第二十二話、写真加工の話
今自分はグラフィックデザイナーをやってるんですが、同業者と呑んだとき変な話を聞きまして。
何でもAIでイラストを学習させると変なものが映り込む絵があるとか。詳しくは話してくれなかったんですけど。まあ、そいつの会社は結構危ないことやってたんで、言えないことも多いでしょうね。
自分のところはAIなんか使う最先端の職場じゃないですよ。
元は写真屋の進化版みたいなもので、広告なんかに使う写真をちょっと加工したりとかその程度です。
でも、変な案件はやっぱりありましたね。
たまに個人からの依頼もあったんですよ。
アイドルのオーディションに応募するから写真を加工してくれとか。
あるとき、一枚の女子高生の写真が送られてきたんです。
それもピンで写ってるんじゃなく、集合写真をその子のところだけ切り抜いて無理矢理拡大したようなもの。体育祭の記念撮影なのか、ゼッケンをつけた運動着を着てたのは覚えてます。
それから、「このひとの写真をこんな風に加工してくれませんか」と、手描きの絵が送られてきました。文面は丁寧なんですが、問題の絵がおかしくて。
小さなメモ用紙に筆ペンで書き殴ったように、頭から目の当たりまでグチャグチャに塗り潰されていて、口だけが真っ赤で輪郭からはみ出すくらい大きいんです。
不気味に思いましたが、仕事ですから、仕方なく目の当たりまで黒く塗り潰して口を拡大して送りました。
そうしたら、依頼人から「説明不足で申し訳ありません。違うんです。目の当たりまで前髪を下ろしてる風にしてほしいんです」って返信が来ました。
少し手がかかりましたがその通りにやりましたよ。今度は満足してくれました。
それから何度も何度も同じ写真が同じ内容で送られてきたんです。流石にちょっと異常じゃないですか。
当時ちょうど自宅で簡単に写真を加工できるソフトが流行って、依頼なんて例のひと以外ほぼないくらいになってたんです。
依頼が半年くらい続いてから、正月休みになってたまには仕事から離れようと思って、久しぶりに帰省したんです。
自分は幼い頃母が他界して父子家庭だったんですが、いつも通り帰ってすぐ母の仏壇に手を合わせに行ったんです。
そうしたら、母の遺影が少し異様に見えてたんです。前髪が目の当たりまで伸びて、口が裂けそうなくらい笑ってるみたいでした。
まあ、ノイローゼだったんでしょうね。自分にそう言い聞かせましたが、連休明けに仕事に戻ってから、また例の依頼人からメールが来ていて、今まで聞かなかったことを確かめたくなったんです。
プライバシーの観点から聞かなかったが、写真の本人の許可は取っているのか、彼女とはどういう間柄なのかと。
そうしたら、懇切丁寧に「もういいです。自分で描きます」という旨の回答がありました。
最後に思い出したように付け加えられていました。
「この写真は母です」と。
仕事を断ってから、帰省しても、母の遺影がおかしく見えることはもうありませんでした。
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