第13話 アルノの変身術
「もう朝か・・・・・・?」
旅の疲れもあり、タクマはその日の内にやるべき事を終わらせると、すぐに眠りについた。
それまではテントがあったとはいえ、数日の間、野宿をしていたので、久しぶりのちゃんとした場所で眠るというのは素晴らしい。
元は雑魚寝用の部屋とは言え、寝具は持ち運んでいるので問題ない。
ぼんやりと少し重たかった頭も随分とスッキリしたのだが、逆に目覚めたばかりのタクマの頭は物理的に重たかった。
「んぅ・・・・・・」
タクマが起きて少し身体を動かしたせいで、髪がくすぐったいのか、タクマの頭を抱えるように眠っていたシズが少し眉を顰めながらギュッとタクマの頭を強く抱く。
「おーい、シズ?離してくれ」
「や」
寝相の良い姉たちと違い、シズは小さい頃からかなり寝相が悪い。
それこそ、一人で眠れば布団はぐちゃぐちゃになり、近くに家具を置こうとすれば破壊されるレベルだ。
最初は夢遊病かなんかかと心配したのだが、どうも調べてみてもそうではないらしい、それが分かったのはルイナの提案で初めて一緒に眠ったときであり、その時からシズの寝相の悪さはみんなが知っていたので危惧をしていたのだが、一緒に眠った際のシズは予想に反して大変寝相が良かった。
「・・・・・・はぁ」
その理由は色々と調べてみたところ、義父であるタクマを抱き枕にして眠ると寝相が良くなるらしい、試しに姉妹であるルイナやアルノでも確かめてみたが、結果は変わらず次の日には二人は痣を作ってしまう羽目になってしまった。
なぜ、タクマと一緒に寝たときだけこんなに寝相が良いのかはシズ本人すら分からない、ただ少なくとも分かっているのはシズ自身も気持ちよく眠れるということであり、タクマの精神が削れる事を除けば歓迎すべきものだった。
(・・・・・・シズが育って無くてよかった)
何を、とは言わない、言えばシズはまるで暗殺者のような目つきに変わるのは間違いないし、家族とは言え流石に失礼だ。
もし相手がルイナやアルノだったら窒息するかもしれない・・・・・・と、タクマはシズの無い部分を見ながらそう思った。
「・・・・・・本当に大丈夫?」
「問題ないよ、変装はしっかりしてるからねー、触られたら不味いけどさ」
シズに抱きまくらにされていたタクマは、何とか脱出してサレドの街へ買い出しへ向かった。
朝日が登っているとはいえ、まだ早朝のサレドの街はタクマ達がやって来た時間帯とまた違った雰囲気を醸し出しており、既に春真っ盛りの季節とは言えかなり寒い。
なのでタクマとアルノは防寒着を着てサレドの街へと繰り出した。寝起きだと機嫌が悪いルイナと未だ夢の中にいるシズは宿にとどまっている。
「凄いね、どうやって耳を隠してるの?」
「えへへ、風の魔法を使って耳先を見えなくしているの、流石に触られるとバレちゃうんだけど」
アルノは得意げに話しながら、タクマの手を取り自分のエルフ特有の尖った耳を触らせてくる。
「本当だ・・・・・・凄いね」
ふにふにと、アルノの耳を触ってみると、突如としてエルフ特有のピンと長く尖った耳が現れる。
加えてアルノの髪色も濃い赤茶色の髪から、本来の輝かんばかりの金髪に早変わりして、タクマはその劇的な変化に驚いた。
「他の人に触られちゃうと変装が解けちゃうのが難点なんだよねー」
「それでも凄いよ、近くで見ても人間にしか見えない」
変装が解けた状態だと不味いので、再び変装魔法を使ったアルノは、一瞬にして先程まで変装していた人間の姿に戻る。
「顔立ちは変えられないの?」
「難しいんだよね―、髪色と耳は隠せるようになったんだけど」
確かに今のアルノの姿は、間違いなく人間ではあるのだが、髪色や耳を変えることが出来ても、本来の顔立ちはまだ変えることは出来ないようだった。
つまり、今のアルノの姿は人間ではあるのだが、本来の非常に整った顔立ちのままであり、どの道、周囲の人間から注目を浴びるのでは?とタクマは考えた。
「ほら、これ使って」
だからといって、サレドの街へ入った時のようにフードを深く被らせるのは寂しい、折角、変装魔法という高度な魔法を習得したのでそのまま一緒に街で買い出しをしたかった。
そこでタクマは自分が使っていたマフラーを解いて、少し寒そうにしているアルノの首に巻く、えっ?とアルノは驚いた声を挙げつつも、大人しくタクマにマフラーを巻かれていた。
「これである程度ごまかせるかな?」
「う、うん・・・・・・ありがと」
流石に父親が使っていたマフラーを巻くのはまずかったかな?とタクマは一瞬そう思ったが、当の本人はそこまで気にしていなさそうだったので気にすることを止めた。
「あ、アルノ?渡したマフラーをそんなに嗅がれると流石に恥ずかしいんだけど」
「うぇっ!?わ、わかった」
ただ臭いが気になるのか、アルノはマフラーを頻りにクンクンと嗅ぐので流石に恥ずかしい。
加齢臭とかしないよな?とタクマは思いつつ、朝の市場へ向かうことにした。
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