探索

 ログインすれば目の前はぬかるんだ地面。

 立ち上がれば見渡す限りの墓。

 さて、今日も元気に地下墳墓探索やっていきますか。

 前回で全体の3分の2くらいは探索し終えたので、とりあえずそこら辺まで移動。

 同族だからかこちらから攻撃しない限りは敵対状態にならないゾンビたちを避けながら、マップの埋まっている端の部分に到達する。

 そうすれば後は黒塗りのところへと踏み出すだけ。

 そうしてじわじわとマップを埋めていると、ふと階段を発見した。上行きと下行きとある。

 え……どうしましょう。

 普通に考えればここ地下ですし上ですよね。

 でも、どうせゾンビから進化しなきゃ街には行けないですし……下行きましょうか。


 恐る恐る階段を下ると、さっきまでのだだっ広い墓場とは打って変わって細い路地のような場所に出た。もちろん周囲は壁に囲まれている。

 これは……うん、迷路ですね。

 少し進んでみればジグザグと探索者を撹乱するような道筋。その先は右と左に分かれた分かれ道となっており、迷わないわけが無い二択を強いられる。

 オプション見ておいて良かった……。ミニマップ無かったら詰んでますよ、これ。

 さて、ひとまずは右に行ってみますか。


 右の通路に入って数分。遂にゾンビとエンカウントする。

 ……あれ?あのゾンビ、なんか生き生きしてません?

 気のせいか肌ツヤもいいような……。まあ相変わらず腐ってますけど。

 さて、こんな時の【鑑定】さんですね。



ハイゾンビ Lv.7

 死したままうごめく死体。目の前の動く有機生命を見境無く襲う。



 ハイゾンビ! ってうわ、レベル高……。私、あれ以降ゾンビと戦ってないからかレベル2なんですけど……。とりあえず名前から察するにゾンビの進化系ですかね。……って、もしかして私の進化先これ? ……ごめんね、皐月。お姉ちゃんまだそっちには行けなそう。


 そして、ハイゾンビを素通りして探索を続けた結果は……道の先に下りの階段を発見しました。と言ってもここに来るまでに何個か分かれ道を通ってきたし、このマップはまだまだ広そうです。

 さて、ひとまずは一旦区切りをつけて明日以降に回しましょう。



 月曜日、お試しで3層に下りてみてかち合ったミイラことマミーに惨殺される。大人しく2層に戻り右通路を全て埋めた。

 火曜日、左通路のおそらく半分ほど終了。

 水曜日、2層終了と3層突入。

 木曜日、かち合うマミー全てに殴り殺され不貞寝。

 金曜日、3層は2層ほど広くなくマップの真ん中辺りまで終了。

 土曜日、サービスが開始して1週間が経過したが……未だ成果無し。マップはあと少しで埋まる。



 そして日曜日。今日でおそらくマップ埋めは終わると思います。4層目が無ければ。

 とりあえず相手がゾンビの感覚ですっ転んでマミーを巻き込むとシャレにならないということをここ数日で嫌ってほど理解したので、マミーに近付かないこと、そもそも転ばないことを心掛けて進んでいきます。


 あ、こっちは行き止まり。なら戻ってあっちに……進んで右が……行き止まり。左…………よし、埋まった。

 そして、ありましたね。4層への階段。

 うん、今まで通りの感じだと4層にはおそらくマミーの進化系がいますよね……。あぁ、遂に私もワンパンですか。

 だってマミーでたしか5確殺とかですよ。とにかく覚悟はしておいた方がいいですね。……よし、行きますか。

 階段を下りるとそこは1層よりも小規模で墓の無い広間。

 その真ん中には……。



ワイト Lv.24

 死者となった魔術師の成れの果て。微弱な知能を有する。



 あー! 終わったー! レベル差めっちゃあるー!

