日向ぼっこ

 ということで翌日。前回に引き続き学校を終わらせて帰宅後即ログイン。うん、この前咲希にもからかわれましたが我ながらハマってます。これはどハマりと言っても過言じゃないかもしれません。

 さて、ログイン完了っと。あ、前回1層に寄らずそのまま外に直行したから4層のとこからですね。じゃあとりあえずは一番最初に私がスポーンした場所に行ってリスポーン地点を更新しましょう。

 前までなら濁った視界に苦戦しつつ慎重に進んでいたのでしょうが、今はもう進化して視界も良好になっているので大した苦労もなく1層に到着。


『リスポーン地点が設定されました』


 よし、それじゃあ上に行きますか。昨夜の内に対策も調べて目星を付けておいたんですよね。


 それから現実とほぼ相違ない視界に技術の進歩を感じながらてくてくすること数分。前回焼き焦がされた日の下の一歩手前、天井でギリギリ陰になった階段に到着。どうせ土で出来てるので土埃が付くのは確定でしょうけど、一応座る場所を手でササっと払ってから着席する。

 というか座るときに今更ながら気付いたのですが、私ローブの下の恰好中々ヤバくない……? 鮮明になった視界で改めて見てみると、説明文だけじゃ分からない視覚的なボロさをこれでもかってほど主張してくるズタボロ加減に加え、泥まみれで薄汚れたとかいうレベルじゃないし……とりあえず名前負けしない程度にやべーですね、この初期装備。

 うーん、さてどうしよう。とりあえず絶対このまま町には行けないですね。女性とかそういうのではなく普通にひとりの人間として。ということで、どこかからまともに着れる服を仕入れなければならないのですが……伝手が咲希しかいません。つまり必然的に咲希に頼るしかない訳で……すまぬ、妹よ。不甲斐ない姉を許しておくれ……。とフレンド欄いわく今ちょうどオンラインらしいので、チャットにてまともな服を持ってきてほしい旨とミニマップの座標を添付して送信。

 流石に速攻で既読になったりすることは無いですが、どうにかこれが咲希の目に入って早めに救助が来ることを願って……合掌。


 ……よし、それじゃあ今日の本題である日光対策を進めていきましょう。

 具体的に何をするかですが、ただひたすら日の下に右腕のみを差し出して時折引っ込めるだけの簡単なものです。

 こうすることによって何が起こるのかというと、単純に継続ダメージを受け続けて【HP自動回復】を酷使させることでスキルレベルを上げて太陽のスリップダメージと回復量を同等以上にしよう、というのと、ネットには咲希の言った通り人外を選んだ人が少ないからか不死者系の情報は皆無に等しかったので定かではないのですが、何か日光耐性的なスキルが手に入るといいなぁ……なんて希望的観測もあったり。

 まあとにかくここからは作業ゲーですね。HPの減り具合を確認するためにステータス画面を開いてから外へ腕を突き出した。



 ……暇ですね、これ。

 ひたすらHPの数値が削れるのを待って、二桁を切った時に腕を引っ込めて回復待機。回復したら腕を伸ばして……以降繰り返し。マップ埋めも大概でしたが、それより退屈です。

 まあ耐えるしかないんですけども……。






「あ〜……あ〜……あ〜……」


 ん? 何をしてるかって? ちょっと暇すぎるのと間隔を掴むために声を出して止めるのを続けているのです。

 ちなみにこれで暇は解消されません。


「あ〜……あ〜……あ〜……あ──」


『スキル【日光耐性】を取得しました』


 ……おぉ、やっとですか。長かった……。最後の方なんてステータス見てなかったですからね、私。

 さて、ひとしきり喜んだところで、字面から大体理解できますが一応スキル説明を……。



【日光耐性】

 日照ダメージを軽減する。

 取得条件:日照ダメージを一定時間受け続ける。



 うん、普通にその名の通りですね。特に付属効果もなさそう。

 さて、肝心の【HP自動回復】は……おおっ、今の今まででなんとスキルレベル2! 低ぅ!?

 まあ、普通のレベルより上がりづらいんでしょう。というかそうであって欲しい。


 とりあえずこれで……うん、肌を日光に晒してもダメージは入りませんね。まあ正確には減って増えてのせめぎ合いではありますが、別に構いやしないでしょう。

 とにもかくにも、ようやく……外だー!

