第4話 通せんぼ

 ゲートをくぐるとすぐさまそのゲートは閉じてしまい、跡形もなく消えていく。




 (長居したのは悪かったけど、そんなに急いで閉めなくてもいいのに……)




 エレコの出た場所は、草原にぽつんと一本だけそびえたっている大木の下だった。そこは広場のようになっていて、今は誰もいないが焚火の跡などもあるので、旅人の休憩場所になっているのかもしれない。




「わ~っ、気持ちいい風~! 気のせいか空気も美味しいかも……! あれっ! 帽子……」




 風でみだれた髪をなおした事で、帽子を被っていない事に気づいた。忘れてきたのかと思い、急いでインベントリ画面を開くと、そこには帽子と杖が入っていた。




「あっ! 杖もか……でもよかった~! ネコちゃんが入れてくれたのかな? いきなり無くしたかと思って焦っちゃった。一応、装備しておいた方がいいよね……」




 そう思い装備をして、また『帽子、でかっ!』と驚き、一人で笑う。帽子はインベントリにしまっておこうかとも思ったが、変に視線があって絡まれるよりはマシかと思い直し被っておくことにする。




「今度こそ忘れ物は無いよね……」




 一旦、周りを確認すると、エレコは映画のような景色を楽しみながら城壁の街へと向かった。










 ♦ ♦ ♦ ♦










 しばらくデコボコな道を進んでいると、道の先に人だかりを見つける。そして、大きな声で何かを叫ぶような声も聞こえてきた。


 


 (何事? こんなところで喧嘩?)




 近付いてみると一人の男性が、鉄の鎧を着た大男にからまれていた。




「だから、お前は俺の手を見て笑っただろう」 




「いいえ、何度も言っておりますが、神に誓って決して笑ってはおりません。ただこの橋を渡りたいので、馬車が通る間だけどいていただけないかと、お願いしただけでございます」


 


 難癖をつけてお金でもせびるつもりなのだろう。その絡まれているのを幸いと、何名かの者たちは誰も助ける素振りすらみせずに、早足でその横を通り抜けていく。それを見てヌーの群れがワニのいる川を渡っている所を思い出す。所詮、人間も同じか……大きな力には抗いようがない。




「ですので、こちらでどうかご容赦頂けないでしょうか?」




 絡まれていた男性が革袋を渡そうとしたのだが、そこで何故か大男は激昂する。




「き、貴様、貴族であるこの俺様を物乞い扱いする気か!」




「えっ? 違うんか~い!」




 思わずずっこけて、えせ関西弁がとびだす衝撃であった。




 (どうみてもお金目当てでしょ……他に何の理由があって橋を通せんぼするの?)




 そんな事を考えていると、前にいた旅人の会話が聞こえてきた。




「あの若い商人は利口なつもりで金を渡そうと思ったんだろうけど、裏目に出ちまったな」 




「ああ、相手がはなから因縁をつけて、贖罪金を取り立てるのが目当てだっていうのに、とんだ大まぬけだな。まあ、俺たちは助かったが……」




 (贖罪金? 賠償金とか慰謝料みたいなものかな?)




「そろそろ、『決闘だ』って叫ぶ頃じゃないか? オレたちも見物してから街に向かうとするか……」




「そうだな」




 (えっ? 見物? 決闘ってそんな気楽なものなの?)




「俺様を侮辱したな? 今すぐ決闘だ!」




 二人の旅人の話通り、大男は決闘を宣言する。どうやら周知される程、常習化してるらしい。そして大男に商人の若者がヘッドロックをされ連れていかれている間に、馬車や旅人たちが一斉に橋を渡り始める。




「まあ、贖罪金を積んで終わりだろう」




「偶に本当に決闘を受ける奴がいるが、一応、剣は携えてはいるがあいつはどっちだろうな?」




 (あれって犯罪じゃないの? 何で捕まらないんだろう……?)




 疑問に思ったので、思い切って近くの旅人に質問をしてみる事にする。


 


「あの~……こういうのってよくある事なんですか?」




「ん? えっ…………! は、はい。ここ何か月か酒代がなくなると来ているようです」




 男性は振り返ると一瞬、驚いた顔をしたが、すぐさま姿勢を正して丁寧な言葉で答えてくれた。




 (敬語? ああ、この魔術師っぽい格好のせいか! 確か魔法が使えるのは貴族が多いって言ってたもんね。貴族と勘違いしてるんだろうけど、まあ、話もすんなり聞けるし、いいか……)




「そうなんですね! ところでこの地域ではあれは犯罪ではないのですか?」




 その旅人の男性の話だとあの大男は『鉄の手のゲオルグ』と呼ばれる強盗騎士で、何か月か前に突然現れて川や街道に勝手に関所を作って通行料を取り立てたり、人に因縁をつけて決闘をふっかけて贖罪金を取り立てて、私腹を肥やしているのだそうだ。それにゲオルグ自身が貴族で決闘自体が合法なので、一般市民にはどうしようもないらしい。




「お金を奪われた人が訴えても駄目なんですか?」




「そんなことをしたら、また決闘を申し込まれるか裏で始末されますよ……」




 決闘は勝ったものが正義とみなされる為、嘘をついたり犯罪を犯していても勝てば正義になるのだそうだ。何それ? 力がない人は泣き寝入りするしかないじゃん……決闘の意味とは……? それにこの世界であの行為が犯罪じゃないなら、助ける必要があるのだろうか? それに助けたとして善行といえるのか? それなら善行とは……?




「魔術師さま?」




 男性の声で我に返る。




「…………何か混乱してました。難しく考えないで私が悪いと思う事が悪い、善いと思う事が善いでよかったんだ。ちょっと、あの商人の男性を助けに行ってきますね」




 唖然とする男性をよそに、私は商人の男性を助けに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る