第4話 豪華な夕食
ユイアスの屋敷へ向かったその日の夜、タクマは普段よりも豪華な夕食を用意した。
最近では長女のルイナも夕食の手伝いを一緒にしてくれるが、今日はサプライズも兼ねて、彼女たちが自由に遊んでいる時間に色々と仕込みを終わらせていた。
「すっごーい!!」
「こら、行儀よくね」
彼女たちは動物の肉を好まないが、魚に関しては比較的好みの部類に入る。
そこでタクマは屋敷から帰る途中、三姉妹の目を盗んで魚屋へ寄り、その日一番の立派な魚を購入した。
いつも以上の大荷物に対して彼女たちは疑問符を浮かべていたものの、今日出された夕飯の内容を見て納得した様子だった。
次女のアルノは興奮のあまり席を立ち、喜びの声を上げる。それに対して長女のルイナは注意を促すが彼女自身、用意された豪華な魚料理に視線が持っていかれていた。
「それじゃ取り分けるよ」
そんな微笑ましいルイナとアルノのやり取りを見ながら、タクマは大きな魚を切り分けていく、普段は川魚を食しているので海で釣られた身体の大きな魚というのは中々に珍しい。
鉄板の上に置いてある魚はパリッと綺麗に焼かれており、中身はふっくらとした淡白な身をしている。貴重な臭い消し用の香辛料や香草をふんだんに使っているので見た目以上にお金が掛かっていた。
その分、味は美味しいので三姉妹には堪能して欲しいと思い奮発した。普段の食事が質素というわけでは無いが、これまで彼女たちの誕生日以外で豪華な食事を出していなかった事も起因していた。
「でも急にどうしてこんな豪華な夕食なの?」
もぐもぐと魚のほぐし身と、しめじのような小さなキノコを頬張りながらアルノが聞いてくる。口に食べ物を居れながら喋るのは教えてきたマナーではよろしく無いが、ここは家族団欒の場なのでタクマは眉をひそめつつも追求しなかった。
「今日、ユリアス様と直接会ってね、今後の君たちについて色々話が決まったんだよ」
タクマがそう言うと、楽しそうに食事をしていた三姉妹の表情が曇る。これを見てタクマはあっ、と場の空気を悪くしたことを感じたが、最後まで聞けば吉報なのでそのまま続けて話すことにした。
「で、でもね!ルイナ達が側室になる話は無くなったんだよ!今後の状況にもよるだろうけど、もしかしたらエルフの国に帰れるかもしれない」
王国の西側に隣接するエルフの国・キュリア、国土の大半が自然に覆われ、険しい山々や強力な魔物が蔓延る場所だ。
それでも彼女たちにとっては同胞が多く住んでいる生まれ故郷でもあるので、この話を聞いた時にタクマは三姉妹が喜ぶと思っていた。
「「・・・・・・・・・」」
「あの~、皆さん?」
勿論、これらの話は確定した訳じゃないので、ここではあえてもしかしたら、と強調したが、それでも三姉妹の顔が優れる様子は無かった。
そんな予想外な反応に対して、何故か他人行儀で返事を聞くタクマをジーッと三姉妹はまるで睨むように見ていた。
「・・・・・・まぁ、いいです。今は喜んでおきます」
「い、今は?」
気まずい沈黙の中で、先に口を開いたのは長女のルイナであった。はぁ、とまるでため息を付くように息を吐き、今は喜んでおくという意味深な発言をする。
それに対してタクマはどうも釈然としないが、それ以降、ルイナも喋らなくなって黙々と食事に集中し始めたのでこの場での会話はそのまま打ち切りになった。
「一緒に眠りたい?別にいいけど大丈夫?」
いつもより豪華な夕食を終えた後、これまたいつもと同じように全員で分担して片付けを行い、終わったあとは各々が自由な時間を過ごすことになった。
ルイナはアルノと一緒に魔法に関する本を読んでおり、シズはいつもと同じのうにタクマの膝の上で寛いでいる。
タクマと三姉妹が住んでいる家は街から離れた場所にあるので、周囲は虫達の綺麗な鳴き声しか聞こえておらず、まったりとした時間が過ぎていた。
