第12話
相手の言葉を、狗神仁郎は狼狽する事無く順応する。
懐から二つの禍遺物を取り出すと共に戦闘態勢に移る。
会話は不要、相手は殺意を滾らせる。
遠慮は無用、相手に殺意を滾らせる。
剛力金輪の上から、金属製の籠手を嵌める。
籠手、と言うには、防護する部分は拳骨の部分だけだ。
その形状は回転拳銃の胴体を改造した様な代物で、分り易く言うのであれば、リボルバーのシリンダーを模したメリケンサックだった。
狗神仁郎がそれを装着すると共に、もう片方の空いた手に赫怒鎚を持つ。
「なんだァその
感情を昂らせる木製甲冑の男に、狗神仁郎はメリケンサックを強く握ると同時、肉体が加速する。
瞬間、相手の懐にまで接近したと同時に狗神仁郎はメリケンサックで相手を殴った。
「ッ」
強い衝撃が、木製甲冑の男の腹部に発生する。
狗神仁郎の持つ禍遺物、その内の一つである代物…銘を『
その使用効果は単純で、リボルバーを模したメリケンサックを握り込むと、衝撃を発生させ肉体を射出する事が出来ると言う禍遺物である。
当然、何度も使用出来るわけでは無い、この禍遺物は使用する所有者を呪う型ではなく、禍遺物自体に循環された呪詛を持つ。
撃鐵拳鍔は射出する衝撃を外部から取り込まなければならない、衝撃の吸収方法は、使用者の肉体から直接、撃鐵拳鍔に装填される。
即ち、狗神仁郎が肉体を破壊する程の衝撃を受けなければならないのだ。
相手による攻撃が前提とされた禍遺物、しかし、使い捨てであればデメリットが無い優良さを踏まえて、ランク設定ではB判定を受けた禍遺物であった。
「高速移動、内部破壊の衝撃ッ!二つか!?禍遺物の効力はよォ!」
楽し気に叫んでいる木製甲冑の男、髑髏を模した大槍を構えると共に、狗神仁郎に向けて刺突を繰り出す。
狗神仁郎は、その攻撃を赫怒鎚で受け止める、刺突による圧しは、剛力金輪によって膂力強化した為に均衡し、…間髪入れずに狗神仁郎は、撃鐵拳鍔を槍に向けて振るう、メリケンサックを握り締めると衝撃が発生し、大槍の穂先を破壊。
軽快な音だ、本物の骨と相違無い程、狗神仁郎は更に距離を詰めて赫怒鎚を振るうと、木製甲冑の男に平で三発叩き付ける。
「が、はッあッ!!」
「(赫怒鎚による禍根を付加、同時に…)」
瞬間…赫怒鎚の呪詛が発動する、赫怒鎚を使用した際、一発の攻撃に対して、使用者の内部から攻撃力分の衝撃が発生するのだ。
使用すれば使用する程に、同威力の衝撃が肉体に発生する事になるが…その衝撃を、撃鐵拳鍔の呪詛効果により吸収される。
「(ストック分は回収完了、撃鐵拳鍔は最大六連使用可能)」
故に、狗神仁郎に受けるデメリットは相殺される。
更に、狗神仁郎の赫怒鎚の恩恵、所持している能力が発動される。
肉体に打ち込まれた打撃、その一撃とは別に肉体に呪詛を残す、通称『楔』と呼ばれる禍根は、打撃を与えれば与える程に本数を増やす。
「(合計七発分…生身なら即死に至る本数、耐久系の禍遺物でも大打撃に加えて、麻痺は確定的だ)」
赫怒鎚の恩恵は、楔と言う禍根を与えるものであり、その楔が多ければ多い程に内部衝撃を発生させると言う相乗効果を持つ。
衝撃発生条件は、一度打ち込んだ楔を再度、赫怒鎚で打ち込む事だ。
再度、相手の懐に入り込んだ狗神仁郎は先刻打ち込んだ楔を叩き付ける。
瞬間、衝撃が発生する、七本の楔が炸裂し、木製甲冑の男の肉体に亀裂が入る。
「な、がッ」
膝を突く木製甲冑の男、狗神仁郎は休む事無く肩、首、頭部を赫怒鎚によって打撃を与えて楔を打ち込むと共に、再び楔を叩き付けて衝撃を炸裂。
頭部を破壊された木製甲冑の男は、乾いた砂漠の地に向かって大量の血を流し込んだ、狗神仁郎は相手の死を確認した末に振り向く。
「なんだったんだ、こいつは…」
狗神仁郎は周囲を見回した、どうやら、被っていた帽子が何処かに吹き飛んでいたらしい。
遠くに置かれた帽子を確認してそれを回収する、ツバの部分を掴んで帽子を被った時。
「ぐ、お、ァ」
背後で、生命の声が芽吹いた。
狗神仁郎が振り向くと共に、頭部が吹き飛んだ木製甲冑の男が立ち上がっていた。
背中からは、樹木の細枝の様なものが地面に向かって伸びていて、木製甲冑の男の起床を助けている様にも見える。
木製甲冑の男の頭部は、兜が破壊されて、鼻から上が吹き飛んだ状態だ、だが、考える脳が無くとも、この木製甲冑の男は口を大きく、引き裂く様に吊り上げて高らかに嗤っていた。
「まァだ、まァァだッ!もう、一戦ェェんッ!!」
これも、禍遺物の効果なのだろう、狗神仁郎もまた、不屈の起床を行う木製甲冑の男に心を高鳴らせた。
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