第14話


「余計な時間を取らせやがって…まあ、そのお陰で死んだから良いけどな」


嬬恋のれんは砂漠の砂と灰と化した呉嶺玄の死体を混ぜている。

一応は埋葬でもしようとしたのだろうが、余りにも炭化していたので諦めて砂と同化する様にしていた。

これで自然に還れば良いと思っているのだろう。


「嬬恋の姐さん、俺が戦った相手は一体、何者なんだ、いや…何者だったんだ?」


既に死に耐えた相手の事を、狗神仁郎は説明を求めていた。

自分の命を取ろうとした相手、何も知らずに死んでいたかも知れない。

だが、こうして生きている、生きている以上は、自分が戦った相手が何者だったのかと考え続けるのは、今後の仕事に対して影響が出てしまう。

嬬恋のれんは、白骨死体の様な槍を回収しながら言った。


くれ嶺玄りょうげん戮骸戰尽りくがいせんじんの一味だ」


と言った所で間が空いた、振り向いて狗神仁郎の方を見て付け加える。


「組織名を口にしても分からねぇか、要するに脳を切り裂かれた戦闘狂集団だ」


砂漠の砂を均して指で絵を描く。

狗神仁郎はその絵を見ると、指で描かれているので線が太く絵が潰れていた。


「切腹した武士みたいな絵と、その上から沢山の武器が降り注いでいる様な絵が、奴らの紋章でな…」


「へぇ…」


狗神仁郎は先程の説明でこれが切腹した武士なのかと思った。

なんだかミミズが躍っている様な絵だったので全然分からなかった。


「んで、こいつらの行動理念、組織としての方針は…一文字で『みなごろし』だ」


「…物騒な事を方針にしてるんすね」


組織名からして物騒だとは思ったが、方針ですらも血生臭い。

狗神仁郎は、その説明だけで呉嶺玄と言う存在がどんな人物であるのかが理解出来た気がした。


「戦う事が大好きな奴が自然と集まったって感じだからな…」


「…だからと言って、迷惑にも程がある、戦いが好きなら仲間同士で殺し合えば良いだろうが」


狗神仁郎の言葉は尤もだった。

嬬恋のれんもそうだと頷いているが。


「実際に殺している事もあるんだよ…むしろそっちが本命だ」

「組織外の人間を殺す事で実力を鍛える、自分の実力が高まれば」

「自分よりも上の人間に挑む様になってんだ」

「だから奈落迦の非生は、奴らにとっての経験値なんだよ」


戮骸戰尽と言う組織が何となくではあるが理解出来た。

要するに本命の為にそれ以外を利用する集団である、と言う事だ。

厄介な連中である事には変わりないだろう。


「…さて、一度帰るぞ、幸いにも、禍遺物は蒐集出来たしな」


そう言って嬬恋のれんは禍遺物を肩に抱えた。

それは、呉嶺玄が使用していた白骨死体の槍である。


「これを持って帰りゃ、今日の仕事は終わりだからな」


棚から牡丹餅と言った感じで彼女は思わぬ収穫だと嬉しそうにしている。


「あの呉嶺玄が使ってたんだ、少なくともランクはC以上は確定だろ」


白の槍を肩に担ぎながら、嬬恋のれんは手を伸ばす。

指に嵌められた禍遺物を使用すると、黒い煙が充満して、煙が晴れると、扉が出現した。


「さあ、帰るぞ」


嬬恋のれんの言葉に狗神仁郎は頷いた。


「帰ったら今後の話をするぞ」


直後、狗神仁郎は帰りたく無くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る