第25話 一触即発

 タクマは大量の食料を荷車に乗せて東門へ向かう。


 傍にはルイナ達ではなくリアが付いている。二人の関係は街を移動する商人と護衛役の冒険者であり、三姉妹は既に街を抜け出して東門の周辺に待機している。


 奇しくもタクマ達が向かっている門は、街へ入る際に厳格な衛兵とキサカと出会った場所だ。


 元々東門は特に人の出入りが多いので、東門だけ駐屯所のような施設が存在してある。加えて門自体も大きく立派だ。


 綺麗に整備された石畳を馬が歩き、タクマは手綱を握る。本来であれば馬に騎乗するのだが、荷車には大量の食料を乗せている関係上、馬の横に並んで歩いている形だ。


「書類は私が提出するから、タクマはそのまま待ってて」

「うん、わかったよ」


 普段であれば賑わいを見せているであろう、東門周囲の通りは閑散としている。疎らに荷物を背負った人達が東門の方から歩いてくるが、それでも人通りは少なく感じられた。


 そんな事を思いながら、タクマとリアは多くの兵士達が集まる東門の直ぐ側までやって来た。検査場には街の外からやって来た商人が数組訪れているものの、それ以上に周囲に集まっている兵士たちの数が多い。


「あの深い青色の服装をしているのが王都の騎士団なのかな?」


 そんな東門の検査場は綺麗に二種類の格好をした人達に別れていた。一つは以前タクマが街へ入る際に出会ったキサカ達の警備隊の方々。


 もう一つは深い青色の布地に濃い目の革装備を身に着けている一団だった。両者は検査場の右側左側に綺麗に別れており、それぞれが列に並んだ商人の検査を行っている。


「すまない、次の街へ行きたいのだが・・・・・・」


 東門の検査場では街の中へ入る商人は多いが、タクマのように街の外へ出ようとする商人はかなり少ない、加えて王都の騎士団が検査する列に至っては待機列すら存在しなかった。


(やっぱり街の警備隊に検査して貰いたいよね・・・・・・)


 タクマの前に立ったリアは、ギルドから発行された書類を提出して、衛兵達に荷車の中身を検査するよう話を付けた。


 タクマが保有する荷車には日持ちの良い食料や調味料しか無いので心配はいらない、チラリと東門の外側を見てみれば、既に街の外へ出たルイナとアルノがタクマの方を心配そうに見ていた。


 一方、シズはまだ街の内側で警戒をしている。


「うむ、問題ないな・・・・・・通っていいよ」

「ありがとうございます」

「いや、こちらこそ済まないな」


 検査する対象自体が少ないため、タクマの荷車は数名の衛兵達によって調べられた為、検査自体に掛かった時間はかなり少ない。


 書類もギルドから発行された正式のものであり、疑われる部分は皆無だったので十分そこらでタクマ達は街の外へ出られる事となった。


(意外とアッサリ出られたな・・・・・・)


 街へ出るのが制限されているので、それなりに時間が掛かるかと思っていたのだが、いざ検査を受けてみると意外とアッサリ事が終わった。


 少し拍子抜けしつつも、ここで疑われたら非常に面倒なことになるので、タクマは表情を変えずに澄ました顔をして馬の手綱を引き、検査場を抜け出そうとした――――――その時だった。


「おい、待て・・・・・・何故お前たちは勝手に街の外へ出す許可を出しているんだ?」

「何故って、これが俺達の仕事だが?」


 タクマとリアが検査場のゲートを抜け出し、丁度街の外側へ足を踏み入れた瞬間、後ろからタクマたちを止めようと近づいてくる集団が居た。


 その集団は、深い青色の装備を身にまとった王都の騎士団の人間たちであり、不味い、とタクマが内心で思っている中で、その間に入り込むように数名の衛兵達が間に割り込んできた。


「現状、我ら騎士団の調査が終わっていない段階で、街に滞在する人間を外へ出すことは出来ない、お前たちはコチラの指示に従って貰おう」

「俺らの上司はサレド騎士団、もしくはファスト男爵だ。お前らじゃねぇよ」


 一触即発の状況、両者はそのまま殴り合うんじゃないかという距離まで近づいて、互いにガンを飛ばしている。


 周囲に控える仲間たちも腰に携えている剣の柄に手を軽くかけていつでも抜剣できるよう用意をしていた。


 ここまで険悪な状況なのか・・・・・・と思いつつ、タクマはどうすればいいのか悩んでいると、途中で割り込んできた衛兵の一人がタクマの方を向いて早くこの場から立ち去るよう手を振り払って促した。


 それを見てタクマは軽く会釈をして馬を進めようとした―――その瞬間だった。


「っツ!?」

「勝手に動くな、次は無いぞ?」


 急いでその場から立ち去ろうとしたタクマの頬を軽く裂いたのは、正面で警備隊とガンを飛ばし合っていた隊長格の男が放った魔法だった。


 男が放った魔法は、状況から考えて風の魔法だろうか?鎌鼬のように風が刃のように鋭く飛び、タクマの頬を裂いてツーっと血が垂れる。


「てめぇ!?」


 タクマは受けた痛みよりも先に大した魔法制御だな、と半ば感心していると、先に声を荒らげたのは男の正面で相手をしていた警備隊側の男だった。

 無視されたせいなのか、それとも簡単に市民に手を上げる男に怒ったのか分からない、先程までギリギリで踏みとどまっていた苛立ちが頂点に達したようで、剣を抜いていた。


「いいのか?たかが街の警備兵風情が我らに勝てるとでも?」


 剣を抜いた警備隊の人間たちを見て、男はフッと笑うとゆったりとした動きで刺突剣のように細い剣を抜き出した。


 後ろで構えていた部下達も、既に剣を抜いておりいつでも戦えるという状況となっていた。


「タクマ、少し下がってて」


 抗う術を持たないタクマにとって、かなり危険な状況の中で前に出たのは、荷車の反対側に居たリアだった。


 リアも既に剣を抜いており、いつでも戦える状態となっていた。だが、額からはうっすらと汗が滲んでおり、彼女自身、緊張している事が見て取れる。


「流石に王都の騎士団相手だと分が悪い、一瞬だけ私が相手を止めるからその隙に逃げて」


 そう言うと、リアは騎士団の男たちを見つつ、スッと小さく指を差す。


 その場所をタクマは見てみると、既に馬から荷車が取り外されており、いつでも馬に騎乗して逃げ出せる準備が整っていた。


「・・・・・・大丈夫?」

「私もタクマが逃げたらすぐに離脱する」


 リアはそう言い残すと、タクマを護るように前に出て様子を伺う。


 そんなリアを見て、騎士団の男はフンと鼻を鳴らして左手を挙げる。


「隊長にはこう伝えろ、警備隊の人間が不審な人物を意図的に逃がそうとした為、止むを得ず戦闘になった・・・・・・と、諸君、この場での戦闘を許可する」

「ほざけっ!!」


 騎士団の男が言うように、王都の騎士団と街の警備兵では実力の差が天と地ほどあるのだろう。衛兵の一人が咆えて気勢を上げるが、騎士団側の男たちはニヤニヤと笑みを浮かべていた。


 そんな時だった。


「カェッ・・・・・・!!」


 騎士団側の隊長格の男が挙げた左手を振り下ろし、戦闘を開始しようとした瞬間、横から飛んできた鋭い一閃が男のこめかみの部分を見事に貫いた。


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