第27話 ロゼの苦悩と三姉妹の怒り
「何だこれは・・・・・・」
東門で暴動が起きている・・・・・・そう報告を受けたロゼは、完全武装で現場へ急行した。
ロゼへ報告しに来た隊員は、さもバケモノを見た・・・・・・と言わんばかりに、顔を青白くして冷や汗を掻きながら報告する。
街の領主と交渉が上手く行っていない・・・・・・それはロゼも承知していたが、それでも暴動が起きるとはただ事ではない、報告をしに来た隊員を見る限り、被害を受けているのは王都の騎士団側だというのはすぐに分かった。
「全く、あれほど現地の警備隊とは衝突するなと再三伝えたのにッ!!」
今回の一件において、最高責任者はロゼであるが、彼女自身、今回の一件はコチラが全面的に悪いと考えていた。
下手をしなくても、第三騎士団が行っているのは内部干渉であり、サレドの街を治めるファスト男爵が不快感を示すのも無理は無い。
だからこそ、ロゼは粘り強く交渉を続けていたのだが・・・・・・そんな努力も水の泡となってしまったようだ。
東門には副隊長のバーンが控えているはずだが、彼は実力はあるのだが、目下の者に対して高圧的な態度を取る気質があり、上層部から命令された職務にこそ忠実ではあるのだが性格に難がある。
実力だけで言えば隊長であるロゼにも匹敵するのだが、この性格が災いして未だに昇格は望めていない。
その為、バーンは自分を差し置いて十番隊隊長に就任したロゼのことを恨んでおり、命令無視・・・・・・とまではいかないにしても自分に都合が良いように曲解する癖があった。
今回の衝突も十中八九、バーンの仕業なのだろう、その理由はただの性格ゆえのものなのか、それとも上司であるロゼを失態させるためにワザと起こしたのか・・・・・・
少なくとも、ロゼにとって最悪の状況であることは間違いなく、立ち眩みにも似た軽いめまいを感じた。
「・・・・・・」
傍に仕えていた部下を引き連れて、現場へ急行したロゼは門の周辺で血だらけの状態で倒れている隊員たちを見て唖然とした。
うめき声、とも言えない唸り声のような声を上げながら、無傷の警備隊の人間に部下たちは担架で運ばれていた。
「一体、何が起きたの・・・・・・?」
ロゼ自身、直接は言わないが本音だと自分の部下たちが街の警備隊を一方的に叩きのめすと予想していた。
実力では王都の騎士団と地方の警備隊では天と地ほどの差が存在しており、彼らよりも実力が上だと断言できるのはサレド騎士団の騎士団長ぐらいだろう。
地方の騎士団が弱い分、その長となる騎士団長は王都でも上位に位置する実力者が多く、報告しにきた隊員がバケモノと称する理由もそれだとロゼは考えていた。
それでも、東門に待機していた20名ほどの隊員が全滅するのは流石にやりすぎだ。騎士団長とはいえ、普通は王都との摩擦を気にするだろうし、2~3人叩きのめされたとしてもコチラが悪いので不問にしようと考えていた。
「おぉ、第三騎士団のお嬢ちゃんか」
「ラウ騎士団長!!これは一体ッ!?」
そんな凄惨な現場を目の当たりにしていると、ロゼの横から一人の男が話しかけてきた。
ラウ・グレンサー、この街を守護するサレド騎士団のトップであり、ロゼやバーンに匹敵する実力を持つ男性、まだ20歳を過ぎたばかりのロゼと違い、ラウは30歳後半という経験豊富なベテランの騎士団長だ。
「先に言っておくが、お嬢さんの部下を叩きのめしたのは俺じゃねぇぜ?」
「ッ!?・・・・・・では誰が!?」
王都の騎士団の一部隊を半壊させられる実力者はそうそう居ない、例え地方の騎士団であっても、平均的な冒険者よりも実力があり、王都の騎士団であれば更に上だ。
「お嬢ちゃんの部下を俺が叩きのめしたとしても、あのいけ好かない副隊長はどうする?俺は無傷だぞ?」
「それは・・・・・・確かに・・・・・・」
現場の状況を詳細に記した報告書では、東門に居た20名の内、背骨を折られるなどした重体・重傷者は17名、そしてバーンを含めた3人が死亡している。
死亡した3人の内の2人は時間経過によって死亡したようだが、副隊長であるバーンに関しては、こめかみを撃ち抜かれるように頭部に穴が空いて即死したとある。
周囲に居た警備隊に関しても似たような証言をしているそうだが、犯人に迫る核心の部分は話してくれない・・・・・・それまでに起きていた軋轢のせいなのか、随分と非協力的な為だ。
ラウが言うように、バーンも相手としたとなれば無傷で居るのは難しい、彼の虚を突いて一撃で仕留めたのならまだ分かるが、周囲には彼を信奉する部下も居たとされる。
そうなれば奇襲は難しく、撃ち抜いたとあれば遠距離攻撃によるものだろう、ラウは剣の達人だと聞くが弓や魔法に長けているという話は聞かない。
それら状況を鑑みれば、ラウ騎士団長がバーン副隊長を一方的に倒すのは不可能であり、周囲の証言も加えて、ロゼの知らない第三者・・・・・・民間人が王立騎士団の隊員を殺したことになる。
