第33話 三姉妹に言ってはいけないこと
魔力神経・・・・・・それは、魔法を扱う際に最も重要な器官の一つであり、魔力神経の数によって行使出来る魔法の等級が変わるとさえ言われている。
「私たちの魔力神経の数・・・・・・ですか?」
「うん、昨日一緒に食事をした冒険者の人たちがそう言っててね」
タクマは自分の常識をすり合わせる為に、三姉妹を同じ部屋に集めた。
相変わらずのシズは、タクマの胡座の上に座り、ルイナとアルノも態々ベッドの上に腰掛けるタクマ両隣に座った。
そんな中で始まった質問に対してルイナはキョトンとした表情でタクマの顔を見ていた。
「エルフで魔法使いを目指すなら最低でも20本の魔力神経が必要みたい、もしルイナ達が望むなら魔法学校に行ってみたらと思って」
「なるほど・・・・・・そういう事でしたか」
非常に哀しいことではあるが、三姉妹はエルフでタクマは人間だ。
そこには圧倒的な寿命の差が存在しており、この世界の人間の平均寿命を照らし合わせてみればタクマは既に人生の折返しを過ぎている。
その為、タクマは最近では自分の死後・・・・・・三姉妹がどう生きていくのか心配していた。
そんなタクマの問いかけに対して、ルイナは納得した表情を見せると、似たような表情を浮かべていたアルノとシズに顔を合わせる。
「そうですね・・・・・・三人とも詳しく検査をしておりませんが、私は100本近くの魔力神経を持っております。アルノが80本、シズで110本ぐらいでしょうか?」
「・・・・・・それって凄い事だよね?」
昨夜の食事会でも魔法適性の話になった際に、複数の魔法適性を持つ者は限りなく少ない・・・・・・という話を聞いた時、タクマは内心で娘たちがとてつもない才覚を持っているんじゃないか?と思った。
魔法に関してはタクマも良く知らない・・・・・・第一にタクマは魔法の才能が皆無だったので、興味があったとしても知覚できないというのがあり、魔法関連の知識には疎いままだった。
そして昨日、カイル達の話を聞いて今自分の傍でのんびり寛いでいる娘たちが、自分が想像する以上の途方もない才能を秘めている事に改めて気がついたのだった。
「そうですね」
そんなタクマの問いに対して、ルイナは特に誇ることもなくあっけからんといった様子で答える。
カイル曰く、その時代を代表する大魔法使いで大体60本ぐらいの魔力神経を持っていたとされているので、これまでタクマが見てきた魔法はとてつもない大魔法だった可能性があった。
周りに三姉妹以外で魔法を使える者が居なかったのもタクマが勘違いする理由の一つだろう。
ルイナやシズが小さい頃から次々にオリジナル魔法を作成していた事もあって、タクマが三姉妹の魔法を見て培った常識が一般的な常識から乖離していることが分かった。
「ルイナ達は・・・・・・僕が死んだらどうしたい?」
「「・・・・・・」」
この場で聞くのはどうかと思ったが・・・・・・いつか聞かなければ行けないという事もあり、雰囲気が気まずくなる事を承知でタクマはルイナ達に聞いた。
シーン、とタクマの言葉を最後に四人が居る部屋には静寂が訪れる。ピシリとタクマの顔を見ていたルイナの顔が固まり、ジッと見つめていた視線が完全に止まった。
「もし、魔法使いになりたいなら離れて暮らしても・・・・・・「お父さん」」
覚悟していたとは言え、完全に最悪な雰囲気になった状態に、居た堪れなくなったタクマはもし魔法使いを目指すなら、自分を置いてサンディアーノの王都にある魔法学校へ入学してもいい、と言おうとした所で、強引にルイナが小さくお父さんと呼んだ。
その目には光がなく、ただジッとタクマを見つめて強く言い聞かせるように話し始めた。
「私達は千年の時を生きるエルフです。そしてお父さんはたった60年しか生きられない人間です・・・・・・ここまでは良いですね?」
「う、うん」
「そこでお父さんは私達を育てるために、その短い人生の三分の一を私達に使ってくれましたよね?しかも働き盛りの20代の時期を丸々と・・・・・・エルフで例えるなら、お父さんが私達に使ってくれた時間は300年以上の価値になります」
反論させない、といった様子で何処か威圧的な喋り方をするルイナにそうか?と頭では疑問を浮かべつつも、その有無を言わせない気迫に圧倒されてタクマは無意識の内に頷く。
「それなのに、これからの残りの30年・・・・・・私達にとって人生のたった3%にしか満たない短い時間を全てお父さんに使ったとしても、私達にとっては対して痛くもないし、苦痛だとも思っていません」
「お姉ちゃんの言うとおりだよ、流石に笑えない冗談かなー?」
ルイナの言葉に賛同するように、アルノもシズも頷く。ルイナが怒るのも当然だ・・・・・・と言わんばかりの呆れた表情をしていた。
ルイナが喋った後に言葉を付け加えたアルノもパッと見では笑った様子で話すが、その目にはハッキリとした怒りが滲んでいた。
「ごめんね、やっぱり僕が死んだ後、皆には幸せに暮らして貰いたいからさ」
「それは・・・・・・」
タクマだって出来ることならずっと一緒に居たいとは思っている。
それでも、タクマは人間でありルイナ達はエルフだ。そこには何十倍以上の寿命の差が存在しており、三姉妹はタクマと一緒にいる時間よりも、死んだ後の時間の方が圧倒的に多い。
人間であれば、60年という短い人生の中で一生を共にする相手を見つけて家庭を持ち、子を育むという過程があるのだが、エルフはそうはいかない。
千年という長い寿命のせいなのか、エルフは恋愛をして家庭を築くという意志が薄いと言われている。
なので長寿でありながらエルフの個体数は人間たちよりも圧倒的に少ない。
それこそ、エルフ一人一人が優秀であっても、その差を覆すほどの他者を愛するという気薄さが存在していた。
「それは・・・・・・ズルいです・・・・・・これでは何も言えないじゃないですか・・・・・・」
だからといって家族に対する愛が薄いという訳では無かった。寧ろ、身内に対する想いは人間以上とさえ言われている。
若干、見ず知らずの相手に対して排他的な思考がある分、家族に対しては人一倍愛が強いと言われているのがエルフと呼ばれる種族だ・・・・・・それでも、個人差があり、カインのように成人してからすぐ家を飛び出して人と交流するエルフも存在している。
タクマの言葉に対して、先程まで空気を震わせんとばかりに圧を放っていたルイナは、目をパチクリとさせてシュンと気落ちしてしまう。
その様子に、2人の話し合いを見ていたアルノもシズもはぁ、と小さくため息を吐き、ピンと張り詰めていた空気が霧散した。
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