第13話
木製甲冑の男と戦闘を再開しようとした直後。
「くっそ、空中かよっ」
空から声が響く、狗神仁郎は上部を見上げると、空から嬬恋のれんが現れた。
どうやら、彼女も転移用の罠を踏んだらしく、嬬恋のれんが時間差で登場すると、現状を即座に把握。
「(狗神と戦ってるのは、呉嶺玄かッ)」
嬬恋のれんは相手が何者なのか知っている。
落下する嬬恋のれんは鉄扇を取り出すと共に、羽を開くと木製甲冑の男…もとい、呉嶺玄に向けて鉄扇を振るう。
「此処で遭ったが何百年だ、命運尽きたな、呉嶺玄ッ!!」
叫ぶと共に、嬬恋のれんの鉄扇が振るわれる。
彼女の禍遺物は『
巨大な扇から放たれる風は、周囲を包み込む炎と化し、雪崩の様に落ちる炎の壁が、再生しつつある呉嶺玄の肉体を包み込む。
身体が蠢き、背中から無数の枝が生えると、そのまま地面に向けて突き刺していく、その行動に、嬬恋のれんは見逃さない。
地面に着地すると共に、彼女のブーツが形状を変える、脚部に装着した靴も、禍遺物であった。
『
轢くと燃やす、二つの攻撃が行える禍遺物を駆動させながら、嬬恋のれんは呉嶺玄の背中から生える細枝を車輪で切り裂く。
「そのまま、燃えてくたばっちまえッ!」
柄が悪く、口を大きく開いて罵る嬬恋のれん。
そのまま燃やし尽くされる呉嶺玄は、歩行をしていたが、やがて、動かす足を止めて、地面に倒れる。
燃える呉嶺玄を見据えながら、嬬恋のれんは警戒を解く事無く見つめている。
そして、呉嶺玄の甲冑は炭化していき、炎が掻き消えた事で、完全に死滅した事を察する嬬恋のれんは、ぺッ、と唾を吐いた。
「ざまあみろ、二度と這い上がるんじゃねぇぞ、戦闘狂」
知り合いであるかの様な口ぶりで、嬬恋のれんは火葬された呉嶺玄に念仏を唱える事無く侮蔑の言葉を吐いた。
狗神仁郎は、あっと言う間に終わった戦いに、呆然としていたが、心臓の音は高鳴りっぱなしだった。
そのまま、重苦しい息を吐くと共に、自らの胸に手を添える。命を懸けた戦いに狗神仁郎は興奮を抑え切れない。
「ああ…畜生」
本当は、最後まで自分で戦っていたかった。
その本心から、悪態を吐いていたが、そんな事は嬬恋のれんには分からない事である。
「嬬恋の姉御」
狗神仁郎が嬬恋のれんの元へと駆け寄ろうとした時、嬬恋のれんは狗神仁郎を睨んだ。
「待て、来るな」
手を伸ばして、其処から動くなと言った。
まだ何か脅威でもあるのかと、狗神仁郎は思ったが、直後、嬬恋のれんの肉体が発火する。
「禍遺物を使用したツケが来た、来ると丸焦げになるぞ」
体中に炎が付くと、嬬恋のれんを包み込んでいく。
赤い炎が嬬恋のれんを飲み込み、狗神仁郎は狼狽えた。
「嬬恋ッ!」
どうにかして炎を掻き消さなければならない。しかし、狗神仁郎の装備では彼女の炎を消すには至らない。
「馬鹿野郎、この程度で慌てんじゃねえってんだ」
しかし、嬬恋のれんは悠然としていた、狗神仁郎の狼狽っぷりに、逆に落ち着けと言い出す。
嬬恋のれんは両手をおわんの様にカタチを整え出した、すると彼女の肉体に張り付いた炎の呪いが、そのまま両手のおわんに向かって動き出す。
手に集中する炎に嬬恋のれんは口を開いた。
舌先に取り付けたピアスが狗神仁郎の目に入り、そのまま、酒を飲むかの様に、炎を口の中へと流し込む。
「んぐ、んぐっ…ぷはっ」
そうして、嬬恋のれんは、体に付着した炎の全てを飲み干すのだった。
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