第36話 ルイナ教授

※少し話が噛み合わない部分があったので、前話に一文説明を加えました。






 パーロ魔法学校に突如として現れたルイナというエルフの女性は、突如として現代に生まれた大魔法使いだと皆が言った。


 本人の申告では、魔力神経は50本程であるらしく、詳しく検査はされていないものの、大魔法をいとも簡単に使うことが出来る為、真実だろうというのが結論だった。


「ルイナ教授」

「――――ラビアナ、君か・・・・・・」


 週に一度のみルイナが担当する講習が終わった後、学生たちがルイナの目の前に集まる前に、彼女はそそくさと講堂から姿を消した。


「言っておくけど、私は王都に行かないよ?」

「ッ!?何故ですッ、貴方ほどの魔法使いが!!」


 授業で使った本を異空間に修めて、人通りの少ない廊下でルイナとラビアナと呼ばれた少女は対峙する。


 濃い紫色の髪を靡かせるラビアナと呼ばれるエルフの少女は、パーロ魔法学園設立以来、最高の才能を持った生徒と呼ばれ、まだ三学生でありながら来年から王都にある最高峰の魔法学校、王立サンディアーノ魔法学校へ転入が決まっていた。


 その待遇も最初から特待生であり、将来的には国の研究機関への配属が既に決まっている辺り、どれだけ彼女が評価されているのかが伺い知れる。


 そんな彼女は、実力相応に自信を持ち、入学した時点でパーロ魔法学校で教鞭をとる教授たちを見下していたが、それも束の間、ルイナが赴任してから彼女の自信は粉々と砕け散った。


「あのね、私はそういうのは興味無いんだよ、元々独学だったしさ」

「それでもです!!貴方のような才能あふれる人物がこんな場所に燻っているなんて、看過出来ません!!」


 ラビアナの言葉に、ルイナは表情には出さないものの、内心でかなりうんざりとしていた。


 ラビアナは確かに才能溢れて素直な子ではあるのだが、些か優生思想やら選民思想に近い悪癖を持っている。


 ルイナからすれば、エルフであっても人間であっても、例えゴブリンのような醜悪な魔物であっても、彼女の価値観では、家族かそれ以外で分けられているので、頭が良いだとか、顔が良いだとか、金を持っているだとかは正直どうでも良かった。


 ただ、家族以外は自分にとって利益になるか不利益になるかの違いでしか無い。


(お父さんとは絶対に相容れない性格をしているよね・・・・・・彼女)


 そんな中でラビアナは、確かに目を見張る程の才能を持っており、その才能はルイナの研究においても存分に生かされている。

 その為、ちょっとした癇癪のようなものであっても、ルイナは最低限のやり取りはするが、流石にここまで酷いとなればそろそろ縁を切る事も考えていた。


 寧ろ、彼女が来年に王都へ転入することに対して内心喜んでいる部分もある。


 それでも、彼女には世間体というものがある。今は生徒たちから評判の良い女教授という風に評価が広まっており、誰にでも優しく接するという理想の教授として振る舞っていた。


 その為、性格に難があるとはいえ、無理に引き剥がすのはこれまで培ってきた評判を考えるとあまりやりたくはない。


 そんな事を思いながら、話半分でラビアナの話を聞いていると、未だ勢いが収まることを知らない彼女の口からルイナにとって聞き逃す事が出来ない言葉が聞こえてきた。


「第一、教授は甘すぎます!!とても崇高な研究をしているのに、アレッサなんて神聖な教授の研究室で全く関係の無い娯楽本を読んでいるのですよ!?」

「・・・・・・休み時間なら問題ないでしょう、私達にも休憩は必要よ?」


 ラビアナは、同じ研究室仲間であるアレッサを疎んでいた。


 ルイナの研究室は、その人気もあって学年でも上位数%の学生しか参加することが出来ない・・・・・・その倍率は非常に高く、例え試験の成績が良くとも、面接によって振り落とされる可能性もあった。


 そんな選ばれたメンバーの中で一番の最年長がアレッサという大学院生だった。


 彼女は確かに基礎学年を卒業し、より上位である大学院へ進級したが、その学力はお世辞にも高いとは言えない。


 良くて中の上・・・・・・そんな彼女がルイナの研究室へ配属できたのはただ運が良かったからだ。


 まだルイナの才覚が生徒たちに知られていない時期にアレッサは研究室に入り、そのまま入り浸っている。


 そのためか、ラビアナはアレッサの事を酷く嫌っていた。崇拝するルイナの目の前だと普段通りではあるが、裏ではそれなりに強い当たりをしているらしい。


 直接的な行動も出ておらず。アレッサ自身から相談も無い為、直接的な処分には至っていないが、この様子じゃもう駄目か、と判断を下そうとした時。


「確か幻想戦記だったかしら?アレッサはあれが面白い面白いと騒いでいましたけど、あんな低俗な娯楽本・・・・・・読むに値しなッ―――――!!」


 ラビアナがタクマが書いた小説を貶した瞬間、それまで聞き流すように聞いていたルイナは何も考える事無く、彼女の顔面を鷲掴みにしていた。


「貴方、何言ってるの?」

「ア、ガアァ・・・・・・」


 ギリリと軋むような音を立て、ラビアナは掴まれた手を両手で必死に引き剥がそうとする。


 それでもビクともしないルイナの手は、更に力を強めており、ラビアナは言葉にもならない悲鳴を上げていた。


 幸いだったのは、周囲に人が居なかったことだろう。学生の顔面を鷲掴みにして締め上げる教授なんて見られたら騒ぎになるのは間違いなかった。


 それでも、ルイナの心を占めるのは怒りの感情だけであったが、その感情に支配されてたのも数秒の間だけだった。


「そろそろ実験用の素体も欲しかったし、ちょうど良かったわ・・・・・・貴方でやりましょう、大丈夫、殺しはしないわ」

「な、にを?――――――」


 ルイナはただ短く「睡眠スリープ」と唱えると、それまでもがいて抵抗していたラビアナは、だらりと垂れるように脱力した。


すぅすぅ・・・・・・と、先程まで力いっぱい抵抗したとは思えないほど、安らかに眠っている。


 周囲に誰も居ないとは言え、このまま研究室へ運ぶのは一目に就くため、ルイナは彼女に簡易的な封印を施して自分が保有する異空間へ彼女を放り込み、何食わぬ顔で廊下を歩き出した。




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