進化

 翌日は休み明けの月曜日。

 そのためいつもより長く感じる学校をさっさと終わらせてログイン。私は早く進化がしたいのです。

 ということでワイトのいた4層から3層に昇り、私のことを何十回と殴り殺してくれた因縁のマミーと相対する。まあワイトを倒して大分レベルも上がったし、おそらく負けることは無いと思いますが……とりあえず油断はせずに行きましょう。


 そして最初に接敵したマミーと戦った結果、やっぱり勝ちました。たとえ被ダメージが2倍になっているとはいえ、初期の頃と比べると5倍くらいありますからね、HP。これで負けちゃったらひたすらにマミーが強すぎます。調整不備を疑うレベルですね。

 さて、そしたらそのままの勢いで2体目、3体目……。

 そうして1時間が経過しそうな頃、遂に本日二度目のレベルアップを知らせる音声が響く。


『レベルが上がりました』

『第一次進化の可能レベルに到達したので進化が可能になります。次の選択肢から進化先をお選びください』


 ハイゾンビ

 不腐の死者アンロット(Ex種族)



 おぉー……ってやっぱりそのままの進化先だとハイゾンビルートまっしぐらだったんですね……。何はともあれセーフ。

 ということでもちろん選ぶのは下の不腐の死者アンロット……なのですが、Ex種族というのも少し気になるので先にヘルプを見ておきましょう。意味合い的に流石にプラスだとは思いますが、もし違ったりしたら泣く羽目になるので、一応。



※Ex種族とは

 正式名称はエクストラ種族で、俗に言う特別変異種・固有種のような特殊で特別な種族のことを指します。

 スキルや称号で解放されることもあれば特定のアイテムを体内に取り込む、または触れることで開放されることもあります。

 そしてその性質は十人十色。時には扱いの難しい種族に出会ってしまうこともあるかも?

 受け入れるか突き放すか、その全てはあなた次第。


〈このヘルプは終了しました〉



 うん、なるほど。これは字面通りに受け取っていい感じですね。

 まあ扱いが難しいとなると、そこがネックにはなりますが……ハイゾンビルートよりはマシだと思うのでこれに決定しましょう。


『エクストラ種族 不腐の死者アンロットが選択されました。注 進化には時間を要しますので、どこか安全な場所に移動してください。……では、1分後に進化を開始します』


 安全な場所に移動? うーん、周辺にありますかね……。

 そうして探すこと数十秒、良い感じの隅っこを発見。そしてそこに頑張って体をねじ込み、一応目の前にあった雀の涙程度の小石を積んでおいて……と。よし、そしたら後は進化を待つのみ。

 念願の進化に期待を寄せながら残り数十秒の時を過ごしていると、一分が経過したのか再び機械音声が響く。


『規定時間に達しました。これよりエクストラ種族 不腐の死者アンロットへの進化を開始します』


 ……おおっ、目が閉じるんですね。

 おそらくゲームの強制力が働いたんでしょう、まぶたが勝手に落ちてくる。

 そうして視界が暗闇に包まれた中、頭の中にシステムの音声のみが響く。


『不死の象徴により肉体性能が強化されます』

『ゾンビから不腐の死者アンロットへと進化中……』


『進化に伴って既存の種族スキルが変異します』


『【低位不死者】……【中位不死者】へ変異』

『【腐爛体】……【防腐体】へ変異』


『新たな種族スキルが追加されます』


『【腐食】を取得しました』


『進化が完了しました』

『これにて進化を終了します』


 ……ん、終わりましたか。思ったよりも早かった。

 さて、ひとまずは新たに手に入ったスキル群の確認からですね。



【中位不死者】

 日光ダメージ極大化。日陰で軽減。

 光、聖属性ダメージ4倍化。

 夜間時、全ステータスに補正:中

 闇系統魔法強化:中

 闇系統魔法耐性:中

 暗視能力付与。

 麻痺、毒などの肉体系状態異常を無効化。

 催眠、恐怖などの精神系状態異常を増幅。

 食事、睡眠、呼吸不要。

 従属を誓った低位不死者を2体まで従えることが可能。


【防腐体】

 死してなお腐らない不腐の肉体。

 不死者ゆえに血は通っていないが、腐らない=細胞が壊れないため傍から見て青白い程度に留まっている。

 肉体強度は生者よりか少し脆く、水分も無い。


【腐食】

 触れた部分に元々自身が腐るはずだった分のエネルギーを譲渡し、そこを腐食状態にする。

 任意発動可。



 うん、色々反応する箇所はありますが……とりあえず【腐爛体】脱却! やったー! これでやっと街に行ける!

