幕間 人とエルフが住む地
第30話 コルビト村
サレドの街の一件以降・・・・・・タクマ一行は特に事件に巻き込まれる事無く、順調に旅を続けていた。
今、タクマ達がいる場所はエルフの国・サンディア―ノの国境付近の高山地帯、海が面しているラトールと違い、山々に囲われたサンディアーノは平均して標高が高く、自然も豊かな事で有名だ。
そんな王国北西部の国境付近は、数年前からラトール王国とサンディアーノ王国との間に国交が樹立し、国際交流が活発化したことによって幾つもの交流都市が生まれた。
そんな交流都市には、外地に興味があるエルフたちが多く訪れており、その中でも中心都市と呼ばれる大都市・ケミルでは行き交う人の4割近くがエルフという多さだった。
そのため、サレドやアルマーレの街と違い、ルイナ達三姉妹は外套を外し顔を晒した状態でタクマと一緒に旅をしていた。
「うひゃあ、凄い雪だね」
「村の人達に話を聞いたんだけど、あと二ヶ月ぐらいはまともに動けないみたいだよ?」
大都市・ケミルの周辺にあるコルビト村と呼ばれる村で、タクマ達は突然の大雪によってゴール目前で旅を一時中断していた。
しんしんと降り積もる雪を見て、アルノはこりゃ動けないと語り、暇そうにしながらベッドにダイブした。
そのベッドは最近タクマが使っているベッドである。
一方のルイナとシズは元々、暇があれば読書をしたり魔法の研究を行っているので、大雪によって一時的に旅が中断したことに対してこれ幸いと言った様子で二人は滞っていた研究を行っていた。
加えて、村唯一の宿泊施設にはタクマたち以外に客が居なかったので、贅沢にそれぞれ一部屋ずつ借りていた・・・・・・大雪によって閉じ込められたここ数日間で、ルイナとシズの部屋は魔法の研究で怪しい実験器具で手狭となり、ルイナに至っては追加でもう一部屋借りる程だ。
そんな中で特に魔法の研究といった事に興味がないアルノは、タクマが借りている部屋までやって来て他愛のない話をしている。
そんなタクマもアルノと同様に暇を持て余していた為に付き合うことにした。
「――――そしてアリスは、姉の膝の上で起きました・・・・・・とさ」
「・・・・・・流石お父さん、私の知らないお話をいっぱい知っているんだね」
暇を潰すように、タクマは前世の記憶を頼りにして、アルノに不思議の国のアリスのお話を聞かせた。
タクマ自身、この童話を選んだのは偶然だ。特に熱心に読み込んだ話でもなく、小さい頃に読み聞かせで聞いたり、映画で何度か見たことがあるぐらいだ。
その為、話の所々を忘れてしまっており、アルノにとっては大変聞き取りづらかっただろうに違いないが、それでも彼女は楽しそうに、所々質問を挟みつつタクマの話を聞いていた。
「そりゃそうだろうね、このお話を知っているのは余り居ないかも」
「それは・・・・・・お姉ちゃんやシズとかも?」
タクマの膝の上に頭を置きながら話を聞いていたアルノは、タクマが読み聞かせた童話に対して、色々と質問を投げかけてきた。
そんなアルノの質問をぼんやりと答えながら、彼女の綺麗な髪を手櫛で解いていく、外で降り積もる雪も静かでのんびりした空気が流れていた。
「そうだね、僕以外に知っているのはアルノだけかも」
「・・・・・・そうなんだ」
どうして今になって、前世の童話をアルノに聞かせようと思ったのか分からない。
話すタイミングであれば、アルマーレで生活していた頃にいつでも出来たはずだ。
ふと前世の記憶を思い出した為か、それともただの気まぐれか・・・・・・
「ねーお父さん、まだお父さんだけが知っているお話ってある?」
「あるにはあるけど・・・・・・もうそろそろ夕飯時だしね、また明日にしよう」
他の話はあるの?と続けて催促してくるアルノだったが、時刻は丁度夕飯時の時間帯だった。
朝からずっと分厚い雲が空を覆い雪が降っているので変化が分かりづらいが、一区切りついた所でタクマのお腹は空腹を訴えている。
「分かった。じゃあ明日まで我慢する」
「うん、じゃあ2人を呼んでこようか」
タクマ達は自分たちで食事を用意する形で契約している。
食料は村の農家から直接買い付けて、宿では厨房を借り受ける形となっている。宿泊し始めてから一週間近く経つが、基本的に食事はルイナが担当しており、彼女が研究に熱中している際はタクマとアルノが一緒に作っている。
ルイナもシズも、タクマ達が直接呼びに行かないといつまでも研究に没頭している為、そろそろ食事の用意をしようと、タクマは宿の一階へ向かった。
「冒険者?」
アルノに童話を話してから数日、ずっと降り続いていた雪は収まり、久しぶりに青空が広がっていた。
久しぶりの太陽は白く輝き積もった雪に乱反射している。
早朝、雪かきをするべくタクマは外へ出ると、既に村の外では多くの村人達が雪かきを行っており、タクマが宿泊する宿屋の主人も朝早くから雪かきに勤しんでいた。
「フーナさん、手伝いますよ」
タクマよりも年上のフーナという女性は、御年で50歳を迎える人物だ。
平均寿命が短いこの世界において50歳というのは残り少なく、普通であれば店を子供たちに継いで余生を過ごすのが一般的だ。
ただフーナは子宝に恵まれず。長年連れ添った旦那も数年前に他界したために、今は一人でタクマ達が泊まる宿を切り盛りしている。既にガタが来てもおかしくない年齢でありながら、清掃は常に行き届いており、その優しい人柄は三姉妹からの評価も高い。
「ありがとうね、タクマちゃん」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
既に30歳半ばに入ったタクマにとって、今更ちゃん付けをする人は珍しいが、何かと隠し事の多かったこれまでを考えると、何も気にすることなく接する事が出来る相手は貴重だった。
早速タクマは倉庫から雪かき用の道具を取り出し、宿の出入り口から村の広場に向かって雪かきを始める。タクマ自身もそろそろ老いを感じる年齢となってきたが、フーナに比べればまだまだ現役だ。
相変わらずコルビト村の朝は寒く、真っ白い息が溢れるが、それでも雪かきをしていれば自ずと身体は温まる。指定された雪置き場に雪を運び、ある程度目処がついた所でタクマは雪に埋もれたコルビト村を見渡してみると、村の外から見覚えのない一団がやって来ていた。
「あらこの時期に珍しい、ケミルからの冒険者じゃない」
タクマと一緒に雪かきを行っていたフーナは、村の外からやって来る一団を見てそういった。ケミルといえばこの一帯で最も栄えている大都市の名前だとタクマは思い出した。
しかし、この時期とフーナがいうように、村の外は雪で覆われた銀世界が広がっており、遠出をするには過酷な時期だ。
それでもアルノは身体が鈍らないように・・・・・・といって、森へ入って冬眠中の動物を狩ったりしているが、それはアルノだから出来る芸当だ。
その一団は、厳しい環境を耐えるためにタクマが着ている防寒着よりも更に分厚い毛皮のコートを着ており、足元は雪で沈み込まないように藁靴に付けるかんじきよの様に対策も施されていた。
それでも何故、こんな時期にコルビト村へ訪れるのか・・・・・・タクマは面倒事が起こりそうな予感をヒシヒシと感じていた。
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