第3話 貴族のいる世界

「んんっ! あれっ! ネコちゃん?」




 目が覚めて周りを見まわすと、そこには白一色の広大な空間が広がっていた……って何か見たことある……。




「見た事あるじゃないよ~! 何でまだいるのさ~? 気になって見に来たら瀕死で倒れているし、スタートもしてないのにゲームオーバーとか聞いた事がないよ」




「…………あっ! そうか! 魔法を床に撃ったら凄い衝撃があって……」




 どうやら好奇心に負けて魔法の威力を確かめたら、三途の川を渡りそうになったようだ。体を起こそうとした瞬間、手に握っていた何かが白い床に落ちて『チャリンチャリン』と音を立てる。




「えっ! 金貨?」




 床に落ちた物は二枚の金貨だった。




 (何で金貨が?)




「それは君が取ったスキルの効果だね」




 (あっ! このネコちゃんは心が読めるんだった……そういえば一日一枚金貨が手に入るスキルを、余った一ポイントで取ったんだった)




「えっ! という事は、あれから二日も経ってるって事?」




「そうだよ~だからもう出発してると思ってたのに……。わ~っ! 何そのステータス……いくら魔法が使いたいからって極端なステータスにし過ぎだよ~! 今の君の身体能力じゃその辺の村娘と同じぐらいなんだから、魔物の攻撃とかちょっとした魔法でも大けがを負っちゃうよ! なんで生命力にちゃんと数値を振らないの~?」




 (二日も倒れてたって、本当に危なかったんじゃ……。それにそんなこと言われても、ステータスは好きでやったわけじゃないし……)




 すぐに不具合でプラスした数値が戻せない事を話したのものの、次回までには直しておいてくれるそうだが今回の分はもう戻せないらしい。




「でも魔力量は人間の限界の枠をはるかに超えているから、今のままだと何気なく魔力を込めてもかなりの量になるだろうね。だから加減を覚えるまでは、街なかで使うのは余りおすすめ出来ないね。君の場合、込める魔力は本当にほんのちょっとで良いよ」




「わ、わかりました。気を付けます……あっ! そういえば私の魔法の属性って何になるんでしょうか?」




「ああっ! その辺はゲームではなくて、今から行く世界の理ことわりに従って使って貰う事になるね。今から行く世界は魔力と想像力さえあれば、基本的には全ての魔法が使えるようになる世界なんだ。もちろん、人によって得意不得意があるから得意な種類の魔法を自分の属性と表現できなくはないが、君の質問にあえて答えるなら君の属性は全ての属性という事になるかな」




 (なるほどゲームと違って、使える魔法が決められた属性だけってわけじゃないのね……)




「そういう事だね!」




 (あっ! また心を読まれた……)




「ふふっ! 他に質問がなければそろそろ出発してもらって、出来ればゲートを閉めたいんだけど……。何か質問はあるかい?」




「え~と……う~ん……あっ! 言葉って通じるんでしょうか?」




「それならさっき君の体を再生する時に気が付いたから、ついでに言葉と読み書きは出来るようにしといたから大丈夫だよ」




 (か、体を再生……? 一体、私の身に何が……聞くのは怖いからお礼だけ言っておこう)




「瀕死の所を神様が治してくれたんですね、ありがとうございました。それに言葉が通じなかったら、善行どころじゃなかっただろうし助かりました」




 (あれ? もしかしてここで倒れていなかったら、言葉も読み書きも出来ずに出発していたんじゃ……)




「……ゴホンゴホン! ほ、他に質問はないかな?」




「え~と…………あっ! そうだ……魔法はどうすれば覚えられるんでしょうか?」




「う~ん……そうだね……現地の人間が魔法を覚えるとしたら、先人から学んだり魔導書を読んだりとかかな? 魔法の学校もあるけど、貴族が幅を利かせているから平民には居心地は良くないだろうね……。でも覚えるも何もイメージが出来れば使えるものだし、元の世界の知識がある君だったら、自分で新たな魔法を作ることも可能なはずだよ!」 




 (魔法が修行とかなしで覚えられるのは助かるかも……でも貴族とかもいるんだ……見てみたい気もするけど、出来るだけ関わらない方が良さそうだね)




「確かに貴族と関わるのは余りおすすめしないね」




 ネコガミさまの話では、基本的に魔法は魔力量が多いほど戦闘には有利らしい。なので、こちらの世界では最も魔力量が多い者が代々王となり国を統治し、魔力がある者が貴族となってきた歴史があるのだそうだ。そして魔力の無い者が平民や奴隷として貴族につかえ、時に守られて今の国や街が成り立っているのだという。つまり貴族は地位やお金だけじゃなく、魔力という圧倒的な戦力も持っている事になる。逆らえないじゃん……。まあ、だから関わるのをおすすめしないのだろう。




「まれに貴族でも魔法が使えない者や、平民なのに魔法が使える者が生まれる事もあるんだけどね……。でも家名を存続させる為に、魔力持ち同士で婚姻を結んでいる貴族に魔力持ちが多いのは必然だよね」




 (そういう稀に生まれた人はどうなるんだろう?)




 そう疑問に思っただけで口にはしなかったのだが、心が読めるネコガミさまは普通に答えてくれた。貴族の方は存在自体を隠されたり、最悪は物理的に処分されたりするらしい。平民の方は貴族に養子に迎えられたり、冒険者として活躍したりと比較的明るい未来が見えてくることから、魔法が使えるという事は宝くじが当たるような事のようだ。




「へ~冒険者とかもいるんですね!」




「君も仕事が欲しかったら冒険者ギルドに登録すると良いよ! でも貴族に関わりたくなかったら、活躍もほどほどにね」




 そう言うと明らかにネコガミさまはゲートをチラチラみていて、早く出て行って欲しいのがいやでもわかった。




 (そんなに早く出ていって欲しそうにしなくてもいいのに……)




「わ……かりました。じゃあ、今日はギルドに登録する事を目標にしたいと思います。じゃあ、そろそろ出発しますね。色々とお世話になりました」




「そ、そうか、では頑張って! あっ! くれぐれも魔力の込め過ぎには気を付けるんだよ。そこを出たらもう治してはあげられないから」




「はい、気を付けます。ありがとうございました」




 そう言って私は頭を下げ、ゲートをくぐった。

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