そんな中で読書に一区切りがついたルイナは、いきなり一緒の部屋で眠りたいという願いをタクマに言ってきた。
「私は構いません、アル、シズ、あなた達はどうするの?」
元々ルイナから願ってきたことなので、聞き直すのは野暮なのだが、念のため再確認してみるとルイナは問題ないと答える。
それどころか、同じ空間に居たアルノとシズはどうするか?と誘うぐらいだ。
「ん、私も一緒に寝る」「私も!!」
タクマの膝の上で寛いでいたシズは小さく頷き、本を片付けて比較的遠くの場所に居たアルノは右手を挙げながら元気よく返事を返す。
「じゃあ、今日は広いリビングに布団を敷いて眠ろうか」
いつもより様子のおかしい彼女たちにタクマは違和感を覚えつつも、これも彼女たちとより一層仲良くなったのだろうと思い、ルイナの願いを引き受けた。
「あー!!姉ちゃん今、ズルした!!!」
家の中で一番広いリビングを片付けて、三枚の敷布団を床に敷く。
タクマと三姉妹は川の字になるように横になっており、左から、シズ、タクマ、ルイナ、アルノの順に並んでいた。
シズはこのメンバーの中で一番寝相が悪いので、被害を拡大させないために自動的に一番左端となって、ちゃっかりとタクマの隣を確保していた。
そんな中でもう夜遅い時間帯であるのにギャーギャーと騒ぐのは、タクマが眠るもう片方の空いた場所を巡ったルイナとアルノ声だった。
「アルノはまた今度一緒に眠る時に隣じゃだめかな?」
「えーっ!?」
今日はいつもと違ってユリアスの屋敷に出向いたこともあって、少し疲れ気味のタクマは、心の中だともう眠らせてくれと思っていた。
ただルイナもアルノ両者とも絶対に譲れないようで、タクマはじゃんけんで決めるように勝負を促したのだが、じゃんけんに負けたアルノは勝者であるルイナがズルをしたと訴える。
「今、微かにルイナから魔力が漏れてたもん!!絶対なんか魔法を使った!!!」
「ジャンケンに勝つ魔法?そんなのある訳無いじゃない」
二人の言い争いは平行線を辿り、一方のシズはすやすやと気持ちよさそうに夢の世界へと既に旅立っていた。
「じゃあ私、お父ちゃんの上で眠るっ!!」
「「アルノ!?!?」」
後日、一緒に寝る際に隣で寝るのは駄目か?とタクマは妥協案を出してみたが、アルノは可愛らしくぷくーっと頬を膨らまして不服だと言う。
「そっ、そんな理屈がまかり通る訳ないでしょ!!」
アルノの宣言に一番驚いたのは、タクマではなく既にタクマの隣で眠る気だったルイナだった。
「いやぁ・・・・・・流石に上で寝っ転がられると眠りづらい、かな?」
駄々っ子をこねるアルノに対して、タクマはそう答える。幾ら一緒に寝たいからとは言え、流石にお腹の上で眠られるのは厳しい。
だからといって、このままアルノに無理強いするのも可哀想だと考えたタクマはある一手を思いつく。
「・・・・・・納得行かない」
タクマのある言ってとは、タクマを棒に見立てた場合、ルイナとアルノを鯉のぼりの鯉のようにタクマから90度ほど身体を傾けて眠るということだった。
これであればルイナもアルノも同じ条件だ。強い睡魔のせいでタクマは上手く頭が回っていないが、このまま言い争っていたら夜が明けてしまう勢いだったので、二人には今度また埋め合わせるとして納得してもらい、タクマもやっとの思いで夢の世界へと旅立つ事ができた。
幾ら子供とはいえ、二人の頭が枕代わりと言わんばかりにタクマの体の上に乗っているのはいささか眠りにくかったが、疲労も強力な睡眠導入剤となってタクマは一瞬で眠ってしまった。
そんな中で一人小さく愚痴るのは長女のルイナだった。
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