ワイト戦
怪しい魔術師風なローブに身を包んだワイトを後ろから眺める。
その間もワイトは特に移動したり徘徊したりすることはなく、大きな杖だけを右手に持ってその場でカタカタと揺れ動くのみである。
ここから察するに、おそらく奴は遠距離か中距離型。判断材料はあの杖だけだが、あんなナリして殴りかかってくる方が怖い。
私の過去の経験的に、ああいう魔法タイプはHPが低い……はず。というかそうであって欲しい。
そして、ここから導き出される勝ち筋は……うん、結局頑張ろうとしか言えない。私の攻撃手段拳だし。殴って張っ倒してのフィストファイトだし。
まあ死ぬのはあそこで散々経験したし、ひとまずは相手の手札を見ないとね。
……よし、さあくらえっ! 後先考えずパーンチ!
ポコッ!
「……ギ、グォォォオ!」
お、効い……てない!? ……あ、怒ってるだけだこれ!
杖を片手に咆哮したワイトは素早くこちらに振り向き、杖と左手を突き出して空中を……こねくり出した。……ん? いや、何してんの君……?
訝しげにワイトを注視するが、当のワイトはそんなこと気にも留めずひたすらに虚空をこねくり回している。
え、何が起こってるのか全然分かんない……。
『HPが半分を切りました』
え? HP半分……って嘘!?
急いでステータスを開いて確認すると……そこには現在進行形で尋常じゃない速度で削れていくHP。もう既に20を切っている。
嘘嘘嘘、なんで!? と思ったのも束の間。原因はアレしかない。ワイトの謎行動、どうやらアレには明確な理由があったらしい。……などと悠長に考えている場合では無い。
こうしている間に15を切ったHPを見つつ何か打開策を思いつくために思考を巡らす。
反撃……は無理。とにかくこのHPの減少を止めなきゃ。でも、どうやって? ……とりあえず一旦今までを振り返ろう。簡単に纏めると、私の後先考えずパンチに怒ったワイトが行った謎の攻撃に苦戦中、今ここ。謎の攻撃の正体に関しては置いといて、ワイトは私のパンチに怒って……って、私がパンチするまでは私を敵として認識していなかったな。なんでかと言うと……ワイトがハイゾンビとかと一緒だとすると、私を
「ウ、オォ゙ォ゙オ゙」
ゾンビらしい
「…………?」
よし、よし! やった!
心の中で精一杯のガッツポーズを取る。そしたら後は所々で適当に誤魔化しを入れつつ【HP自動回復】に身を任せるのみ。
数分も待てばHPは全回復し、ほぼ元通りの状態で再びワイトと相対する。最初と違う点はワイトの攻撃に対する対処法を学んだこと。
そうとなればもう怖いものは無い。ここからはもう後先考えずパンチ乱発だ!
ボゴッ!
「……ギ、グォォォオ!」
うん、最初と同じ展開。でも、なんか最初の時よりパンチに手応えがあったような……? なんでだろう……あっ、【反撃】かな? あの敵から食らった攻撃分だけ次の私の攻撃に上乗せするってやつ。
あ、ちょうどいいや。ここで敵から受けた攻撃分の判定基準が攻撃回数なのか食らったダメージ量なのか、ついでに確認しちゃいましょう。
うん、そうと決まれば実験開始だー!
バキャアッ!
通算パンチ回数が50に到達しそうになった頃、壮絶な破砕音と共にワイトの体が骨ごと砕け、それと同時にワイトは光の粒子となって消え去った。
『スキル【起死回生】を取得しました』
『レベルが上がりました』
あ、死んじゃいました。もうちょっとだけ殴りたかったな……。と思ったり思わなかったり。
さてと、そんなこんなで結果的に【反撃】は受けたダメージ分……と言うよりも消費したHP分だけ攻撃に上乗せされるということが分かりました。
つまりは自傷なんかでも発動するってことですね。これは嬉しい誤算。……いや、もちろん自傷はしませんけども。
まあそれはさておき、何やらスキルが手に入ったらしいですが……。
【起死回生】
HPが1割を切った時に自身の一番高いステータスが上昇する。
取得条件:瀕死の状態になった後に相手を倒す。
ふむ、効果的には死にそうになった時の保険みたいな感じですかね。まあこういう系も一応あって損はないはず。
さて、それじゃあ……っと、ドロップ品もありますね。どれどれ……うーん、これは……布……?
ワイトを倒した後にぱさりと地面に落ちた布らしきものに近付き拾い上げる。
広げて見てみると……これはローブというやつですかね? 肩からふくらはぎ位までの結構な長さで、ワイトが着ていたものとそっくりなそれをジロジロと観察していると……。
バサッ!
突然ローブがひとりでに広がり、全身がガバッと包まれる。
うえぇっ!? ちょいちょい、なんですか!?
