第40話 王城サンディアーノ
「確かにこれほどまでに警備が厚いとなると、私じゃないと侵入は無理だね」
王都の住民の多くが寝静まった深夜、アルノは王城・サンディアーノへ訪れていた。
王都から少し離れた位置から王都を一望するように建てられた巨大な王城・サンディア―ノでは、王城だけでなくその手前にある貴族街ですら壁で隔てられ、厳重な警備が敷かれている。
幾重に張り巡らされた高度な感知魔法に、高い頻度で警備の兵士達が巡回へやってくる。
一般人であれば、これら感知魔法から逃れる術はなく、一度でも感知されてしまえば即時に警備兵達が押し寄せてくる。
これら警備兵も只者ではなく、ただの力自慢や喧嘩が強い程度であれば、為す術もなく捕らえられ、そのまま牢屋へぶち込まれる事間違いなしだ。
その為、世界で最も高貴な種族といわれるハイエルフ達が住まう王城・サンディアーノでは数千年もの間、賊に忍び込まれた事がないという不敗神話にも似た伝説を持っていた。
――――――そんな王城・サンディアーノの東側、城の敷地内に存在する裏庭にあたる場所で、アルノは身を隠しながら解き放った虫たちから得た情報を元に、城の見取り図を描いていた。
暗闇に塗りつぶされた城の裏庭には、これまた闇に紛れるように黒色の装備を身に纏ったアルノが微かに月明かりに照らされていた。
三姉妹の特徴でもある黄金の美しい髪は、彼女の変身魔法によって漆のような艷やかな黒髪へと変貌しており、蒼い宝石のような瞳も、まるで猫のように暗闇でも白く輝いている。
そんな中でアルノは、城壁を登り、王城内部まで侵入する事に成功したのだが、その中でも特に厳重な区画―――――アルノのターゲットであるハイエルフの姫君が生活する居住場所に関しては、それまでとは比較にならない程の厳重な警備がしかれていた。
登録された魔力でなければ足を踏み入れた瞬間に警報が鳴る特殊なシステムに加えて、検知した場所には強力な使い魔が即時展開されるという素敵仕様だ。それらを加味しても強引に突破出来ないこともないのだが、本作戦を前に事を荒立てるのは避けたかった。
寧ろ、王城内部まで侵入できただけでも、末代まで語り継ぐことが出来る偉業なのだが、それを知るのは姉と妹のみだ。
そしてそのどちらもアルノが王城へ侵入できると確信しており、アルノが王城へ侵入して目的を果たしたと報告しても、そう・・・・・・、と対して驚いた様子もない普通の返事が戻ってくるだけだろう。
王城の構造はある程度把握できたので、アルノは最も重要な場所の調査へ乗り出すことにした。
ハイエルフの居住場所は、流石のアルノでは忍び込むのが難しいので代わりに虫たちを使う。
アルノが使役する虫は、姉のルイナが使役する使い魔と違い、魔法による繋がりを必要としない。
ルイナの使い魔を常に魔力が流し込まれる充電ケーブルに繋がれた大型の魔導人形だとすれば、アルノの使い魔は魔力を用いた電池で動く小型魔導人形になる。
「・・・・・・ここまで読み切っていたって事ね、お姉ちゃんは」
王城に張り巡らされている感知魔法はどれも高性能なのだが、ある程度の誤差を無視しなければずっと警報が鳴りっぱなしになり、使い物にならなくなってしまう。。
その為、どんな厳重な感知魔法であっても、誤作動を防ぐために微弱な魔力は関知しないという仕組みになっているのだが・・・・・・調べてみた所、王城で最も厳重なハイエルフ達の居住場所では、ギリギリの部分でアルノが使役する虫達が保有する魔力が感知されないぐらいになっているようだった。
それを知った瞬間、アルノは王都へ向かう際に言っていた姉ルイナの言葉を思い出した・・・・・・「王城の警備は厳重、でも貴方の虫たちなら多分大丈夫」と。
姉ルイナや妹シズが使役する使い魔達は、どれも強力な魔物たちなのだが、その反面、一般的なエルフの魔法使いでは数分でガス欠になる程の燃費の悪さを誇っている。
そうなれば、ルイナと使い魔の間で介されている魔力量は明らかに感知魔法に引っかかるレベルであったので、今回、態々アルノが王城調査の役割を任されたのも納得がいった。
これはアルノの予想ではあるが、姉であるルイナは王城の警備についてもある程度予想が出来ていたのだと思う。
それしてアルノは念には念を入れる形で、地面から小さな白い蝶を生み出してハイエルフの居住場所に向かって解き放つ。
暗闇に輝く白い蝶は、ヒラヒラと舞いながらゆっくりと王城の内部へ向かって飛んでいった。
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