第6話

「…」


狗神仁郎と嬬恋のれん。

一線を越えた二人は、大迷宮・奈落迦へ入っている。

無言のまま、迷宮通路を歩いていた。


「…」

「(何か言えよ)」


嬬恋のれんは素面だった。

仕事中に呑む不真面目さを持つ嬬恋のれん。

しかし、相方が居ると酒を飲むのを辞めた。

万が一、また道を誤ってしまう可能性がある。

流石に、迷宮に入った状態でそんな事は有り得ない。

と、彼女は思うが、否定する事が出来ない。


酒が入った自分が信用出来ないのは、自分が良く知っている為だろう。


「…」


狗神仁郎は気持ちを切り替えている。

今は大迷宮・奈落迦の中。

どんな相手が来るかは分からない。


だから誰よりも真剣になっている。

いや、そうならなければ、ならない。

そうでもしなければ、相方を意識してしまいそうだったからだ。


それが、嬬恋のれんには気に食わない事だった。


「(もう少し意識しろよ)」

「(これじゃあ意識してるあたしがおかしいみたいじゃねえか)」

「(…それとも、あたしにはそれ程の興味が無いってか?)」

「酒が入ったら都合の良い女程度にしか認識してねぇってか?!」


「うおッ」


急に大声を出されたので驚く狗神仁郎。

慌てる様に、嬬恋のれんの方に視線を移した。

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