第4話

「しくじった…」


そう言って気落ちしている嬬恋のれん。

回顧屋のフリースペースで、静かに酒を飲んでいる。

その隣には、同期である花露辺諭亮が座っていた。


「だから、お酒はほどほどにって言ったでしょう?」


そう言って、バーテンダーの姿をしている花露辺諭亮は言う。

今更言われた所で、遅い忠告であった。

だからこそ、嬬恋のれんはうだうだしていた。


「まさか、後輩と、そういう関係になるなんて思わねぇだろ」


「そうね、そういう話も、私も初めてだし…」

「…まさか、初夜ってワケじゃないでしょう?」


二十を超えた年齢。

少なくとも、そういった経験はあるだろうと聞く。

だが、嬬恋のれんは牙を剥いた。


「…うがああッ!!」


昨日の事を思い出す。

花露辺諭亮は呆れていた。


「気の毒ね…もう、過ぎた事だけど」

「それでも、前を向かないとダメよ?」


と、慰める様に言う。


「くッ…分かってる、だけど」


だけど。

そう言って体をくねらせる嬬恋のれん。


「い、狗神、と、これから、どんな顔すりゃ…」


今後、顔を見合わせるのも恥ずかしいのだろう。


「別に、普通で良いでしょう?のれんは」

「そういう関係になりたいとか、思ってないんだし」

「まあ、意識はするだろうけど、慣れよ、慣れ」


と、花露辺諭亮は、そうアドバイスするのだった。

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