第32話 魔拳のカイル
昼間に出会ったエルフの男の名は、カイル、というらしい。
聞けば彼は生まれながら魔法の素質がなかったらしく、同胞たちからも疎まれていたため、ラトール王国とサンディアーノ王国が正式に国交を結ぶ前からラトール王国で冒険者として活動していたそうだ。
「私には魔力神経が生まれつき少ないのです・・・・・・その為、村で成人の儀を終わらせてからそのままこの国へ来ました」
夕方から始まった食事会には、カイルを含めて彼が組んでいるパーティーメンバーと一緒に開催された。
一方のルイナとシズはまだレポートが書ききれて居ないようで部屋にずっと籠りっぱなしであり、アルノも同じエルフであるカイルを警戒してか部屋から出てこない。
なので、宿の一階にはカイルとその冒険者仲間が三人、そしてタクマを含めた五人で行われていた。
「魔力神経ですか・・・・・・やはりエルフの人だと多いのでしょうか?」
「はい、エルフでは平均的に魔力神経は13~16本あるとされています。魔法使いであればその倍ぐらいしょう」
「人族の魔法使いで10本ぐらいだからね、流石エルフって感じ」
タクマとカイルのやり取りに加わるのは、同じパーティメンバーの人間の女性だった。
赤茶色の髪を短く切りそろえた女性は、目元が鋭く、そばかすが特徴的だ。
名前をサリーといい、彼女はアルノと同じ弓を主体にして戦う狩人のようなポジションになっているそうだ。カイルとは他メンバーに比べて付き合いも長く、彼女も色々とエルフ文化について知っているらしい。
「そして私の魔力神経は3本になります・・・・・・生まれつき、魔力は多いのですが、これでは中級以上の魔法が使えません」
両手を広げて見つめながら話すカイルは、自分に魔法の素質が無いことをタクマに教えてくれた。
魔力神経が3本、となれば出来ることは精々火種を生み出すぐらいの魔法と身体強化魔法がせいぜいと言ったところだろうか?
タクマのような人間族であれば、特別少ないという訳でも無いのだが、全員が一流の魔法使いになれる素質があるエルフにとっては不名誉な事であるらしい。
基本的にエルフは生まれつき魔法神経が多く備わって生まれてくるそうなのだが、それでも極稀にカイルのような魔力神経が少ないエルフも生まれるそうだ。
「魔力神経が多く備わっていないだけで人権とか無いんですか?」
「そんな事はありません、寧ろ、憐れみの視線がキツかったのです」
生まれつき魔力神経が備わっていないから疎まれる・・・・・・ということは無かったようだが、それでも可哀想な視線を向けられるのは、時にして疎まれるよりもキツイものだという。
そこでカイルは国を飛び出して、20年近くラトール王国で身を隠しながら冒険者をやっていたらしい。
今では人間とエルフが正式に国交を結んだために、素顔を晒しているようだ。
「でも私は素晴らしい仲間を得ることが出来ました。魔法は使えませんが、それでもやり方は色々とあります」
「カイルは優れた闘拳士だ。エルフという長命な種族という事も有り、経験値が人間の比ではないな」
サリーとは別のパーティーメンバーの男がカイルについて語る。
「闘拳士・・・・・・ですか?」
聞き慣れない言葉に、タクマは首を傾げるが直ぐ様カイルから説明が入る。
「闘拳士はその言葉通り、拳で魔物と闘う冒険者の事です。正しくは専用のガントレットを装着して戦います」
「それは危険じゃないでしょうか?」
「そりゃリーチ的に剣や槍と比べたらね・・・・・・それでも、カインははエルフ特有の膨大な魔力量があるから戦えるのさ」
「あっ!!」
身体強化の魔法はシンプルに身体に魔力を循環させて肉体を強化する魔法だ。
魔力神経を必要とせず。ただ循環させる魔力の量によって効果が変わるため、魔力神経が少なく魔力が多い者にはうってつけの魔法と言える。
「だから身体を鍛え上げているんですね」
「はい、身体強化魔法は素の肉体によっても効果が変わってきますから」
タクマの勝手な想像では、エルフという種族は男女問わずに美形で華奢な体つきをしているイメージがあった。
ただそのタクマの想像もあながち間違いではないようで、先程、カイルについて語っていたパーティーメンバーの男性・・・・・・ログ曰く、ここまで肉体を鍛え上げたエルフはそうそう居ないのだという。
