序・二 幻の帝国

 環の国が実在した痕跡はいたるところに残っている。存在自体があやふやな伝説とされがちなのは、都の数里城がまるごと消滅して、幻のように国が途絶えたからだ。


 消滅がなぜ、どのようにはじまったかはさだかでない。手掛かりになるような記録もなく、永遠に解かれない謎とされている。

 なぜ、に答えが用意されていないことは多い。人々が雷や大雨や疫病の根本の原因を知らずとも、我が身にさえ降りかからなければ暮らしてゆけるように、消滅もただ否応なしに訪れるもの、人知の及ばぬ天の意思によるものとして片付けられ、普段は忘れられていた。


 だが、聖帝令寿と、伝説の都に焦がれる者は、ひっそりとではあるが確かにいた。

 文字の墓場。

 時空の狭間に取り残されたという、数里城の残骸。

 ここに、強い憧れを抱き、存在するかどうかもさだかではない場所を探して各国を渡り歩く者がいた。


 尋炉じんろ先生、その人である。

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