第3話

空気が重たい。

狗神仁郎は服を着ていた。

恰好を整えた末に、床に座っている。


嬬恋のれんも床に座っていた。

テーブルの上には、温くなった酒缶が置かれている。

先程、彼女が開けた酒缶で、寝ている間、ずっと酒缶を握っていたものだ。


「…」


狗神仁郎はこの空気を延々と黙している。

何時かは超えるべきであろう先輩を、まさか一線を超えたとは思わなかった。

酷い有様だった、どういう感情を抱けば良いのかすら分からなかった。


「…あー」


嬬恋のれんは、体を揺らしている。

好い加減、黙り続けるのも我慢が出来なくなったらしい。

しかめっ面をしていた嬬恋のれんは、ついに口を開いた。


「ああ!もう、面倒臭ぇ!事実確認だこの野郎」

「あたしとお前は、酒を飲んで、そんで一線超えた!」

「ただそれだけだ!恋人になるとか責任を取るとかの話は無し!」

「だな!?それでいいな!?」


と、大声で言い切った。

顔面は真っ赤になっている。

夜で起きた情事を思い出したのかも知れない。


「…そう、すね」

「夜の事は、いっその事」

「無かった事にしますかっ!」


狗神仁郎も、似合わない作り笑みを浮かべた。

無かった事にしようと言う提案を行う。


「…はあ?おまえ、無かった事にさせられるか!」

「あたしの、この、…ぐあああッ!!」


何かを言い掛けて、テーブルの上に置いた酒を掴む。

そして、我慢出来なかったのか、一気飲みした。

狗神仁郎は、彼女が何かを言い掛けた事を察していたが。

それを口にする事は無かった。

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