覆い被さるローブを何とか剝ごうと必死にもがくが、もがけばもがくほどローブは体にまとわりつき、更に取れなくなっていく。
そこで察する。あ、ダメなやつだこれ。
そう思った瞬間アウト。無駄な体力を消費したくないがために早々に諦め、流れに身を任せることにする。もうどうとでもなれー……。
十数秒後、初期装備のボロ布の上に結構立派なローブを羽織ったゾンビが完成した。
試しに脱ごうとしてみたのですが、案の定引っ付いたみたいに離れてくれない。
少し嫌な予感を感じつつ、これはおそらくというか確実に装備なのでインベントリから装備欄を確認する。
[装備・防具]酷く呪われたローブ 価値:★★ 品質:F- 耐久:∞
何らかの形で酷く呪われたローブ。その姿を形作るのは亡者の怨恨だろうか。
【被ダメージ2倍】
スキル【死魂魔法】
【強制装備】【破壊不可】
ほらぁ〜……『呪われた』とか書いてるし……。ってローブ以外にも何かありますね。
[装備・装飾]生への確執 価値:★★★★ 品質:ー 耐久:ー
何者かの生きたいという欲望が固定化したもの。それは実体すら無いひどく空虚なものであろう。
【HP2倍】
スキル【延命】
【魂連結】【概念化】
装飾ってことは……アクセサリー? うーん、見たところそんな感じのものは着いてませんけど……あ、説明文から察するに透明というか実体が無いんですかね。うわ、ややこしい……。
おぉ、スキルとか効果も沢山ありますねー。ちょっと不安げなのもありますが……まあひとまずは確認。
【被ダメージ2倍】
この装備の装着者が物理・魔法・特殊の全てのカテゴリーの攻撃を受けた際、受けるダメージが2倍になる。
【死魂魔法】
MPを消費し相手に防御力無視の継続ダメージを与え、与えたダメージの半分HPを回復する。ダメージ量は知力に依存する。
この魔法は闇系統精神魔法に分類される。
【強制装備】
この装備が未装着の状態に限り、最初に触れた者へと強制的に装着される。
【破壊不可】
この装備は内部からも外部からも壊すことができない。
【HP2倍】
この装備の装着者のHPが2倍になる。
【延命】
HPが0になった時、1度だけMPを代替として生きながらえる。
【魂連結】
この装備は装着者の魂と連結し、一生涯離れることはない。
【概念化】
この装備は概念と化しているため見ることも触れることも叶わず、壊れることも無い。
ふむふむ……。初っ端から中々パンチの効いたものが来ましたが……あれ? このスキル群、普通に良くないですか? 唯一のネックっぽい【被ダメージ2倍】は【HP2倍で】ほぼ打ち消されたも同然だし、何より【反撃】が滅茶苦茶に輝きません? だって、先程ダメージを倉えば食らうほど次の攻撃に上乗せされる値が大きくなるって実践しましたし……。そして【死魂魔法】で相手のHPを削ると共に回復も出来ると……普通にヤバくないですか、これ。
装備とスキルの奇跡的な噛み合いに戦慄しつつも、少々気分が高揚してしまう。そして今この瞬間、今後の私のステータスの動きが確定する。
私は思い立ったが吉日と言わんばかりに即座にステータス画面を開き、ステータスの数値を上げることができるステータスポイントを見る。そしてワイトとの戦いにより大量に増えたそれを……──HPに全振り!
名前:アリス
種族:ゾンビ Lv.18
性別:女
称号:低位不死者
ステータスポイント:0
HP:342/342(+20・×2)
MP:56/56
STR:47(+15)
STM:45
DEX:13
AGI:21
INT:14
……
よし、完了ですね。……あ、ちなみにですが、ステータスはステータスポイントを振る以外にもレベルが上昇したり、人外なら進化したりしても上昇するらしく、HP以外も上がっているのはそのせいです。そしてステータスポイントはレベルが偶数の時に5ポイントずつ配布されて、10の倍数になると倍の10ポイントが配布されます。なので今回私がHPに振ったポイントは全部で50となりますね。
そしてここで更に嬉しい誤算なのですが、種族ごとにレベルアップの時に上昇しやすいステータスが違っていて、なんと私が選んだゾンビはHPが一番上昇しやすいらしいんですよね……! いやぁ、こんな偶然あっていいんでしょうか! 滅茶苦茶ワクワクします……!
……ん? そういえば今気づいたんですが、カッコの中の数値も上昇してますよね? これは……うん、やっぱり【体力活性】と【筋力増強】のスキルレベルが上がってる。HPに関しては装備のおかげで2倍になってくれるので大歓迎です。もちろん筋力もあって損は無いと思いますし、どうぞ気にせずじゃんじゃん上がってもらって。
さて、それではそろそろ良い感じの時間帯ですし、今日はもう終わりにしましょうか。
リアルに戻って色々こなしてからベッドへ。
レベルもいい感じに上がってましたし、明日はいよいよ進化ですかね。
はやる気持ちを抑えつつ、そっと目を閉じた。
・ー・ー・ー・ー・
補足 アイテム名の下にある価値について(別になんとなくでもイイヨ)。
基本星5つ方式で、☆(塗り潰されてない星)よりも★の方がレア度が高い。
認識の仕方としては星の数が1〜5のなんであれ、☆だと人の手によって量産できる。★だと現在の人の手では量産できない、みたいな感じ。
そして価値が高ければ高いほど存在する数が少なく、希少性もグンと上がる。
その反面、装備系は希少性さえ高ければたとえ弱かろうが価値が高いこともある。
なので装備本体の強さは品質基準……?(一概にそうとも言えない面倒臭さ)
とりあえずレア度順に並べるとこんな感じ。
☆
↓
☆☆
↓
☆☆☆
↓
☆☆☆☆
↓
☆☆☆☆☆
↓
★
……
★★★★★
品質は基本的にF-からS+まで。その上は……あるのか?
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