 私がレベル差に打ちひしがれている間も当のワイトはもぞもぞと動くだけで何処吹く風という感じである。

 まあ流石にこれは勝てないのでマジで気をつけつつ避けて行きましょう。


 円形である広間の外周をぐるっと回ってワイトの裏に行くと、奥への道が続いていた。

 それから時折後ろを振り返ってワイトの動向を確認しつつ先へ進んでいく。

 道は長い廊下のように続いており、最奥は【低位不死者】の暗視をもってしても伺えない。

 しかしそれも十数分歩けば縮む距離である。

 さて、ようやく長い一本道を歩き終わった訳ですが……あれ、行き止まり?


 長い道の先は無慈悲にも行き止まりであった。

 え、嘘でしょう……? こんな焦らして何も無いんですか? えぇ……。

 心の内でぶつくさ言いながら、『どうにかしてすり抜けたりしないかなー』なんて考えつつ壁に触れる。


「んっ?」


 すると突然壁が回転し、忍者屋敷さながらの仕掛けが作動した。

 縦一回転した壁に背中を押すと言うより殴られながら思う。どうやら私は今から隠し部屋的なのに侵入するっぽい。


「ぐえっ」


 壁に押されたことによって勢いよく地面へすっ転び、口から勝手にカエルのような悲鳴が発せられる。

 少しして、大して痛くもない腰をさすりながら立ち上がる。


『新たなリスポーン地点が設定されました』


 リスポーン地点? 急にどうして……まあいいか。とりあえず先に進んでみよう。

 そして一歩前に踏み出すと──光る何かが目の前に。


「あ゙ッ」


 何故か唐突に反転した視界が捉えたのは、頭が槍に貫かれた私でした。









「──ってことがあったんだけどさ……」

「うわあ……中々グロいね。聞いただけでもちょっとゾワッとしたよ」

「ね、私も突然でびっくりしちゃった」

「……んで本題だけどさ、なんでかは正直私にも分からん」

「え」

「今サクッと掲示板で調べてみても、そもそも人外を選んだ人が少数派だからね……。有ってもやっと進化したーみたいな投稿しか無い」

「えー、嘘ぉ……」

「ホントホント。……え、他のプレイヤーに殺られた感じじゃないんでしょ?」

「うん、何も無いところから槍が生えてきて……気づいたらこう、グサッと」

「うーん、ゲームオーバーの画面も出なかったっぽいし……うん、多分なんだけどさ、なんか特殊なイベントなんだと思うよ。隠しイベント的な」

「隠しイベント……そう言われたらなんとなくそんな雰囲気はするけど……」

「とりあえず先に進んでみれば? なんか豪華な報酬あるかもよ。人外だと特殊進化アイテムとかかな?」

「へー特殊進化。……あーでもなー……うーん、やっぱりちょっと怖いんだよね。若干トラウマを植え付けられたというか……」

「うん、まあ確かに。仮にゲームの中とはいえ、自分の頭がグサーなってるの見て喜ぶ人なんて居ないだろうし」

「……まあでも、このまま普通にやって進化しても結局ゾンビ感は拭えなさそうだったし、一縷いちるの望みをかけてやってみようかな」

「うん、頑張れ! 私はお姉ちゃんを応援してる! そしていつかゾンビ脱却して一緒にやろー!」

「ん、頑張る!」


 翌日の朝食後、咲希からの温かい声援を受けつつ、もう既に一週間経って慣れたFAOへのログインを行う。

 ログインすれば視界には昨日私の頭が貫かれた所がそのまんま映る。

 なるほど、あの時突然リスポーン地点が設定されたのはこのためですか。これで余計隠しクエスト疑惑が大きくなりましたね。


 そして周囲を見回した感じ血などは残っておらず、本当にここで頭を貫かれたのか疑問を抱く。

 まあとにかく進まないことにはどうにもなるまい。

 それじゃあ、ここからは死にに行くも同然なので痛覚を切って……と。よし、行きましょう。

 気合を入れて一歩踏み出す。……と共にデス。死因はもちろん前回と同じく正面から飛び出してきた槍。

 ……ふむ、前回からギミックが変わったりはしてないっぽいですね。だったら後は試行回数を重ねるのみ!

