第23話 領主の噂
サレドの街にある冒険者ギルドは、主にG~Dランクの冒険者達が集まる一般的な地方ギルドの一つだ。
ギルドの建物は街の中心街の一角に連ねており、一階部分は酒場も兼ねているので、冒険者だけでなく酒場の客として街の住民たちも多く集まっていた。
「・・・・・・随分と集まってるね」
キィィ、とギルドの扉を少しずつ開けて中を見てみると、昼間であるのにギルドに併設されている酒場は大賑わいを見せていた。
中には深酒によって大分デキている人間もおり、酒場の横には横たわるように気持ちよさそうに眠っている男も居た。
現在では、ある程度規制が解除されつつあるとはいえ、未だ冒険者や緊急な用事が無い街の住民たちは街の外へ出ることが出来ない。
つまり、サレドの冒険者達は現在仕事をしたくても仕事が出来ない状況であり、こんな昼間から飲んだくれているのも仕方のない事だと言えた。
そんな酒場をタクマは通り過ぎ、出入り口から奥にある受付近くまで向かう。
タクマから見て左側には大きな掲示板も置かれており、そこには幾つかの紙が貼られているが、周囲に人はあまり居ない。
「やぁ、リア」
そんな掲示板の横で壁に持たれかがっている赤茶色のくせっ毛が特徴的な女性冒険者にタクマは話しかけた。随分と砕けた口調ではあるが、彼女とは何回か接触しており何度か依頼を受けてもらった事がある。
「まさかこの街でタクマの旦那と会うとわね」
タクマの声に反応したリアは、気さくな形で挨拶に応える。茶色の革製のグローブを態々外し、タクマが差し出した手に応える形で握手をして、久しぶりの再会を喜んだ。
「僕もだよ、まさかリアがサレドの街に居るなんてさ」
「私は護衛任務のついでさ、そのまま帰ろうと思ったらあの一件があったんだよ」
リアはタクマと同じ、アルマーレ出身の冒険者だ。
先日会ったキサカと違い、同じ孤児院の出身という訳では無いが、タクマは商人でリアは冒険者、お互いの仕事からして何度か顔を合わせて依頼を出したり依頼を受けたりと行った間柄であった。
「で、態々私に指名依頼って形でやって貰いたい依頼ってなんだい?」
「まぁ、ここで話すのもアレだから場所を移そうか?」
タクマとリアの周囲には酔っ払い達が楽しそうに騒いでいた。そんな中で依頼の話をするのは難しいと思い、ギルドからほど近いレストランに足を運び、少し早い昼食ではあるがタクマが食事を奢るという形で二人は場所を移した。
「―――――なるほど、これは私向けの依頼だね」
「こればかりは情報屋とかじゃ無理だからねぇ・・・・・・」
ピザのような料理を切り分けて食べながら、タクマはリアにお願いしたい依頼の内容を話す。
「確かに、今の現状だといつ街の外へ出れるのか分からない・・・・・・だから隙を見て街を脱出したい気持ちは分かるけど、危ないよ?」
「大丈夫、それなりに自信はあるからさ」
アルマーレ出身の女冒険者リアに出す依頼とは、現在、サレドの街を封鎖している衛兵と騎士団の兵士達の人数の調査だ。
これは朝・昼・夜・深夜でどのように人員が移り変わるのかまで含まれており、これら全てを調べようと思うとかなりの時間が必要になる。
加えて、門の周辺でただ調べるとなれば衛兵達から不審に思われる可能性があるので、それなりに隠形術に秀でた人物じゃないと難しい。
そうなれば、情報やであるキリに頼むのも難しかったので、タクマはソロ冒険者であるリアに依頼を出すことにした。
「まぁこのまま仕事無し、っていうのもアレだから良いけどさ・・・・・・私も頃合いを見て抜け出そうと思っていたし」
「リアも?」
タクマの言葉に対してリアは小さく頷いた。
「王都の騎士団がいきなり街に入って調査し始めたからね、領主であるこの街の男爵様はかなり怒っているみたいだよ・・・・・・随分と衝突しているらしい」
「それは僕も聞いたね」
サレドの街を支配するファスト男爵は、独立心が強いというか、外部から干渉を受ける事を特に嫌う人物だというのは有名だ。
先日、タクマがユリアス伯爵直筆の手紙を持っても街へ入れなかったように、例え相手が上位の存在であっても噛みつくことを躊躇わない、まるで野良犬のような気質は街の住民どころか、アルマーレに住んでいたタクマの元にさえ届くことから相当に難儀な性格をしているのだと思われる。
「サレドの騎士団長も強いらしいけど、地方の騎士団が天下の王立騎士団には流石に勝てないからねぇ・・・・・・実際に、街の門の周辺では争いも起きているみたいだよ」
「一枚岩では無いってことか」
リアは冒険者ではあるが、数少ない女性の冒険者でありながらソロで活動しているため、処世術というべきか、情報屋顔負けの情報収集能力を持っている。
彼女が言うには、酒の席でただ聞いただけだと言うのだが、サレドの領主に関する話をこの場で聞けたのは運が良かった。
「だから一緒に争い事が起きそうな場所も一緒に探してみる。馬車を連れているとなれば、隠れて移動するのは難しいし・・・・・・なら騒ぎに乗じて脱出できたらそれが一番でしょ?」
「いいのか?やる事増えちゃうけど」
「問題ないよ、私もこの街には少し飽きてきたしね」
サレドの街に来て、そろそろ二週間が経つ。
タクマは勿論、向かい側の席で料理を食べているリアですら、ここまで街に留められるとは思いもしなかっただろう、人によっては次の仕事が決まっている事もあるだろうし、混乱に乗じてでも無理に街を脱出したいという考えの者は多いはずだ。
仕事が増えるけど大丈夫?とタクマはリアを心配するが、本人は特に気にした様子もなく、ピラピラと軽く手を振りながら答えた。
「お父さん、女性の人と会った?」
良い情報を手に入れた。まだ制限が解除される見通しのない中で、色々と話しが決まりウキウキ気分で三姉妹が待つ宿へ戻ったタクマは、開口一番、タクマに抱きついてきたシズにそう言われた。
「た、たしかに女性の人と会ってきたけど、別にやましいことは無いよ?色々と情報を集めてきたんだ」
「・・・・・・そう」
前世と違って、近づいただけで男性や女性と分かるような香水などは存在しない。
臭い消しという意味では存在するのだが、あの場においてリアがその様な強烈な匂いを放つ物は身につけてなかったし、一緒に居たタクマも感じなかった。
それでも、シズは抱きついた瞬間にタクマが女性と会ったことを見抜いた。
まるで浮気を疑われているみたいだな・・・・・・と思いながらも、真実としてやましいことは全然無かったので、タクマは釈明を兼ねて今日集めてきた情報を三姉妹に共有する。
未だ釈然としないシズを筆頭に、ルイナもアルノも何処か目が据わったようにタクマを見つめており、本当にやましいことをしていなくても、何処か居心地が悪くなる。
そんな中でタクマは、話題を変えるように街で集めた情報を三姉妹伝える事にした。
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