初プレイ
なんとなく察してはいましたが、やっぱり墓場なんですね……。
見たところ地下墳墓ってとこでしょうか? 広いジメッとした空間に沢山の墓が乱立している。
目の前には明らかに普通の人間じゃないもの、ゾンビですね。がうじゃうじゃ……してるんだと思います。うーん、急に視界が悪くなりましたね?
さっき視界が切り替わった瞬間はハッキリと見えていたはずなんですが、今はぼやけて所々霞んで見えます。おそらくゾンビになった弊害なんでしょうけど……難儀なものです。
とりあえずメニューのフレンド申請からローカル申請を選択して……あ、出ました。うん、ご飯の時に教えて貰っていた咲希のプレイヤー名と一緒ですね。フレンド申請っと。
それではオプションでも見ましょうか。
オプションは大事です。ちょっと弄るだけで今後の快適度が全くと言っていいほど変わるので。
えーっと、ミニマップ……ほら、早速便利そうなの出てきた。迷わずオンっと。
人外用頭上マーカー……あのプレイヤーかモンスターか判別するやつですね。オンのままでいいでしょう。
などと小さな項目を色々見ていく内にオプションの大半を見終え、最終に差し掛かる。
描写設定:全年齢、R-15G、R-18G
全年齢
血を含むスプラッターな表現が控えられ、血はポリゴン状に変換され傷口を隠します。
R-15G
血はそのまま表示し、傷口・断面に薄いモザイクが掛かります。
R-18G
多少のデフォルメは施されますが全てそのまま表示されます。
グロ系ホラーゲームなどがお好きな方におすすめです。
これは……全年齢のままで。ここは変に見栄を張る部分じゃありませんし、今現在無くなっている私の左手がリアルに表示されるとか普通に嫌ですし。
あ、そうなんです。私の左手……正確には肘から先ですけど、部位欠損になっちゃったんですよ。
ちなみに気付いた理由は私考え込むときに左手を唇に添える癖があるのですが、さっきそうしようとした時に空振ったからですね。
よし、次行きましょう。
痛覚設定:0~100
※数値が増えるほど現実と同じ感覚に近付きます。デフォルトは20です。15歳未満の方は30、18歳未満の方は80以上には出来ません。斬撃、刺突、打撃、魔法全てそれぞれ異なる感覚がします。
「……」
無言のままバーを左へ。理由は言わずもかな。
というか攻撃の種類ごとに別々の感覚がするって中々凝ってますね、要りませんけど。……まあ、その頑張りを称してほんの少しだけバーを右にずらしてあげましょう。べ、別に好奇心に負けたわけじゃありませんから、単にこれは情けとしてですね……。
まあいいです。とりあえずオプションはこれで終わりですかね。
次はインベントリ……持ち物ですね。確認していきましょう。
まずは装備から……。
[装備・防具]泥に
何があったのだろう。所々破け、薄汚れた姿は服のように見えなくもない。
[装備・防具]ズタボロの靴 価値:☆ 品質:F 耐久:ー
底がすり減り見るも無惨な靴だった物。履いたとして機能するのかは疑問が残る。
うわぁ、たとえゾンビだとしてもこれは悲しいですね……。
耐久が無いのは初期装備なだけあって壊れないのか、それとも既に完膚なきまでに壊れきってのことなのか……。
[回復・体力]初心者用HPポーション×5 価値:☆☆☆ 品質:C
HPを全体の20%回復させる液状の魔法薬。
不死者効果無し。
[回復・魔力]初心者用MPポーション×5 価値:☆☆☆ 品質:C
MPを全体の20%回復させる液状の魔法薬。
不死者効果無し。
[回復・空腹]初心者用携帯食料×10 価値:☆☆ 品質:C
空腹を10%和らげる持ち運びに特化した食料。
不死者効果無し。
あ、回復アイテム……と思ったけど全部『不死者効果無し』!? ダメじゃないですか!
とりあえずHPは回復スキルがあるから良いとして、問題はMPか……まあうん、効果無いって言われちゃったらもう駄目ですね。諦めましょう。
あとは……うん、特にないですね。
さてと、それじゃあ本格的にゲームに取り組んでいきましょう。
あ、メニューを閉じたらミニマップが視界の右下にちゃんとありますね。
よし、それじゃあまずはマップを埋めることから始めましょう。
と言っても相変わらず視界は悪いですし、足場も若干ぬかるんだ土なので歩きづらい。
まあ霞んだ視界でもある程度なら物体の輪郭が掴めるので、前方の大きな障害物やゾンビが判別できるのは助かりますね。
疑似的ですが、普段眼鏡を着けるほどの視力の人の苦労を体感している気分です。
おっ……とと。足元が結構デコボコしてますね。危うく転びそうでしたよ。
「──あっ」
グシャッ!
