第15話 魔物の大群
カンカンカン!と金属を叩く音が、サレドの街中に広がる。
これは、街に異変を知らせる音であり、朝市で商人達の話を聞いて出立の準備を勧めていたタクマ達にもその音は聞こえてきた。
「異変?」
「この音の回数はレベル2の警報です。街に何かしらの危険が迫っているようですね」
三十年以上もタクマはこの世界で生きているが、街に危険が迫っている事を知らせる警報を聴くのはこれが初めてだ。
街に危険が迫っている・・・・・・それだけ聞けば一大事にも思えるのだが、姉妹たちはおろか街の人達も音を聞いて驚くことはあれど混乱することはないようだ。
「レベル2であれば冒険者でも対処可能なものです。そう心配する必要は無いでしょう」
ブルルルとやっと外に出られると言わんばかりに唇を震わせる馬に轡を付けながら、レイナは街の警報の段階を教えてくれる。
「そうなのか」
「はい、レベル2であれば昨日倒した狼の群れが街の周囲に現れたぐらいでしょう、騎士団が出てくるかもしれませんが街に直接な危険は無いかと」
街の危険を知らせるレベルは、五段階まであるそうで、レベル2であればEやDランクといった少し強めの魔物が周囲で発見された程度だという。
大きな都市であれば警報すら鳴らない事も多く、住民が街の外へ出るのは危険だが、特に封鎖されるといった処置は行われない。
なら安心だな・・・・・・そう思った瞬間だった。
『プオオオオォォォォ........』
先程の鉄を叩いたような音と違い、次は汽笛のような音が街中に鳴り響いた。
次はどうした?と思えば、レベル2の警報の時は対して気にしていなかったルイナは続けてなった警報を聞いて一気に警戒心を強めた。
「・・・・・・次は不味い感じかな?」
「はい、これはレベル4の警報です・・・・・・アルノ!!」
「はいよ!!」
レベル4は街に甚大が被害が起こる可能性がある強力な魔物が近づいている事を知らせる段階だ。
流石にレベル4の警報ともなれば、街の人達も騒ぎ始めており、全員が街の外で何が起きているんだと話し始める。
そんな中で、ルイナは次女のアルノを呼んで何やら目元を触り始める。
「アルノに私の使い魔の視界を共有する魔法を掛けています。これで一度、街に近づいている脅威を排除します」
ルイナはこねこねとアルノの目元を揉むように触る。すると、アルノの翡翠の瞳は青白く輝き、ボーっと虚空を見ていた。
「そのまま私が使い魔を街の上空に飛ばします」
そう言ってルイナは昨日、森を調べる際に使用した『風の疾鳥』と呼ばれる鳥型の使い魔を一匹召喚する。
バサッ!っと鳥の使い魔は、一気に街の上空へ向かって羽ばたき、ルイナとアルノに視界を共有する。
「これは・・・・・・」
使い魔と視界を共有して、街の上空を確認するルイナは、少し驚くような声を出した。
「どんな感じかな?」
「オーガの集団が一直線にこの街へやって来ています。一番奥には・・・・・・レッドオーガも居るようです」
レッドオーガ、その名の通りに全身が血に濡れたような体色をしているオーガの変異種だ。
詳しいランクは知らないが、出没すればその一帯が一時的に封鎖されるぐらいには強力な魔物だという事は聞いている。
「他にもゴブリンの大群とオークも居ますね・・・・・・一体どうして?」
「お姉ちゃん、取り敢えず先制攻撃やってみる?」
「そうね・・・・・・大丈夫?お父さん?」
「問題ないよ、戦闘に関しては任せているからね」
男として非常に情けない事ではあるが、戦闘面に関しては彼女たちに任せっきりなので俺はなるべく迷惑を掛けないように素直に聞く。
「ただあのレッドオーガは一発じゃ倒せないかなぁ?」
「じゃあ私が行く」
アルノは普段使っている木の矢ではなく、綺麗な白銀の矢を荷車から取り出した。
「これで大半は殲滅出来ると思う、シズ、準備は良い?」
「いつでも」
アルノの問いに対して、シズは静かに返事をすると、パッと一瞬で金属の鎧を着込み、シズと同じぐらいの大きさの大剣と大盾を構える。
シズの体格に見合わない大型の武器を、彼女は膨大な魔力で身体能力を向上させてまるで木の棒を振るかのように軽々と扱う。
華やかな見た目の鎧と違い、シズが扱う大剣と盾は硬く重いというだけを追求した無骨な武器に仕上がっており、切れ味は勿論のこと、圧倒的な質量で叩き潰すことも可能だ。
「じゃあ撃つよーーーー」
「うん」
周囲が高濃度の魔力でチリチリと肌に突き刺さるような感覚を覚えながら、アルノは天に向って銀の矢を三本同時に放った。
まだ日が昇りきらない陽光に綺麗な銀線がサレドの街を通過して、山が見える方向へ向かって飛んでいく。
そして、アルノ矢を放ったと同時に、完全武装をしたシズはフッとその場から消えて、レッドオーガの集団へ駆けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます