第26話 ――へぇっ⁉

 修学旅行の最終日。

 地元空港への直行便がなく、関西国際空港経由で帰る日程の都合で、その日のフライトは昼過ぎの予定だった。

 そのため、朝から新千歳空港にバスで向かい、フライトまでの時間は空港内で土産物を買ったりするのに充てられていた。


「……あっという間だったね」

「うん。楽しいことって、すぐ終わるよね。残念だけど」


 空港で土産物の店を回りながら、桃香は残念そうに呟いた。


「今回は本当にそれ実感したよー。じゃあどっちが良い? って聞かれたら、もちろん楽しい方がいいんだけど」

「そうだね。……あ、あのすごく並んでる店、ソフトクリームで有名みたいだよ? 最後に食べておく?」

「うん! 食べる食べるっ!」


 塔矢が指差した先には、ソフトクリーム待ちの行列ができていた。

 同級生も何人か並んでいるのが目に入る。

 ふたりはその後ろに同じように並んだ。


 並んでいる間も、談笑していると時間があっという間に過ぎる。

 時折、横を同級生が通り過ぎていくが、彼女はもう気にもせず笑顔を見せていた。


「美味しいね」


 ソフトクリームを受け取った桃香は、すぐにペロッと舐めて感想を溢すと、目尻を下げた。


「バニラは初めてだね」

「うん。いろんな種類があったから、つい……」


 溶けぬよう食べ進めながら、桃香は答える。

 小樽でも食べたし、札幌に帰ってからも、つい店に引き寄せられてソフトクリームは食べたが、どちらも北海道なりの味の付いたソフトクリームだったのだ。


「やっぱり僕はこれがシンプルで好きだな」

「んー、なんていうか……最後に食べたのが一番記憶に残るんだよね、私は」

「確かに、それはあるかもね。……今はどう?」

「これが美味しい。あははー」


 笑いながら桃香はコーンをバリバリと食べ始めた。


 ◆


「家族へのお土産どうしよう……」

「私も……」


 2人とも自由行動を楽しんだ代わりに、結局札幌では何も土産を買っていなかった。


「とりあえず、白い恋人と生チョコ買っておけば良いか」

「チョコは持って帰る時に溶けちゃうからやめた方がいいよ?」

「あ、そうか……」


 保冷剤を付けたとしても、関空まで2時間半。

 更にそれから学校までバスで3時間かかる。そしてご丁寧にも、最後にありがたいお話を聞いてからの解散だ。

 6月ということを考えると、溶けてしまって大変なことになる可能性は十分にあった。


「となると難しいなぁ……。桃香はどうするの?」

「チーズケーキとかゼリーが良いかなぁって」

「あ、なるほどね」


 桃香は暑くても大丈夫な土産物を物色していた。

 塔矢もそれに倣って、土産物を見繕った。


「これで……よしと。……あとはどうする? まだフライトまで時間あるけど」

「お昼食べておかないといけないんじゃなかったっけ?」

「あ、そっか」


 ここで食べておかないと、学校に帰るまでまとまった時間がなかった。

 食べそびれると、パンなどを買ってバスで食べるしかない。


「それじゃ、何食べようか?」

「ラーメンが良いな。札幌で食べなかったから」


 塔矢が聞くと、桃香は即答した。

 確かに、今回の旅行では悩んだ挙句に、小樽で海鮮丼を食べることにしたため、ラーメンは食べていなかった。


「とりあえずラーメンの店が固まってるところ行ってみる?」

「うん!」


 ◆


「なんかすごく並んでる店があるね……?」


 一通り店をチェックしてみると、どうも端の1軒だけ人が並んでいる店に気付いた。

 気になってスマートフォンでチェックしてみると、札幌ラーメンの店ではなく、海老のスープを使ったラーメン店で最近人気があるらしかった。


「どうする? 札幌ラーメンじゃないみたいだけど……」


 塔矢が聞くと、桃香は少し悩んで答えた。


「うー、ここ札幌じゃないしね。……美味しいなら並んでみても良いかなって。塔矢くんはどう?」

「そうだね。札幌ラーメンはまた今度来た時に、札幌で食べれば良いかなって僕も思うよ」

「じゃ、決まりだね」


 率先して並ぶ桃香に塔矢も続く。

 並んでいると、確かに独特の良い匂いが漂ってきて、お腹が空いてきた。


 回転は思ったより早くて、しばらく並んでいると思いのほか早く順番が回ってきた。


「すごく……エビだね」

「うん。エビの匂いしかしないね」


 運ばれてきたラーメンの香りを嗅ぐと、漂ってきていた匂いそのままで、全力でエビの匂いだった。

 ここまで主張していて本当に美味しいのかと疑問に思いながら、塔矢はひと口スープを飲む。


「あ、美味しい……」

「ほんと」


 2人は同時に感想を呟いた。

 エビと味噌の出汁が良く馴染んでいて、行列ができるのも納得できる味だった。


「予想外に美味しかったよー」


 あっという間に食べ終えた桃香が笑顔を見せた。


「それじゃ、そろそろ集合時間も近いし、行く?」

「そうだね」


 ◆◆◆


「……すーすー」


 関空までのフライトを終え、帰りのバスの中。

 それまでと同じように桃香は塔矢の隣に座っていた。

 しばらく塔矢と雑談していたが、だんだん眠くなってきて、気付くと彼に寄りかかったまま寝息を立てていた。


 塔矢が周りを見回すと、半数くらいの生徒が同じように寝ているように見えた。

 桃香が寝てしまってやることもなくなった塔矢は、彼女の手をそっと握って目を閉じた。


 ◆


「……今回、1名途中で体調不良の生徒が出て、まだ保健の先生が現地で付き添っていますが、その他事故等はありませんでした。無事帰ってこれた皆さんは明日から気持ちを入れ替えて、受験生として……」


 学校に帰ってきて、引率した教頭先生が締めの挨拶をしている間も、桃香は目を擦りながら眠そうにしていた。


「……ごめんね、重くなかった……?」


 小さな声で桃香が耳打ちする。


「うん、気にしないで」

『……桃香の可愛い寝顔の写真が撮れたからね』


 塔矢は軽く答えてから、彼女の頭に語りかけた。


「――へぇっ⁉ い、今なんて……?」


 一気に目を覚ました桃香が声を上げる。

 ただ、近くの生徒の視線が彼女に集まったのを見て、桃香は慌てて表情を戻して平然とした顔を見せる。

 それが塔矢には面白くてつい顔が綻んでしまった。


「……おわっ!」


 桃香は澄ました顔で塔矢の脇腹を摘むと、今度は塔矢に皆の視線が集まり、彼女は口角を下げた。


【第3章 あとがき】


 1章まるまる修学旅行でいいのだろうか。

 いいんです(笑)

 このルート、実は自分が修学旅行に行ったルートそのままです。

 もちろん、自分には彼女なんていなくて、男子グループでさみしく札幌を周遊しておりましたが……。


 さて、第4章は話が大きく展開します。

 高校で起こった事件と、それに巻き込まれてしまうふたり。

 ――果たしてその結末は⁉︎

 乞うご期待!

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