第2話 三姉妹の特徴

 タクマがエルフの三姉妹と出会ってから三年の月日が経った。


 最初出会った時の彼女達は、タクマが作った食事も碌に取ろうとはせず。隙を見ては脱走を企てたりと両者の関係は最悪だった。


 それでもタクマは根気強く接した事もあり、今では声を掛ければ無愛想ではあるものの返事をちゃんと返してくれる。まだまだ先は長いものの、関係は少しずつ良くなっていた。


「そう、この場合だとリンゴが3個とミカンが1個になる。そうすると残りのお金は20ギルが余るね」

「・・・・・・むぅ」


 上司であるユリアスからは、三姉妹に高度な教育を施すように命令されている。

 この世界で高度な教育とは、簡単な四則演算と文字の読み書きだ。


 前世で言えば小学校を卒業したぐらいの学力であり、期限は彼女たちが大人になるまでと言われているので、そう焦る必要はない。


 なのでタクマは午前中の内に勉強を教えて、午後は家事の手伝いをさせたり自由に遊ばせたりしている。

 加えて、各地から伝手を使って魔法に関する書物を集めたり、小さな子どもでも分かり易い絵本など、彼女達の生活環境に対してそれなりに気を使っていた。


 タクマが預かったエルフの三姉妹は長女がルイナ、次女がアルノ、三女がシズといい、それぞれ違った個性を持った特徴的な性格をしている。


 長女のルイナは三姉妹の一番上という事もあって、比較的落ち着いており責任感が強い、加えて午前中に行う読み書き計算といった勉強に対して意欲的に学んでおり、自由時間はタクマが取り寄せた魔法に関する本を好んで読んでいた。


 次女のアルノは長女ルイナの真逆の性格をしており、天真爛漫、勉強が嫌いで運動が大好きというまるで男の子みたいな性格だ。現状だと三姉妹の中で一番タクマに懐いており、時々、タクマの職場まで付いてくる事もある。


 三女のシズは、とてものんびりした性格だ。無気力という訳ではないようだが、常にぽやーっとしているが、意外なことに三姉妹の中で一番勉強の成績が良い。俗に言う天才肌というやつで、自由時間だと寝ている事が多い。


 そんな特徴的な個性を持つ三姉妹とタクマは、ユリアスが用意した郊外にある家で生活している。周囲はユリアスの私有地ということもあって人は滅多に訪れることがなく、脱走兼不審者用の警備装置も付けられているのでセキュリティーはかなりしっかりしていた。


 ただ次女のアルノは好奇心が強い性格なので、週一のペースで脱走を試みたりしている。ただ最近では無理だと悟ったのか、タクマの後を付けてきて店の奥で遊んだり、持ち運ばれた交易品を触ったりしていた。


「お父ちゃん、これって何に使うの?」


 本来であればエルフを街へ入れるのはリスクが高い行為なのだが、立て続けに脱走を試みられても困るので仕方なく店へ連れてきたタクマであるが、店に居たとしても基本的には暇な事が多い。


 タクマは殆ど決まった相手としか取引をしないので、店へ訪れる客は一日に十人程度、それでも一つ一つの取引が大きいので、普段、店が閑散としていてもちゃんと黒字経営だ。


 ただ交易品保管するという性質上、店はそれなりに大きく、店内には所狭しとタクマが買い集めた様々な交易品が保管されている。アルノはその中の一つを取り出してこれは何に使うのか?とタクマに質問してきた。


「それはケイルオーの角だよ、角を削って粉末にすれば漢方薬の原料になるんだ」

「ふーん・・・・・・じゃあこれは?」


 薬の原料と聞いて、アルノは興味を失ったようで元あった場所に戻す。


 そして次にアルノが次に興味を抱いたのは、紫色の刃が特徴的な短剣だった。


「これはパスティールの儀礼短剣だね、街の遥か南にある土地に住むパスティール族が儀式の際に使う短剣だよ、魂を昇華させて神様の貢ぎ物にするんだって」


 タクマはその職業柄故に各地の事情について詳しく知っている。遠い国の政情から伝統的な文化まで、広く浅くではあるものの知っている事は多い。

 そんな中でアルノが見つけた短剣は、アルマーレから遥か南の大陸に住むパスティール族と呼ばれる屈強な民族が儀式の際に使う短剣だった。


 紫色の毒々しい刃が特徴的なこの短剣は、儀式に選ばれた生贄を殺す際に使われる物騒な道具だ。


 この剣で心臓を一突きされると魂は変質し、神様の貢物として捧げられるようになるらしい。

 そんな逸話にタクマは本当に貢ぎ物を捧げる相手は神様なのだろうか?と甚だ疑問ではあるが、中々に興味を唆る一品であることには間違いない。


 ある意味、この儀礼短剣は呪いの品とも呼べる物ではあるが、この様な呪具を熱心に集めている人間は意外と多く、タクマの知り合いの中にもこれら怪しい品を集めている収集家が居たので、他の交易品との取引の際についでとして購入したものだ。


「えーっ、すっごい!?」


 ある意味、厨二心を擽る一品に対してアルノは、先程のケイルオーの角と違って強い興味を抱き、好奇心旺盛な子供らしくキラキラと目を輝かせている。

 色白の綺麗な肌に、まるで太陽の様な黄金の髪を靡かせる可愛らしい幼女が興味を持つには些か物騒ではあるが、そんなタクマの考えをよそに、アルノは短剣が置かれている台座をぐるりと回りながら観察していた。


(随分と女の子っぽくない趣味をしてるな・・・・・・)


 タクマはカウンターの上に頬杖をつきながらアルノの様子を見る。呪いの装備とも言える武具に対して興味を抱くとは、なんとも女の子っぽくない趣味をしているなーと感じていた。


 アルマーレの街にいる同い年の一般的な女の子であれば、そろそろ化粧に興味を持ち出す時期だ。



 そんな中でアルノは男の子っぽく、武器や魔法に強い興味関心を示していた。その意志は強く嫌いな勉強も魔法を覚えるために頑張っているぐらいだ。


「でもそれは売り物だから家に持ち帰っちゃ駄目だよ?」

「えぇ~~!?」


 タクマの注意にアルノは酷く残念そうな声をあげる。


「言っておくけど、その短剣は100万ギルは下らないからね、アルのお小遣いが月に5000ギルだから果たして何年かかるかな?」

「え、えっと・・・・・・」


 タクマの急な問題に対して、残念そうな表情を浮かべていたアルノは戸惑った様子を見せる。

 指を使って一生懸命計算しようとするが、タクマが出した問題はまだ彼女たちが習っていない範囲なので解くことは難しいだろう。


「えっと、いっぱい・・・・・・?」

「そうだね、いっぱいだねー」


 アルノはコテンと可愛らしく首を傾げてそう答える。その可愛さっぷりにタクマはアルノの髪をくしゃりと撫でた。




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