前言撤回、普通に踏み外しました。
……ところで、あの、とりあえず倒れた瞬間自分の体から出ちゃいけない音が聞こえた気がするんですけど。
幸い痛覚設定のおかげか大した痛みは感じませんが……うん、良い気分はしませんよね。
とりあえず起き上がって体勢を……。
バキッ!
「──あぐッ!?」
すると突然、顔の頬あたりに重い衝撃が走る。
そのまま頭はボールみたいに何かに押し出されるような形で弾かれ、ただでさえ霞んだ視界がブレて余計に見えづらくなる。
そのまま一瞬滞空した後、体は地面に転がって
「うっ……な、に……?」
着地した衝撃で少し呻きつつ、突拍子もなく衝撃が走った頬に手を添え、数秒間フリーズする。
そこで最初こそ何が起こったのか分からず呆然としていたが、時間が経つにつれてゆっくりとだが冷静さを取り戻し、段々と今の状況を整理し理解できるようになっていく。
さっきまで慎重に歩いてたけど踏み外しちゃって、転んで、それから……。
シャレにならないが、走馬灯のように先程までの記憶を映像風に思い出していると、視界の端に何か見覚えのある配色の物体が映る。
──ゾンビだ。
顔だけ動かして周囲を見上げてみると、辺りに罠や障害物なんかは見当たらなかった。確である。私はコイツに殴られたんだ。そう理解すると心の底からふつふつと怒りが込み上げてくる。
幸い地面に倒れ伏したおかげでヤツの視界から外れたらしく、敵対表示を出さずアホみたいにキョロキョロしている。
遂には怒りを
そしてゾンビの足が目の前に来たと思った途端、目の前の足を体全体を使って思っきし腕で薙ぐ。
腕を振った拍子に腕が変な悲鳴を上げた気がするが、痛くは無いので気にしない。
そうするとゾンビは案外簡単にすっ転び、転んだまま地面でワタワタと慌ただしくもがき始めた。
ふっ、なんか滑稽。ゲームの中とはいえ、乙女の顔面を容赦なくぶん殴った代償です。ざまぁないですね。
さてと、そしたらその勢いのまま立って馬乗りになり一気に殴り掛かる!
グチャー!
あれ、なんか楽しい……?
視界が霞んで詳しく見えてないのもあるとは思うが、モザイクがかった肉片が飛び散る様を見て謎の高揚を抱く。
もしかして私、スプラッターの才能が……!?
あ、いやこれそんなんじゃないわ。殴るにつれて爽快感半端ない。
この感覚は、あれだ……いつもストレス発散に使ってるクッション! いや、でもリアルの私の部屋にあるクッションは見た目的に可愛らしいのでそんなに力いっぱい殴ったりはしないのですが……何分今の相手はゾンビ。質感や音に差はあれど殴るという行為自体は変わらない。そればかりか相手が生身なのもあって余計にスカッとしていく。
気づいた時には股下のゾンビはモザイクと霞んだ視界の二重規制が掛けられた見るも無惨なものに成れ果てていた。
頬に散った血を拭い、一息。
「ふぅ……」
なんか……生まれ変わった気分です。
どことなく達成感を味わいながら立ち上がると、ゾンビだったものは光の粒子となって消えていった。
『スキル【拳】とスキル【反撃】とスキル【鑑定】を取得しました』
『レベルが上がりました』
おぉ、なんか前半に聞き慣れないものが聞こえましたが、とりあえずレベルが上がったらしいです。
どれどれ……。
名前:アリス
種族:ゾンビ Lv.2
性別:女
称号:低位不死者
ステータスポイント:5
HP:47/60(+10)
MP:15/15
STR:14(+10)
STM:7
DEX:5
AGI:6
INT:8
スキルポイント:2
スキル
【体力活性 Lv.1】【筋力増強 Lv.2】【拳Lv.1】【反撃】【鑑定 】
種族スキル
【低位不死者】【腐爛体】【HP自動回復 Lv.1】
ほうほう。お、HPとかのステータスが追加されてますね。レベルアップが解放条件なのかな?
