第7話 旅の夜

 パチパチと道中で拾い集めた木々が炎に熱されて弾けるように燃える。


 現在、タクマ一行はアルマーレの街から離れて、北西にあるサレドという街へ向かい旅をしていた。


 旅は天気にも恵まれて順調に進んでいる・・・・・・予定では後二日程歩けば最初の目的地であるサレドに到着する予定で、今日はその道中で野営地を築き、野宿をする準備をしていた。


 太陽は既に沈み綺麗な夜空が広がっている。前世と違い、この世界には星座と呼べるような物は存在しないため、あれが夏の大三角形、やあれが〇〇星座なんて呼ぶことはない。


 それでも夜空に輝く星というのは、人目を惹きつけるもので、タクマと三姉妹はのんびりと夜空を眺めていた。


「ん」

「あぁ・・・・・・ありがとう」


 冬の季節が終わり、春の季節を迎えているとは言え、太陽が沈んだ夜の時間帯はそれなりに冷える。

 その為、シズは野営地の中心にある焚き火を使ってスープを作っていた。


 底が深めのお皿に注がれた、橙色のスープには身体を温める効果のある香草や野菜がゴロリと入っており、独特な匂いであっても何処か食欲をそそる匂いにタクマはスプーンでスープを掬い口に入れる。


 タクマの隣にはアルノも座っており、タクマと同様にシズが作ったスープを一緒に飲んでいた。ただアルノは猫舌な為か、今もフーフーと息を吹きかけてスープを冷ましていた。


「この森の先には魔物の住処が多く存在するようです。今日はより一層警戒しておきましょう」

「わかった。使うのはいつものやつ?」


 シズが作ったスープを飲みながら、ルイナは野営地の先にある森について話し始めた。


 サヴラーの森、タクマ達が向かうサレドの街の途中にある小さな森、サレドの冒険者が魔物を狩るために使う森で危険度は低い。


 それでも、ゴブリンやコボルトといったおなじみの低級モンスターが生息しているので、夜は警戒しないといけない、特にゴブリンは夜目が効き、嗅覚にも優れているので特に注意が必要だった。


 そんな中で、タクマ達は眠る際にルイナが自作した魔法具を使用する。筒状の魔法具を野営地の周囲に設置して、そこにゴブリンといった魔物が侵入すると警報が鳴る仕組みだ。


 その為、夜は狭いテントで四人で眠っている。最初こそ息苦しさを感じたものの、今では移動の疲れも有りすぐに眠りにつくことが出来る。


 当初はシズの寝相の悪さが懸念されたのだが、何故かタクマを抱き枕代わりにして眠るとシズの寝相が悪さが改善されるという謎の結果が生まれた。


 その為、テントの中で眠る際は基本的にシズが隣で抱きつき、日替わりでルイナとアルノがもう片方の空いた場所に眠るという形に落ち着いていた。


「確かに森は近いけど、ここまでやってくるかな?」


 タクマは月明かりに照らされている暗い森の影を見ながらそう答える。この世界の月に当たる部分の夜空に浮かぶ星は、本来の月明かりよりも輝き、周囲はそれなりにハッキリ見える。


 そのせいか、サヴラーの森はより一層不気味に見える。森の奥からは獣の遠吠えが聞こえているが、ただ距離は離れているので態々森の外に出て襲ってくる可能性は低いんじゃないか?とタクマは思った。


「どうだろ?近くには居ないけど、結構ザワザワしてるよ?」


 タクマの言葉に対して、三姉妹の中で一番気配察知に優れるアルノが森がざわついていると答える。

 パッと見ではただの薄暗い不気味な森ではあるものの、アルノが言うのなら間違いないのだろう。


「もしかすれば森に異変があるかもしれないですね、明日の朝に使い魔でも飛ばして調べましょうか」

「その方が良いと思う、この周辺は強い魔物は居ないハズだけどね」


 危険では無いが、警戒した方がいい・・・・・・その案にはルイナも同意して、明日の朝、太陽が登った頃合いに先に使い魔を飛ばして森を調査しようという話になった。


 普通であれば、ここまで慎重にやる必要は無いが、タクマも三姉妹も旅は初めてであり何があるか分からない。


 そんな警戒心を強めるルイナとアルノを見て、タクマは目に映る森がより一層不気味さを増した気がした。


 尚、シズは既にテントの中で眠っていた。


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