八十輪目
「ってか、なんで僕がお前なんかと話してなきゃいけないんだ。良いからさっさとどっかに行ってくれ」
時間を無駄にした、などと口にしながら肩のあたりを押してきた。
近づいてきた時、何となく冬華の腰から手を離していて正解である。
倒れるほどでは無かったが、一歩足を下げるほどには強い。
「なんだ? やり返そうなんて思うなよ。ランクが下のものが上のものに楯突いた途端、護衛の奴らがこうやってやってくるんだからな」
その言葉通り、どこからともなく十人程の黒服がこちらへと向かってやってくる。
でも俺は反撃などしていないが、何故?
そのままやってくる黒服をみんなして見ていたら、えっと……そういや名前が分からないや。
豚
「なんだよっ! 囲むならあいつだろ!」
「……何で私も?」
よく分からない状況に、俺も冬華や樋之口さんと顔を合わせては首を傾げるしかない。
「
「は? おい、どういう──」
「連れて行け」
その後も何か喚いていたが、有無を言わさず黒服によってどこかへと行ってしまった。
「桜様、そして冬華様。こちら、奥様より預かっていたものになります」
「あ、はい。どうも」
一人残っていた黒服はこちらに向くや手紙のようなものを俺と冬華に渡し、一礼して去っていった。
てっきり説明してくれると思っていたんだけど違うのか……。
「今の、何だったのか分かる人います……?」
「おそらくだと思うんだけど、桜くんが翔よりもランクが高かったんじゃないかな」
「……あんなでも一応七なのよ?」
「でも言ってたじゃん。翔が桜くんに手をあげたのを確認したって」
「それは……確かに」
つまり、俺のランクは少なくとも八であるということか。
高いというのは二人の反応から何となく察するが、どの程度のものかはよく分からない。
前の世界で検査する人なんてそういう病気になった人か十八禁の動画に出ている人、妊娠を望む人とかそんなもんじゃないかな。
だから判断基準を持っていないのだ。
まあ、今回はランクが高かったおかげでどうにかなった。
それでいいだろう。
それよりも奥様が誰だか分からないが、受け取ったものでも読んでみるか。
「それ、なんて書いてあったか聞いてもいい?」
「あ、はい。大丈夫です。手紙は冬華のお母さんからで、迷惑かけたお詫びに樋之口で経営している旅館や飲食店は好きに使っていいよ、みたいな事が書かれてありましたね」
「なるほどね。冬華は?」
こんな程度のことでここまでするかってぐらいのお詫びなのだが。
逆に申し訳ないくらいである。
冬華のには何て書かれていたのか気になるところだが、黙って紙を樋之口さんに渡すのみであった。
それを受け取って読んだ樋之口さんは紙を冬華へと返し、こちらを向くなりいい笑顔を浮かべている。
「冬華の方には桜くんとこれからも仲良くするように、だってさ」
「まあ、冬華が嫌じゃなければこちらこそ」
「冬華の顔、真っ赤だよ」
「うるさいっ!」
ペシペシと樋之口さんを叩く冬華。
でもその顔は満更でもないような……?
「あはは、照れてる照れてる。でもそろそろ暗くなってくるし戻ろうか」
樋之口さんの言う通り、日はまだ沈みきっていないがもうじき暗くなる。
夜になっても暖かい……というよりは蒸してて少し暑苦しいため、風邪はひかないだろう。
夕食も準備されているかもしれないし、もしかしたら仕事を終えた誰かがいるかもしれない。
ノンビリ行って帰るだけのはずが色々とあったけど、個人的に満足のいく写真は撮れたし、冬華や樋之口さんがよければ戻ろう。
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