「魔拳のカイル、巷ではそう言われているな」
「ただ魔力バカが力いっぱい殴っているだけよ」
ログの言葉に対して、酒を飲みながらサリーがそう答える。すると、話を聞き入っていたメンバーも含めた全員がドッと笑いが生まれ、食堂の雰囲気が一気に良くなる。
テーブルに出されている食事は、酒に合うつまみ程度の軽食ではあるのだがこれがまた美味い。
最近では特に冷え込む事もあり、タクマ自身、和やかな場の空気もあって随分と酒が進んだ―――――
「・・・・・・なるほど、エルフの義理の娘ですか」
「こりゃまた難儀じゃの」
久しぶりに酒を大量に飲んだため、タクマは少しタガが外れてしまい、最近心に抱いている悩みをカイル達にぶち撒けた。
普通であれば会ったばかりの人達にこの様な相談は絶対しない、酒で酔ったせいか、それともカイルが同じエルフだからかは分からない、ふとタクマが気がついたときには既にルイナ達について話しており、今後の生活対して抱く不安を吐露していた。
そんなタクマに対して、カイルを含めたその場の全員が複雑そうな顔をして悩む、義理の家族・・・・・・それも種族が違うとなれば苦労するのは間違いなかった。
そこで、カイルは自身がエルフという立場からタクマにアドバイスをする事にした。
「まず初めにサンディアーノに生活を移すにしても、中央部はオススメしません、あそこは人間を毛嫌いする者も多く、住むなら南部・・・・・・やはりケミル周辺が良いでしょう」
「娘さんの事を思うなら、中央部に行かせてやりたいとは思うがの、聞けばタクマ殿の娘さんは魔法に秀でておるんじゃろ?なら尚更、中央部に行かせるべきじゃ」
エルフ族であるカイルは、平穏に余生を過ごしたいのなら、ケミル周辺の辺境で住むのが一番良いと言い、同じパーティメンバーであるログは、娘の事を第一に考えるのなら中央部に行かせて魔法使いにするのが良いという。
どちらもタクマの事を考えた良い意見であり、それぞれ長所と短所があるので悩ましい所だった。
そこで話を聞いていたサリーと同じ人間族の女性、見てくれからして魔法使いと思われる人物が小さく手を挙げて質問してきた。
「えっと、タクマさんの娘さんはどのぐらいの魔力神経をお持ちなのでしょう?・・・・・・人間の魔法使いであれば、10本程で問題有りませんが、エルフの魔法使いとなれば30本の魔力神経が無いと難しいと思われます」
「それもそうじゃな、親の欲目・・・・・・そうじゃなくても人とエルフでは勝手が違うしの」
魔法使いの女性――――名をリュミという物静かな女性は、魔法使いの話に移った所で会話に参加してきた。
彼女の得意分野なのか、タクマの娘はどれぐらいの魔力神経が通っているのか?魔法の適性はどれぐらいあるか?根掘り葉掘り聞かれるが、流石に酔っ払っているタクマでも娘たちの個人情報を喋ることは出来ない。
「リュミ、流石に失礼だぞ・・・・・・」
「あ、すみません!!」
リュミが言うには、エルフの魔法使いであれば最低でも20本の魔力神経が欲しいらしい、例え魔力神経が20本以下でも、複数の魔法適性を持っているとその魔法学校へ入学出来るそうだが、
それを聞いて、タクマは内心で少し焦りを覚えた。
(ルイナもアルノもシズも、皆複数の属性を持っていたよな・・・・・・これってやっぱり凄いことなんじゃ?)
本人たちはさして気にしていない様子だったが、ルイナもシズも多くの魔法適性を持っている。
特にルイナは希少な回復魔法も会得しているので、才能ある子だとは思っていたが、もしかすればタクマの考えは甘い可能性があった。
アルノだって彼らが言う
「ケミルまで行けば魔力神経や適性魔法を詳しく調べる事が出来るから、旅の途中で立ち寄ってみるといいかもしれません」
「基本的に魔力神経が50本あれば優秀な魔法使いといえるそうじゃ、タクマ殿の娘さんも多く魔力神経が備わってるといいの」
「はい・・・・・・娘たちにはそう伝えておきます」
タクマがこうやって食事をしていることに対して、カイル達は少し人見知りを少し気難しい性格をしたエルフ・・・・・・だと考えたらしい。
食事会の最後にはなるべく顔を合わせないように配慮する・・・・・・そんな言葉を貰い、この場はお開きとなった。
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