第31話 エルフの男
冬仕様の厚着のコートを着た一団は、コルビト村の入り口で何やらやり取りをしていた。これだけの大雪ということもあって馬は連れておらず、全員が巨大なバックパックを背負っている。
「外から・・・・・・ってことになると、やはりフーナさんの宿に?」
「そうなるかねぇ・・・・・・村でやっているのはウチぐらいしかないし」
そうなれば、フーナの宿屋で4部屋も借りているタクマ達は借りている部屋数を減少させなければならないかもしれない、勿論、早いもの勝ちというのはあるのだが、こんな雪が積もる厳しい環境で追い出すのも可哀想だ。
「もし彼らがフーナさんの所に宿泊するなら、今借りている部屋を纏めますよ、なので彼らが宿にやって来たら受け入れて上げて下さい」
「本当かい?すまないねぇ・・・・・・」
昨日の夕飯時に、研究用で別室を借りていたルイナはやりたい部分がある程度終わったそうなので、明日にでも引き払うという話もあったので、丁度タイミングがよかったとタクマは思った。
でも研究結果を纏める為にあと数日間は部屋に籠もる必要があるみたいなので、ルイナとシズにはレポートを書く用に部屋は用意する必要があるだろう。
アルノに関しては、日中の殆どをタクマの部屋で過ごしており、少し無駄になっていたので、この際は同じ部屋でも問題ないだろう。
「いえ、彼らもこの時期に宿に泊まれないとなるのは厳しいでしょうし、助け合いですよ」
タクマはそうフーナに伝えて、宿屋の裏手の雪かきをしに向かった。
「貴方がタクマさんですか」
「?・・・・・・そうですが、どなたでしょう?」
ルイナとシズの実験室の片付けを総出で行い、出たゴミを片付けようと宿の外にあるゴミ捨て場へタクマが向かおうと外へ出た瞬間、宿屋の入り口にはタクマよりも一回り大きな男が立っていた。
焦げ茶色の厚手のコートの上からでも分かるほど、立派な体格を誇る男は、タクマを見下ろす形で名前を呼んだ。
「いえ、一度直接お礼を申したいと思いまして」
パッと見だと目つきが悪く、不機嫌そうとも取れる表情を男は浮かべているが、本人曰く、元々この様な顔立ちであり決して不機嫌ではないと最初に伝えられた。
むしろ、タクマに話しかけてきた男は感謝の言葉を述べようと探していたらしい、聞けば男は先程コルビト村へ到着した一団のリーダーであるらしく、数日前から突如襲われた大雪の中でなんとかこの村にたどり着いたらしい。
そこで男はフーナの宿へ向かい、なんとか宿を取ることが出来たそうだ・・・・・・そのやり取りの際に、宿の主人であるフーナから今朝のやり取りを聞いたのだという。
「いえ、全然大丈夫ですよ、この天気なんです仕方ありません」
実直な人物なのか、そのまま感謝の言葉を述べるとともに頭を下げた。
そんな男に対して、タクマは少し驚いて頭を上げるように促して男の顔を見る。
すると―――――
「エルフ・・・・・・ですか・・・・・・」
「珍しいですか?」
焦げ茶色の髪からは、先端が尖った長い耳が髪の間からぴょこりと飛び出していた。
それを見た瞬間、タクマは男がエルフだという事に気がついた。それまで見上げる形で男を見ていたので気が付かなかった。
「タクマさんはここら辺の生まれではないのでしょうか?」
「はい、南の方から旅をしてきました」
エルフを見るのはルイナたち三姉妹を除けば初めてとなる。しかも男性となれば余計にだ。
そんなタクマの言葉に対して、エルフの男はふむ・・・・・・と顎を擦るように手を当てると、少し考えるような素振りを見せる。
「良ければエルフについて説明いたしましょうか?この先、この地方を旅するとなれば、私以外の同胞とも会うでしょうし・・・・・・」
「本当ですか?コチラとしては助かりますが・・・・・・」
男の申し出に対して、タクマは嬉しく思うが、彼には他に旅の同行者が居たはずだ。もし、彼らに迷惑を掛けるようなら無理をしなくてもいいが・・・・・・と伝えた所、男は問題ない、と短く答えた。
「どの道、この雪では碌に動けません・・・・・・むしろ仲間たちも暇つぶしと考えて一緒に話してくれると思います」
「それならお願いしてもいいですか?」
タクマの言葉に男は、はいと答えるとまだやることがあるので後ほど・・・・・・と頭を下げ、夕飯時にまた会いましょうと約束をした。
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