 えーっと、ここまでサービス開始して一週間とちょっと? うん、結構長かった。

 さて、ということでちょっと気が早いけど咲希に進化した節をメッセージで送って……っと、よし。


 あ、そういえば左手復活してますね。無い生活にも結構慣れてきてましたが、やっぱりあるのと無いのとじゃ全然違います。

 一週間ぶりに復活した左手を慣らすようにグッパグッパしながら、今後のことを思案する。


 うーん……とりあえず1層から上の階段を上がってみて、もしまだ上にも階層があったならマップを埋めつつ、外への脱出を試みましょう。

 まあ言うてここ初期地点ですし、流石にそんな深いところじゃない……はず。こればっかりは信じて祈るしかありません。


 ……あぁ、いけない、また癖が。うーん、あんまり唇ばかり触るのも良いこととは言えませんし、早めに直さないととは思うのですが……これがまた直らない。意識しててもふとした瞬間にやってしまっているんですよね。小さい頃からずっとですし、やっぱり諦めるしかないのかも……っと、【防腐体】のおかげか感触的に腐ってはいないですけど、水分質な瑞々しさは感じませんね。

 リアルの方では一応私も女の子なので最低限のケアはしているつもりなんですが……うん、カサカサ。あ、でも荒れてる感じはしないですね? もちろんゲームだからでしょうけど、なんだか不思議な気分。


 とまあそれはさておき……外ですよ、外! 一週間ぶりの! ……まあリアルでは学校のために普通に外出てますけど……って、そんなことはいいんです。

 やっとこの地下墳墓ともお別れか……なんて別に感慨深くもないのに考えつつ、最初にスルーした1層から上の階段を登っていく。

 まだ続いてるのかなー? それとも……あ、続いてない。外だ……って眩しっ!? うおぁ、目が焼けるぅー!

 おそらく暗闇から突然日光を浴びたからだろう、目の奥が光で刺激されてジンジンと痛む。

 そこから腕で目を覆ってなんとか光への抵抗を試みるが、あえなく失敗。普通に眩しい。

 戻ろうか……いや、さっさと慣れるためにも少し辛抱を、我慢我慢……。


『スキル【我慢】を取得しました』

『HPが半分を切りました』


 スキル……え? なんでHPが──



 すると先程までの明るすぎる景色からは一変し、視界は黒塗りのどこかを映す。

 そこには何か文字の書かれたウィンドウもあって……。


「……『あなたは死亡しました。〈リスポーン〉〈ログアウト〉』……なんでぇ?」


 我ながら腑抜けた声を漏らしつつ、初見のゲームオーバー画面を横目になぜ自分がデスしたのか思案する。

 別に周囲にモンスターはいませんでしたし、他にめぼしいものも……強いて挙げるとすれば日光? ……あぁ、そうだ日光だ。確か【中位不死者】の説明にそんな記述があったような気がします。うわー、やっちゃったぁー……。


 うん、これもひとえに私の危機管理不足。割り切ってさっさと対策を考えましょう。

 HPが半分を切ったというアナウンスが来たことから察するに、先程は日の下に出た瞬間にデスするんじゃなくて継続ダメージで死んだような気がします。

 つまり日光によるダメージはHPをジワジワ削られるスリップダメージ。ワイトのあれと似たようなものですね。

 しかし、うーんワイトの時はゾンビのふりをして時間をかければ後は勝手に回復してくれましたが、今回はそうも行きませんね……。

 ううむ、HPの回復速度が日光ダメージを上回ってくれたりしないかなぁ……。あ、そういえば【HP自動回復】ってレベル式でしたよね。どうやったら上がるんだろ……。一旦ログアウトして調べようかな。ということでゲームオーバー画面からログアウトを選択していざ帰還。

 それから機器を取り外して時計を見やると結構いい時間だったので、これ以降は明日に回しましょう。

 いつもの如く諸々をこなしてから就寝。

 

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