見えたとき、着物を着たおじいさんかおばあさんが写ってる白黒写真だった」と言われました。みんなは不気味に感じて理由をつけて逃げ帰ったとか。
たぶん遺影ですよね、
それから、例の友人が事故で大怪我をしたとか、おかしくなって病院に送られたとか、わかりやすいことは特に起こりませんでした。
ただ、できちゃった婚で高校中退した矢先に夫が蒸発するとか、その後に入った専門学校でよくない宗教じみたサークルにハマったとか、呪いとも自業自得とも言い切れない不幸が起きているそうです。
彼女には信頼できる占い師がいて、そのひとの助言に従っているとの噂でした。もしかしたら、まだこっくりさんを続けているのかもしれません。
今にして思えば、最初に五百円玉が示したのは"怒り"じゃなく"事の起こり"じゃないかなって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます