第11話 孤児院の後輩
「何?街に入らないだと?治療費はどうするのだ?」
「別に治療費をせしめる為に彼らを助けたわけじゃないので・・・・・・」
タクマの言葉に対して、男はピクリと左眉を持ち上げてタクマの顔を見る。
「だよね?」
直接、傷付いた冒険者を治療したルイナはタクマの問いに声に出さずコクリと頷いた。
タクマとしては、折角治療したんだから多少のお金を取っても悪くないと思わないが、本人が治療費は要らないと言ってきたのでタクマはその指示に従う。
寧ろ、下手に騒ぎになれば困るのはコチラの方なので、ルイナは多少の治療費を得るよりも安全を優先したとも言えた。
「何だ貴様らは?」
この世界では、人を助けたらお金を貰う・・・・・・無償の施しなんていうのはこの世界の聖職者でも有り得ない事だ。
時には肉親でさえも助けたら金をせしめる何てことも普通にあるので、今回、タクマが語った申し出は男にとって異様に映った。
「貴様たちはこの街に入りたくないのか?」
「入りたいですけど、色々と検査されるのは困りますので・・・・・・」
タクマは我ながら言っている事がおかしいよな、と思った。
検査されると色々と困る・・・・・・つまり、調べられると不味い何かがあると自白しているもので、嘘の一つや二つ言えない自分に思わず内心で苦笑いをしてしまう。
「・・・・・・」
「別に無理に街へ入ろうとは思っていません」
ザワザワとタクマ達の後ろで待っている人達が騒ぎ始める中、タクマはそろそろ列から離れようかと考えて居た所、目の前で腕を構える男の後ろから新たな人間が現れた。
「まーまー、街に通していいんじゃない?俺知ってるよ?この人」
いかにも仕事人、といった男と違い、何処か軽薄そうな雰囲気を漂わせる明るい茶髪の若い男が肩を組むように話しかける。
「キサカ、本当に知ってるのか?」
「おうよ、この男はアルマーレの交易商だ。前に見たことがある」
「私を知っているんですか?」
キサカ、と呼ばれた男はタクマの存在を知っているようだった。
アルマーレの交易商、そこまで語れば間違いないだろう。
「うん、僕はバレンソアっていう場所から来たんだけどさ、サレドの街に住む前は一時期、アルマーレにいたんだよね」
バレンソアと言えば、アルマーレよりも南東にある同じ港町だ。
綺麗な海が特徴的な、アルマーレよりも発展した港町だとタクマは記憶している
確か――――――
「うん、僕はバレンソア戦争の戦争孤児だったからね、数年前まではアルマーレの孤児院で住んでいたんだ」
今では色々とあってサレドの街で衛兵をやってるけど、とキサカは語った。
そこまで言われれば流石にタクマでも色々と察することが出来た。
「そうか、同じ孤児院の出身ですか」
「正解、アンタが孤児院に色々と支援してくれたお陰で助かったよ」
そう言ってキサカは手を差し出して握手を求めてくる。それに対しタクマも断る理由は何処にも無かったので、キサカの握手に応じた。
「・・・・・・しかし、規律は破れんぞ?」
「俺が保証人になれば問題ないでしょ?この人は恩人でもあるし、俺の名義で通していいよ」
キサカの申し出に、男はお前が言うのであれば・・・・・・と男は納得はいかないものの了承の意を示した。
「有難うございます」
「いいんすよ、俺は小さい頃の恩を返さして貰っただけですんで」
サレドの街は、山と山の間に存在しているため、港町であるアルマーレとは街並みがぜんぜん違う。
白い石材で建てられた家が多く、雨もよく降るために水路が街の至る所に張り巡らされている。
そんなサレドの門を通過した先の広場にて、タクマはキサカと話していた。
「でも街中で不祥事は起さんで下さいよ?まぁ、タクマさんなら問題ないと思いますけど」
保証人、ということはタクマが何か街中で不祥事を起こした場合、損失の埋め合わせをするのはキサカになる。
それだけ保証人にはリスクが伴う、普通はこの保証人制度を使う人間は居ないので手続きは意外と時間が掛かった。
なのでタクマ達がサレドの街へ入ったときには既に周囲が暗くなっており、街には明かりが点いている。
「宿はこの通りの右側にあるよ、俺の名前を出して貰えば安くしてもらえるハズっすよ」
そうキサカからお勧めの宿を紹介してもらい、タクマ達は街の奥へ向かった。
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