 日陰から身を乗り出し、腕を広げて全身で日光を体感する。日照ダメージゆえかリアルより紫外線が攻撃的な感じがするが、日焼けしないことは既に確認済みなのでオールオッケー。

 あー、太陽あったけぇ……。


 まあ肉体は不死者なので、地下でも肌寒いとかいう感覚はなかったんですが、やっぱり光の有無って大事なんだなぁ……と。

 そんなことを考えながら体を伸ばしていると、不意に視界端の茂みが揺れる。


「お姉ちゃーん、居るー?」


 お姉ちゃん。ということは……。


「あっ、皐月! こっちこっち」

「あ、おっけ。ちょっと待ってね……ふぅー、よし。皐月、行きます……!」


 なぜだか少し緊迫した様子で深呼吸した後に「フンッ!」と中々イカつい声を出して皐月が茂みから登場した。


「おっと。……ん? どうしたの?」


 謎に目を瞑って勢いまで加えて出てきたために皐月を胸中で抱き留めたが、皐月が何やら怪訝な顔で首を捻って私の顔を見上げて……首をかしげた。


「な、何? 私の顔に何か付いてる?」

「……いや、なんかこう、もっとゾンビっぽいの想像してたから……うん、思ったよりだいぶ人間で安心した」

「そう? うーん、私今までずっと地下にいたから進化前の顔すら知らないんだよね。もしかしたらゾンビの時の顔でも少しはデフォルメされてたりするのかも」

「……周囲にいたゾンビは?」

「それはゾンビ」

「つまりそういうこと。まあとりあえずよかったよー、私の心配は杞憂に終わった!」

「なら良かった。というか私もちょっと自分の顔気になるな……鏡とか持ってない?」

「鏡は無い。けど……はい、これなら多少分かるんじゃない?」


 そう言って差し出されたのは全長20センチくらいの短めな剣。

 包丁以外で初めて見る刃物に感嘆を漏らしつつ、両手で受け取ってみると思っていたよりも重かった。


「おお、結構重い……。さて、どれどれ……」


 当たり前ではあるが、鏡ほど綺麗に磨かれてはおらず傷も入っているので見づらい。しかしなんとなくの感じは分かる。

 ……ふむ、ちょっと青白い感じ? ホラー映画とかでよく見る幽霊程じゃないけど、人間味はあんまり無いですね。まあなんだろうがゾンビよりはマシ。


「ありがと。とりあえずゾンビよりはマシそう」

「うん、絶対ゾンビよりは100倍マシだよ。あ、そういえば日光大丈夫なの? 不死者でしょ? ゾンビって」

「それは皐月が来るまでになんとかした」

「おおー! んじゃこっからの道中聞かせてよ。もーここに来るまで長いし退屈だしでさ……──」



 その後、皐月が持ってきてくれた服に袖を通して、荷物確認の後にその場を発った。

 それから目的地である街に着くまでは結構な時間が掛かった。


 それでは、街に着いて一言。


「「つ、疲れた……」」


 大きな壁に囲まれた街の門を前に二人して膝に手を置き項垂うなだれる。

 街に来るまでの道筋、時間換算でおよそ数時間。中々の頻度で襲い来るモンスターを倒しつつ到着した私達はそれはもう物凄く疲れていた。

 まあ皐月なんて単純計算で私の二倍近くの距離を歩いてる訳だから、そりゃ疲れますよね……おや? そういえば皐月は往復……これは、私が貧弱なのか皐月が元気すぎるのか……まあいいです。とりあえずゾンビのせいにしときましょう。私の精神のために。


 さて、それじゃあ街中にリスポーン地点を設定したら今日はもう終わりにしましょうかね。

 皐月にその旨を話し、肯定の頷きを得てから街中へGO。

 そして結構マジで疲れてるので街の風景なんかは見ず皐月の案内通り宿に直行してベッドイン。

 ……はて、ゲームだからか寝転んでも眠気が来ないですね。確実に体は休息を求めているのに……。なんとも不思議な気分。

 とまあそんなことは置いておいて、隣で一緒にベッドダイブしたはずの皐月も既にログアウトしてますね。流石、慣れてるからか手早い。

 それじゃあ私もログアウトして……と。……あー、物凄くだるい。もう今日の諸々はいいかな、このままおやすみなさい……。


 機器を隅に追いやって就寝。その日は久々に疲れたからか泥のように深く眠れた……気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る