 相変わらず本来ならデスすると出るらしいゲームオーバーの文字も出てきませんし、目覚めたらすぐそこに例の槍の場所。やはり血等は散っていませんが、あまりいい気持ちはしません。


 さて、まずはここをどう突破するかですが……まあ正直しゃがめば……あ、行けた。じゃあここから右に……あうっ。


 槍の飛び出た場所から向かって右側に立ち上がろうと思ったのですが、足元が開いて落下。そのまま剣山に落ちて串刺しにされました。うぅ、このマップ作った人性格悪いぃ……。……はぁ、頑張ろ。えっと、さっき槍を避けたあと右に行って落ちたので……今度は左に行ってみましょうか。

 よいしょ……と、何も起こりませんね。どうやら当たりみたいです。

 よし、こんな感じで頑張って進めて行きましょう。幸い地道にやるのは嫌いじゃないので、そこに関しては苦じゃないです。しかし、うーん……死にすぎて終盤の時には廃人になってないといいんですが……。






 それから数時間後、私は最終的に辿り着いた扉をくぐった先で一息つく。

 ……ふぅ、一旦終了ですね。いやぁ、途中で散々殺されまくったせいで死ぬことに対しての恐怖心が無くなった時は流石にそうなっちゃった私自身に恐怖しましたよ。

 さて、奥にはなんか仰々しい台座の上に置かれた像? とにかくあれが良い物でなければ私の今までの数時間は水の泡になってしまう。

 半ば祈りながら、そしてまだ例の殺人ギミックが残っていないか周囲を警戒をおこたらず進んでいく。

 ……ほっ、どうやらもう死ぬ必要は無いみたいですね。

 周囲を漁って殺人ギミックが存在しないことを確認して、ようやく目当ての像に近付く。



否定の象徴 価値:ー

 不能、不実、不可能。それは万物への否定を風刺する。



 ほう。……うん、そうですねとしか言いようがないんですが……。これなんなんでしょう? 鑑定結果は当てにならないし、ハズレですかね……。

 あからさまに肩を落としながら、一応裏やらどこかしらに何かないか確認するために像を持ち上げようと手を伸ばした。


 そして像に手が触れた──瞬間、私の手と像が融合した。


 うわぁっ!? ちょっ、ちょちょちょっ!? 何が起こってるんですか!?

 咄嗟に手を上に仰け反らせたが、手のひらには像がぴったりとくっ付いた感触が残っている。慌てながら手に視線を向けるとそこには未だ手と融合した像が。

 ええっ、えっ、えぇっ!?

 私が驚いている間も像は融合したままで、遂には手にズモモ……という感じ引き込まれ始めた。しかし不思議と痛みはなく……って私そういえば痛覚切ってました。……じゃない! とりあえずこれを外さなきゃ!

 空いている左手で必死に像を取り出そうと掴むが、滑ったり固かったりで上手く取れない。

 そうしている間にも像の侵入は進行していき、最終的には像が手に吸い込まれて消えた。


「あ……」


 無くなっちゃった……。も、もしかしたら死んじゃうかも……って、ここはゲームの中なんだから大丈夫、ちょっと落ち着け私。



『不死の象徴を取り込んだことにより進化可能種族が追加されます』


 ……ん? お、おう……おう? 進化可能種族ってことは……当たり!? やった! 咲希、お姉ちゃんやったよ~!

 そうとなれば早速進化を……ってまだレベルが足りないのか……。えーっと何々……『進化は人外種かつレベルが20の倍数に達したときに行えます』。私の今のレベルが道中ハイゾンビやら何やらと殴り合ってきた甲斐あって14だから……あと6レベかぁ……。

 あ、そういえばここに来る前にいたワイト……ってムリムリ。だってレベル差10とかだよ? 流石に……ね?







ワイト Lv.24

 死者となった魔術師の成れの果て。微弱な知能を有する。



 ど、どうも~……。

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