第3話

狗神仁郎は言われるがままだった。

取り合えず外に出て走り出す。

そのまま、回顧屋を出ると、街を一周する事にした。

一時間程、程好く汗を流しながら再び回顧屋へと戻って来る。


「はぁ…はッ…」


流石に、一時間ずっと走り続けるのは体に堪える。

元来人間は長期的な活動には慣れていない。

許容出来る疲労を超えれば、後は我慢と忍耐で動き続ける他無かった。


「ふぅ…あっつ…風呂」


狗神仁郎は寮に入ると、自らの部屋を目指した。

廊下を歩いていると、自らの部屋の前に、三つのゴミ袋があった。

玄関は開かれていて、ひょっこりと自室へと顔を向ける。


「(…待て待て、自室だろ、なんで恐る恐る覗いてるんだ)」


そう思った狗神仁郎は、靴を脱いで玄関へと入る。

そして、周囲を見回すと、まるで自分の部屋では無いかの様だった。


「綺麗になってるな…マジで掃除してたのかよ」


そう呟いた所で、狗神仁郎は佐夜鹿紗々が何処に居るのか探す。


「…まさか、玄関を開けたまま外に出たワケじゃないよな?」


そう思っていた矢先。

脱衣所に続く部屋から音が聞こえて来た。


「あ?あぁ…風呂の掃除もしてたのか?…いや」


掃除をしてくれたのはありがたい。

だが、本人に直日に言うなどあり得ないだろう。

故に、文句を言いたくなって来た。

狗神仁郎は、佐夜鹿紗々が居るであろう部屋の扉を開ける。


「なあ、少し言いたい事があるんだが…」


言い掛けた所で、狗神仁郎は心臓が止まった。

佐夜鹿紗々が、自らの栗色の髪を掻き揚げていた。

それも肌は赤く、湯気が立つ。

限りなく、全裸に近しい姿で、髪を拭いている。

と言うか全裸だった。

どうやら、風呂に入っていたらしい。

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