第二章 エルフの国での新たな生活

第34話 新生活

 冬の間、コルビト村に滞在したタクマ達は、そのままケミルに向かう事無く、サンディアーノ王国へ入った。


「ここが新しい家か」


 コルビト村で出会ったカイン達パーティーの助言を元に、タクマ達はエルフの国・サンディアーノの南部、生まれ故郷であるラトール王国との国境付近に家を建てて生活することを始めた。


 周辺の木々を伐採し、魔法の力によってあらゆる工程が省略されて建てられた木造二階建ての新居には、自給自足をするために育てる野菜畑と、主にルイナが魔法の研究で使用する薬草類を育てる研究用の二つの畑に分かれていた。


 農作業は土人形のゴーレム達が行い、タクマや三姉妹はそれぞれやりたい事をしながら生活していた。





「ただいまー!!」


 そんな新生活が始まって数年、三姉妹は随分と大人びた体つきになり、他人から見ても一人の成人として見られる程に成長した。


 サンディアーノでの生活では、三姉妹には前もってユリアスから事前に連絡を貰っていた事もあり、それぞれ正式なサンディアーノ王国民として登録され、タクマはその従者という形で登録されている。


 戸籍上の立場は逆転してしまったものの、タクマと三姉妹の関係は昔と変わらず。父親と娘という形で生活していた。


 ただ変わった部分といえば、新生活にも慣れた頃から三姉妹は半年に一度の頻度で交代する形で家を出たりしている。


 なので、今住んでいる家にはタクマとシズしか居ない・・・・・・季節の変わり目、丁度夏へ差し掛かる時期には一年ぶりにアルノが家に帰ってきていた。


「お帰り、アルノ」

「ただいま、お父さん」


 一年ぶりの再会を分かち合う様に、タクマはアルノを包容しする。エルフは成長が遅いと言われているが、流石に一年ぶりに見ると所々アルノの姿は変わっていた。



「また背が高くなった?これじゃあ来年にも越されそうだ」

「フフフ、家族の中で私が一番背が高くなるね」


 三姉妹が家を離れている理由はそれぞれで、長女ルイナはサンディアーノ王国の南部で一番大きな都市である『パーロ』で地方の魔法学校で教員をやっており、生徒に授業を教えながら様々な研究をしているみたいだ。


 次女アルノは冒険者になったようで、ソロで各地のダンジョンを物凄い勢いで踏破しているようだ。三姉妹の中で一番有名になったのは間違いなくアルノであり、毎年、家に帰ってくる際には各地で入手した希少な聖遺物を持ってきてくれたりする。


「ん、じゃあお父さんを任せたよ」


 アルノが帰ってきてから数日、久しぶりに三人揃って過ごした後は準備を終えていたシズが荷物を持って家を出ていった。


 別れの挨拶をし、シズが見えなくなるまで見届けたタクマとアルノはこれから半年の間、ルイナが帰ってくるまで一緒に生活することになる。


 家を出ていったシズは、三姉妹の中で一番おっとりした性格なのだが、意外な事に・・・・・・と言うには彼女たちに失礼だが、シズはタクマ達が住むサンディアーノ王国南部を治める大貴族に騎士として仕えているそうだ。


 立場としては特別軍事顧問・・・・・・という役職だそうで、普段は王国南部に出没する魔物や盗賊たちを討伐したり、訓練を行っているそうだ。


 タクマ達が今もこうやって自由気ままに生活出来ているのも、シズが騎士になった事により、周囲の土地を治めることになったのが大きい。


「そうそう、お父さんにお土産あったの忘れてた!!」

「まだ残ってたの?」


 あののんびりしたシズが何千という兵を率いるエルフになったんだなぁ・・・・・・と思いつつ、別れを悲しんでいると、横で一緒に見送っていたアルノがアッっと思い出したかのように異空間に手を突っ込んで何かを探す。


「ほらこれだよ!!」

「宝石?」


 異空間に存在するアルノ専用のアイテムボックスから取り出したのは、青色の美しい宝石だった。

 太陽の光を乱反射してキラキラと輝く青い宝石は、こぶし大のサイズを誇っており、素人目で見たとしてもどれだけの価値があるかが分かる。


「ただの宝石じゃないんだよ!ルビアスの涙って言う貴重な聖遺物なんだ」

「ルビアス・・・・・・って、古代龍の涙って事か!?」


 ルビアスの涙、という聖遺物は知らないがルビアスという存在自体は知っていた。


 輪廻転生を司る永遠の龍、この世界が誕生した頃から存在しており、世界の中心、死んだ者達の魂が集まる霊門を護る伝説の守護龍の名だ。


「でもどうやって?」

「これはダンジョンの奥で見つけたんだよ、幾つか持ち帰ったんだけど、本当はお姉ちゃんの研究材料の一つだったから頑張って手に入れたんだ」


 余ったから一つあげるね~、とまるで近くの小石を渡すかのように青い宝石をタクマの手のひらに乗せた。


「ありがとう、大切にするよ」


 タクマの言葉に、アルノはニヒヒとはにかむように笑みを浮かべながらシズの旅立ちを見届けて、家の中へと戻っていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る