元奴隷のエルフ三姉妹から迫られる義父転生者のお話
青葉
第一章 エルフの国へ
第1話 転生者とエルフ三姉妹
「タクマ、じゃあ頼むぞ」
「はい、ユリアスさん」
タクマと呼ばれた若い男は、上等な服を着たこの街の領主であるユリアスの命令に対して深々と頭を下げた。
そんなタクマの仕草にユリアスはフンッ、と軽く鼻息を吐いて自身が所有する馬車に乗り込んでタクマの家を去る。
ガラガラと馬車の車輪が地面を蹴る音を聞きながら、タクマはふぅと息を吐いて畏まった態度を解く、今、タクマの自宅へ訪れていたのは付近の街を治めるユリアス・サヴィーナという貴族様だ。
タクマは転生者だ。前世では二十代後半まで会社員をやっていた一般人であり、不慮の事故によってこの世を去った。
異世界に生まれ変わったタクマは街の孤児院で育てられた。この世界のタクマの両親は流行り病で亡くなったそうで、タクマが前世の記憶を思い出す前から孤児院で暮らしていた。
そしてこの世界の記憶と前世の記憶が混ざり合い、今のタクマが生まれた。前世ではそれなりに勉強が出来た為に読み書き計算を習得して、タクマが生まれ育った街『アルマーレ』で商人として生活している。
普段は街に運ばれてくる交易品の売買を担っており、まだこの世界で23歳と商人としては若手ながら街での影響力は強い。
それもそのはずで、タクマはアルマーレの街の領主であるユリアスから気に入られていたからだ。ユリアスは若くして礼儀正しく商人として確かな才覚を持っていたタクマを気に入り重宝してくれている。タクマが若いながらここまで店を大きく発展出来たものユリアスのおかげだった。
そんな訳でタクマは恩人でもあるユリアスに頭が上がらない、彼の命令であれば余程の無茶でない限りは引き受けようと考えていたし、実際に今、ユリアスからの依頼でなければ引き受けない仕事を引き受けたばかりだ。
「えっと・・・・・・まずは食事でもしようか?」
ユリアス一行が去り、タクマの自宅の前には家主であるタクマとユリアスがその場に置いていった三人の子供が立っている。
「「・・・・・・」」
「僕の事はタクマって呼んで、これから長い時間を一緒に過ごすと思うけど、よろしくね?」
タクマはしゃがんで彼女たちと同じ目線に合わせて、ジーッと無言でこちらを見てくる子供達に優しく接する。
人見知りというよりは、従来人が持っている警戒感がヒシヒシとタクマに伝わってきた。
(エルフの子供か・・・・・・やっかいな依頼を受けちゃったな)
タクマの目の前には三人抱き合うように警戒する三人の小さな子供たちが立っている。
その少女達の耳は髪を掻き分けるようにピンと先端が尖った長い耳が特徴的で、まだ幼いながらも将来は絶世の美女になると確信できる程、整った顔をしていた。
エルフ、その種族の名前はこの世界に20年以上住むタクマの耳にも届いている。彼ら彼女らは優れた魔法素質を持ち、全員が美男美女とされて、千年以上も生きる長命な種族だ。
そしてタクマのような人間族は前世とそう変わらない、この世界では前世ほど科学技術が発展していないこともあって、平均寿命は60歳ほどと短いぐらいだ。
そんな中で、人類よりも遥かに優れた素質を持っているエルフに対して、多くの人間はコンプレックスのような物を持っていた。
そして数に勝る人間たちは、見た目麗しいエルフたちを挙って攫い始めた。元々、人間同士であっても治安が悪いところでは頻繁に攫う事があったため、商品として価値が非常に高いエルフとなれば格好の獲物なのだろう。
そしてタクマが思うに、今、目の前に居る三人のエルフの少女たちもこれら人攫い達から攫われて売られたのだろう、歳も若く、商品として非常に価値があることから大切に扱われただろうが、それでも攫われたという事実は残るので、彼女たちが人間に対して警戒心を抱くのも無理はない。
そんなエルフをユリアスは知り合いの伝手かなんかを通じて購入したのだろう、まだ若いとは言え清らかなエルフを三人となれば想像もつかない程の大金が動いたに違いない。
ただそれでもユリアスはペドフェリアの気質はないので、彼女たちが大人に成長するまでタクマに預けると言うことになったようだ。
「ほら、食事だよ」
「「・・・・・・」」
何とか彼女たちを家へ迎え入れることにタクマは成功したものの、一向に警戒心が解かれる事は無かった。
タクマが出した食事に対しても口を付けずにジッとこちらを観ている。
「ん~、おいしい」
そんな進展が無いまま、タクマは自分で用意した食事を手に取り口に入れる。エルフは魚や野菜を中心にした食事だと聞いていたので、いつも食べている食事とは違った物にしたが、上手くいったようだ。
子供に対して無理やり命令しても良い結果は生まないとタクマは思っていたので、食事は出すだけ出して後は彼女たちに任せるというスタンスを取った。
(礼儀作法とかも教えないといけないけど、先は長そうだな・・・・・・)
上手く作れた食事を口にしながら、タクマは内心そう考えていた。
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