HPは……回復中ですね。大体30秒に1くらいですか。まあレベル1ならこんなものですよね。
それでは次にレベルアップの前に言ってたスキル? を見ましょう。
【拳】
握り拳の強度が上昇する。強化率はスキルレベル依存。
取得条件:己の拳を用いて対象を複数回殴打する。
【反撃】
敵から受けた攻撃の分だけ次の自分の攻撃に上乗せする。
取得条件:敵からの攻撃を受けた状態で敵を攻撃し倒す。
【鑑定】
対象の名称、レベルまたは価値、といった最低限の情報を視認できる。プレイヤーには使用できない。
取得条件:プレイヤー以外のオブジェクトを一定時間凝視する。
ふむふむ。どうやら普通のスキルは初期スキルとは違って、この効果の隣にある取得条件ってやつを満たせば自然と取れるっぽいですね。
うん、効果もいい感じ。特に【拳】がありがたい。いや、別に痛みは無いので問題ないんですけど、敵を殴る度に骨が音を立てて逝くのはちょっと……。
次の【反撃】は……ふむ、これは俗に言うカウンタースキルってやつですかね。でも私の知ってるやつと少し違うような……? まあいいか。
で、最後の【鑑定】は……特に言うことないですね。とりあえずまた後でゾンビにでも使ってみましょう。
さてと、ある程度スキルの確認を終えたところで……あ、ゾンビが消えたところに何か落ちてますね。
[食材]腐った肉 価値:☆ 品質:F-
ドロッドロに腐った肉。たとえ火を通そうが食せば体に何かしらの不調が訪れるだろう。
ゾンビからドロップされた。
……リリース。要りません。初ドロップ品がこれは嫌でしかありません。
いや、まあなんとなく勿体ないので捨てはしませんが……おそらく使うことも無いでしょう。
整理はまたインベントリがいっぱいになった時にでも。
さて、それでは先程の二の舞にならないよう足元に気をつけながら探索を始めると、ふと視界の端に電話のマークが現れ、白く点滅し始めた。その下には咲希のゲーム名。通話かな?
『もしもし、お姉ちゃん? 今どこ居るのー? 探してるけど見つかんない』
「あ、ごめん。お姉ちゃん今ゾンビなの」
『ゾン……ゾンビ?』
「うん。よく見えないんだけどね、多分地下墳墓に居るかな」
『えー、よりにもよってゾンビかぁ……。というかお姉ちゃんそういうの別に好きじゃなかったくない?』
「実は進化に釣られちゃって……」
『あ、それは分かる。でもゾンビだよ? 私は無理だなぁ』
「咲希は本気でそういうの苦手だもんね。……ってあ、そうだ、そうだった。ごめん咲希、これじゃ一緒にできないよね。一回消して作り直す」
『え? いや、別にいいよ。進化すればまだ救いはあるだろうし、第一にお姉ちゃんに楽しんでもらうことの方が大事だから』
「さ、咲希……!」
出来た妹すぎてツラい……!
まあ感動してる内容はゾンビについてですが。
『あとお姉ちゃん、多分ゾンビなら万が一にも人居ないだろうけど、ここ一応ゲームの中なんだからプレイヤー名で呼んでよね』
「あ、そうだった。ごめんね、
『いーえ、アリスお姉ちゃん』
「ふふ、なんか変な気分」
『同意ー。じゃあ私もモンスター狩りたいし切るね。続きはまたご飯の時にでも』
「はーい」
通話が切れたので再度足元に注意を払いながら探索する。
出来る限り転倒と巻き込み事故をしないようにしないと……。
それにしてもすっごい広いですね、ここ。いや、私の足が遅いのもあるのか。
このゾンビの体、脆弱性が酷すぎてさっき足元のお墓に足をぶつけた時も「いったー」どころかひしゃげちゃいましたよ、足が。ヤバいですね。
そんなこんなで夕食を挟んで慎重にゆっくり進んでいたら、もう既に時計の針が深夜0時を回っていた。もちろんいつも寝る時間はとうに過ぎています。
急いで広間の隅にあるお墓の裏まで行き、そこに座ってログアウトする。
今度ログインした時、目の前にゾンビが居たりしたら流石に心臓に悪いので。
取り外したVRの機器を片して、トイレなどを済ましてから再度ベッドへ。
いつもよりクリアに見える視界に少し感動しながら目をつむった。
・ー・ー・ー・ー・
ゲーム用語メモ
HP 体力。魔法でも物理でも攻撃食らったら減る。無くなったらデス。
MP 魔力。魔法使ったら減る。無くなったら魔力欠乏の状態異常になる(だるくなる)。HPと違い時間経過で少しずつ回復する。
STR 筋力。物理攻撃力など。
STM 持久力。スタミナ。
DEX 器用。弓などの命中率、手先の器用さなどに影響する。
AGI 敏捷。大雑把に言えば足の速さ。
INT 知力。魔法増幅率または魔法攻撃力など。
※VIT(またはDEF)が無いのは手違いじゃないです。理由は追々。
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