それだけの実力者が本当に市井に埋もれているかは別として・・・・・・
ロゼは現場を確認したところで宿へ戻った。
サレドの街の西側にある大口の商隊向けに借り出されている三階建ての建物には、所狭しと騎士団の装備が保管されており、一階部分にはロゼの執務室も存在した。
王都にある執務室と違い、殺風景でインテリアすら置かれていない場所ではあるが、来客用のソファーを揃えていたりと最低限の機能は保有している。
そんな執務室で、ロゼは王都へ向けて報告書を書いていた。
「本当に頭が痛くなるわ・・・・・・」
現地の貴族と険悪になっただけならまだしも、隊は半懐し、作戦も続行が危ぶまれている状況だ。
バーンや隊員を殺害した犯人は行方を眩ませており、その場に居た警備隊も協力を仰げない。
もし、バーンを殺害した犯人がこの場へ戻ってきたら?当然、対処するのは隊で一番の実力者であるロゼだろうが、バーンを瞬殺するほどの高い実力を持つ相手にロゼ一人の力で対処できるとは到底思えなかった。
「援軍を仰ぐべきか・・・・・・いや、無理ね」
速報としてすでに王都には軍専用の特急便で報告書を送っているが、届くのはどんなに早くても三日後、上層部の考え次第によってはもっと掛かるだろう。
その間に、犯人は遠くへ逃げている可能性が高く、援軍を呼んだとしても捕縛はおろか、本来の目的である
ただ、バーンが殺害されたということに上層部は衝撃を受けるはずだ。性格に難があったとは言え、本来であれば彼は隊長クラスの実力を持つ。
そんな人間が殺害され、隊も半壊したとなればロゼが帰還してもある程度話は聞いてもらえると思った。
「・・・・・・まぁ、降格はするだろうな、軍法会議行きは無いだろうけど」
それでも責任者であるロゼに追求が行かないと言うとはまず無い、こう見えてもロゼは貴重な人材であり、おいそれと替えが効かない。
それでも降格は免れないだろう・・・・・・これで犯人を捕まえたのならまだ救いはあったのだが。
「誰?」
自分の行く末を想像しながら報告書を作成していたロゼの前に人影が一瞬映った。
いつの間にか執務室のドアが開いており、薄暗い通路が見えている。
ボーっと意識を外していたとはいえ、ドアが開いた事に気が付かないのはまず有り得ない、それほど意識を外していたかとも思ったが、先程、一瞬だけ人影を見たことがより一層ロゼの疑念を産んだ。
その瞬間―――――
「むぐぅッ!?」
机の下に隠してある剣を取り出そうとした瞬間、ダン!!とロゼは強く壁に押し付けられてた。
口元を抑えられ、背中を強打したロゼはくぐもった声を出すが、口を抑えられているため、助けを呼ぶことも出来ない。
(誰っ!?)
いきなり襲ってきた相手は、剣を抜こうとしたロゼよりも疾く、片腕だけでロゼを壁に押さえつける。背中を強打して一瞬肺の空気が抜けるが、抵抗する暇もなくロゼはぶらんと足が宙に浮き、完璧に押さえつけられた。
これほどの力・・・・・・どんな怪力男かと思えば、ロゼを押さえつけている腕はまるで争い事を知らない手弱女のような白く綺麗な細腕であり、どうやって片腕でロゼを押さえつける力が出ているのか分からなかった。
半壊したとはいえ、臨時の拠点にはまだ数十人の隊員が居るはずだ。来客の対応や報告をいち早く聞くためにロゼの執務室は一階に設置されている。
そのため、比較的出入りは簡単だが、入り口には数名の隊員が待機しているのでそのまま素通りする事は難しいだろう。
意図的なのか相手は口元を抑えているだけなので、ロゼは鼻でなんとか息をすることが出来る。
雰囲気からしてもロゼを殺すような意図は無いと思えたが、昼間の一件もあるので安心は出来なかった。
「お前たちはやっては行けない事をした・・・・・・」
ロゼの口元を抑えながら、相手は一方的に聞かせるように話し始めた。
その声はやはり若い女性の声であり、人によっては少女とさえ感じるかもしれない、もしかすればロゼと同い年か年下の可能性もある。
その声から発せられた内容は、決して触れては行けない物に手を出した事、ロゼ達が市内で行っていた事に対しては特に怒っていないが、自分たちの大事にしている物を傷つけた事に対する報復だと語っていた。
(その物って何なのよ!!)
人によっては、大量殺人を犯してでも護りたい人や物は存在する。ロゼには共感できないが、自分の命よりも大切な物を持っている人は一定数存在しており、そんな相手を怒らせたら非常に厄介なのはこれまでの経験でロゼは知っていた。
大切な物、それが物か者かは分からない・・・・・・勘ぐるのであれば今、ロゼ達が探している
根拠は無いが、
死霊を扱うネクロマンサー達からすれば最上級のアイテムであり、今も尚、他国では死者の魂を封じ込めて他人の身体に移す・・・・・・なんて実験も行われているぐらいだ。
人によっては亡くなった大切な人を蘇らせるために
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