第12話 宿屋にて
タクマ達が泊まった宿は、サレドの街の大通りから少し外れた場所に存在した。
一見するとただの民家にも思えるのだが、内装はしっかりしており、一階にはロビー兼食堂が備え付けられており、水や薪の用意は自らする必要はあるが風呂場もちゃんと設置してある。
キサカが勧めてくるだけあって、価格の割に部屋は清潔で清掃もしっかりと行き届いている印象があった。
「ふぅ、ルイナは大丈夫?色々と魔法を使っただろうけど」
「コレぐらいなら問題有りません」
タクマ達が借りた部屋は、4人で一緒に眠ることが出来る大部屋だ。ベッドといった家具は置かれていないが、四人で横になっても余裕がある程広く、元は格安の雑魚寝用の部屋だったそうだ。
本当であれば、タクマと三姉妹で別々の部屋を借りようと思っていたのだが、ルイナを始めとした姉妹達が同じ部屋で良いと言われたので節制も兼ねて大部屋を借りた。しかも余裕があるので旅の荷物を部屋においても余裕があるのはかなり良い。
ユイアスから譲り受けた馬と荷車は宿屋の裏手の厩舎においてある。
「意外と厩舎付きの宿って少なかったんだね、街の外側にあるから心配だったんだけど、ここ良かった」
サレドの街には数多くの宿が存在するが、冒険者向けの中長期的に宿泊する宿から、タクマのような旅人や商人向けの宿と色々種類がある。
その中でも、馬や馬車を置ける厩舎付きの宿は意外と少ないようで、タクマは泊まる直前になって気がついたくらいだ。
宿に泊まったことがない三姉妹はともかく、色々と経験のある自分がこの調子では不味いとタクマは内心で気を引き締めた。
「ん~疲れた」
そんなやり取りをしていたら、荷物を整理し終わったアルノがゴロンと寝ござの上に寝っ転がる。
勢いよく寝っ転がったので、アルノはすらっとしたお腹をさらけ出したままとなっている。
非常にだらけきった格好ではあるのだが、顔が良いために何処か絵になっていた。やはり、美形というのはそれだけでプラスみたいだ。
「全く・・・・・・お風呂は?」
「いらなーい、明日入る」
今回泊まる宿には、自分で用意する必要はあるが風呂場が設置されている。
五右衛門風呂のような釜には、有料サービスで焚出しも行っているようだ。
ただルイナとシズは火と水の魔法を使えるので、自らの力で水を用意してお湯を沸かす事ができる。
やり方は至って簡単で、水を貯めてその中に魔法で発生させた火種を投下するだけだ。
しかし、タクマとアルノに関しては自分の力で水と火を用意できないのでルイナはどうするか?と聞いたようだ。
「僕は汗も流したいから用意してもらって良いかな?」
「分かりました。良ければ背中を流しましょうか?」
「ハハハ、気持ちだけ受け取っておくよ」
ルイナ達が小さい頃・・・・・・といっても出会ってから7、8年前までは一緒に風呂にも入っていたりした。
当時はまだ三姉妹とも子供であり問題なかったのだが、つい数年前から成長期がやってきたようで、今では大人の色香を纏い始めていた。
今更、娘たちに欲情するほどタクマは落ちぶれては居ないが、流石にこの歳にもなって一緒に風呂に入るのは不味いと思い、今では別々に入るようになっていた。
「・・・・・・別に私は気にしないのですが」
タクマが聞こえないぐらいでボソッと呟いて、ルイナは早速、湯を用意するために風呂場へ向かった。
「今日は他の客も居ないのが助かったね」
「うん、今日は気持ちよく眠れそう」
そんなタクマ達がやり取りをしている間、シズは装備の点検を行っていた。
ものぐさな性格なシズは、装備の点検に関してはかなり几帳面な性格だ。
一つ一つ丁寧に・・・・・・自分の武器でないアルノの弓も代わりにやって点検してあげる程であり、果てには荷車の修理すら出来る。
「終わったー」
ルイナが風呂の用意をしてくれている間、タクマはシズと少しやり取りをしていたが、その間にシズは装備の点検を終わらせたようだ。
両手を挙げて作業が終わったと語ると、シズもアルノと同じように身を投げ出すように寝転がり、そのまますやすやと眠ってしまった。
「ちょっと、お風呂は?」
「・・・・・・スー」
お風呂は?とタクマが聞く前にシズはそのまま眠ってしまった。眠る際に、タクマの空いた右腕をギュッと握りしめ気持ちよさそうに眠っている。
「ありゃ、シズは寝ちゃったか」
一方で、シズよりも先に寝っ転がっていたアルノは、寝てしまったシズを見てアハハと小さく笑う。
「夕飯食べてないけど大丈夫かな?」
「その分朝ごはん一杯食べるから問題ないんじゃない?」
それでいいのかな?まだ育ち盛りだし・・・・・・と、タクマは心配しつつも、シズは起きる気配がないのでそのまま放置して置くことにした。
――――――ちなみに
(・・・・・・お風呂入っていないのになんでこんなに良い匂いなんだろう?)
今日は両脇にどっちも風呂に入っていないシズとアルノが眠っている。
寝相の良いアルノはまだしも、シズは普段からタクマにギュッと抱きついて眠る癖があるので、気持ち悪い話ではあるがタクマは常日頃からシズの体臭を嗅いでいる事になる。
ただ純粋にタクマが疑問に思っていたのは、シズは風呂に入っていなくても少し甘い香りがする。
どうなっているの?と、馬鹿正直に聞けば、彼女たちからドン引きされること間違い無しなのだが、何故、シズはこんな良い匂いなのだろう?とタクマはぼやーっと疲れた頭で考えながら眠りについた。
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