第22話 情報屋

「あ、タクマさんじゃないですか!」

「おはようございます。キリ」


 昔こそ、簡単な読み書き計算を三姉妹に教えていたタクマだが、今ではその勉学すらもルイナ達の方が上だ。

 彼女たちの知識は、既に前世で一般的な教育を受けたタクマが分からない領域にまで到達しており、今も尚、暇があれば小難しい内容が書かれた書物を手に取っているぐらいだ。


 そんな中でタクマが彼女たちよりも優れている利点といえば、人間であることで街中を歩いても不審に思われないという事、そして長年の間、商人として培った経験による人付き合いの良さだろうか。


 ルイナ達が山で異変の原因を解決している間、殆どの時間を甘えん坊期に突入したシズの世話をしていたのだが、それ以外でもタクマ個人の時間は充分にあった。


 タクマ達が泊まっている部屋には、盗人たちもびっくりするほどのルイナお手製の防犯魔術が組み込まれており、シズが昼寝をしている間も安全に外出することが出来る。


 そのため、タクマはシズが眠っている間を見計らって何度かサレドの街に繰り出しては色々と情報を集めていた。


 そんな街で情報を集めていたタクマは、様々な人を伝ってキリという若い少年と知り合うことが出来た。


 彼はサレドの街に関連した情報を集めている情報屋の仕事を営んでいる少年であり、未だ15歳と若いが知る人ぞ知る優れた情報屋として名が知られている。


「何か情報仕入れること出来た?」

「はい!色々噂を仕入れてきましたよ!!」


 タクマの問いに対して、キリは元気よく返事をした。


 情報屋の商品は、勿論その情報になるのだが、商品となる情報には1~10のランク付けがされており、一番ランクの低いランク1の街でのよく聞く噂程度なら情報なら数百ギルから、一番高いランク10の機密情報クラスだと数百万ギルで取引されるそうだ。


 ただ、このランク付けは情報屋によって大きく変わるそうで、Aの情報屋であればランク7の情報が、Bの情報屋ではランク3の情報だったりとあるそうだ。


「今日の朝に仕入れたばかりなので何とも言えませんが、ランク4相当の情報を仕入れましたよ、昨日、タクマさんが購入した王立騎士団についての追加情報です」

「じゃあその情報を聞かせてもらえるかな?」


 人によって大きく値段が変わる情報屋の業界だが、キリの場合は高くもなく安くもない適正価格で販売する情報屋であり、情報の確度という意味ではサレド一とも言われている。


 彼の場合は、情報を仕入れると自分の足で裏取りをしたりなど、情報の正確性という部分を大切にしているらしく、今回仕入れた情報も自分で確認したものだという。


「では7000ギルですねー」

「はい、余りはチップでいいよ」


 タクマはアルマーレの街を出る際に、自身が所有していた店や商品を全部売り払った。

 その額は、タクマ一人でそこそこ贅沢な暮らしを一生出来る程の額であり、また別の地でもすぐに商売をすることも出来る程の大金だ。

 なので、タクマは現在ちょっとしたお金持ちであり、一枚で1万ギル相当の大金貨を数千枚も所有している。


 その内の大半はルイナが保有する異空間に収納されているが、タクマは普段から自由に使えるお金として大金貨を数枚持ち歩いていた。


「有難うございます!!では、情報を教えますね」


 情報料の余りは、そのままチップという形でキリに渡すことにしている。


 これはタクマが騎士団の情報を集めているという口止め料に加えて、タクマに優先して情報を流すという意味合いも込められており、決して安くない額だが、必要経費だとして情報を購入する際に、タクマは幾らかのお金を余分に渡していた。


 昨日と同じように大金貨を懐に入れて、キリは使い慣れた手帳を取り出し、パラパラとページを捲る。


 色々と付箋が貼られ、パッと見てもサレドの街に関する情報が幾つも書かれていた。


「えーとですね、サレドの街へやって来た王立騎士団の詳細が分かりました。今回、街の異変の対処に訪れた騎士団は、王立第三騎士団の十番隊と呼ばれる部隊ですね、隊長はロゼ・ヘスタールと呼ばれる女性で、今回が王都外の初任務になるそうです」

「へー、随分と早く来ていたんだね」

「そこがおかしいんですよ、名目上、サレドの異変の解決及び調査となっていますが、王都からサレドまでは少なくとも一週間以上は掛かります」

「それは確かに・・・・・・少しおかしいね」


 サレドの街に異変が起きたのは、今から二週間ぐらい前からだ。


 そしてオーガの変異種がサレドの街に現れ、シズに討伐されたのが丁度今から四日前ぐらいなので、山へ調査に行ったルイナの情報と一緒に合わせて考えてみると、王都からやって来た騎士団はオーガの変異種が現れる前から王都を出立したということになる。


 オーガの変異種が現れ、サレドの騎士団では対処できないから王都から派遣された・・・・・・というのなら不自然ではないのだが、日程的に王立騎士団は少なくともオーガの変異種が現れる二日前ほどから行動を開始していたということになる。


 それをキリは少し不自然だと答えた。


「第三騎士団は、サレドの街を含めた王国西部を守護する騎士団です。本来は地方の騎士団では討伐できないような魔物の討伐・・・・・・なのですが、現在、第三騎士団は何やら街で調査をしているみたいなんです」

「・・・・・・こちらも気になるね」


原因を解決したら、普通はそのまま王都へ帰還するはすだ。


しかも、第三騎士団は魔物討伐が主な役目の騎士団となれば、オーガの変異種が討伐されたあとも街に居残るのは少々おかしい。

明らかに、サレドの街へやって来た王都の騎士団は別の目的を持っていることが予想できた。


「こちらも情報が集まり次第お伝えします。追加の情報はそのまま追加料金無しで大丈夫ですよ、タクマさんが泊まっている宿はどちらに?」

「山風亭っていう所だよ」

「なるほど、あそこは外部から来た人には特にオススメの宿屋です。いい場所を見つけましたね」


 サレドを中心に活動する情報屋というだけあって、タクマ達が泊まっている宿も知っているようだった。


「では、情報が集まり次第、タクマさん宛てに手紙を送らせて頂きます。多分、明日には何かしら分かると思いますよ」

「それで頼むよ、まだサレドの街に滞在する予定だからね」


 タクマはキリと約束を取り付けると、そのままキリの店から冒険者ギルドの方へと足を運んだ・・・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る