七十九輪目

 人の容姿について揶揄するのは良くなかった。

 でもそう思ってしまうくらいパッと見そっくりなのだ。

 口に出さず、心の内に留めたので許して欲しい。


「帰ってきてたのなら、声かけてくれればいいのに」

「家に寄るつもりは無かったから」

「ふーん……まあいいや。これからご飯でしょ? 一緒に食べようよ」


 同じ男性からしてみても、この人いい声してるなと思う。

 ふくよかなせいなのか少し舌足らずなので勿体無いというか、好き嫌いがはっきりと分かれそうな話し方であるが。

 ちなみに自分は嫌いな方。


 人様の容姿について語れる顔面をしていないが、よくよく見ると痩せたら結構イケメンなのでは。

 顔立ちが樋之口さんと似ているような……兄弟かな?

 今だと残念な……ふくよかな体型であるが、そういったのが好きの人もいるし。うん。


 友達としていたなら何も気になることはないが、そういうわけでもないし、出会い方もどちらかといえば良くない。

 

「おい、お前」


 あ、それなりに時間も経っていたのかいい感じに日も傾いているし雲も良さげ。

 幾つか素材として撮っておこう。


 毎日描いていると辛いが、こうして描かないでいるとそれはそれで辛い。

 帰ったら久しぶりに何か描くかな。


「優」

「ん? 話は終わった? 今、夕陽がいい感じに綺麗だよ」


 本当なら間に入って『俺の女だ』ぐらい言って守るべきなんだろうけれど、何も知らない状態で家の問題に首を突っ込むわけにはいかない。

 良い方向に転がればよいが、必ずしもそうなるわけではないし。


 なので冬華には申し訳ないが、傍観者というか空気とならせてもらった。


 本来の予定とだいぶ違うが、良い時間となり綺麗な空模様である。

 話が終わったのならノンビリ見て、戻ろうかなと。


「僕のこと、馬鹿にしてるのか?」


 なんて思っていたが、どうやらそうではないらしく。

 何があったのか話を聞いていなかったため分からないが、どうやら矛先がこちらに向いたようだ。


「馬鹿にはしてないですけど……自分に何か?」

「っ! クソッ…………なんだよ……ああ、そうだよな。そうに決まってる」


 煽っているつもりはないのだが、沸点があまりにも低いのか一瞬で頭に血が昇っているようにみえた。

 けど一緒にいた女性が何か伝えると、納得したように落ち着いていく。


「僕はお前なんかより優れた男だからね。もう一回だけチャンスをあげるよ」

「あ、はい」

「…………お前は僕の冬華ちゃんと仲が良さげだけど、何なの?」


 優れていると凄く自信があるようだけれど、確固たる何かがあるのだろうか。

 側から見て学があるようには見えないけれど、実はすごい論文を出しているとか?


「僕のって言ってますけど、冬華は俺のパートナーですよ」

「ああもうっ! さっきから何なんだよお前! 僕のこと知らないの!?」

「知らないですけど」


 普段は仲の良い友達の前でしか使わないが、ちょっと強気に『俺の』なんて言いながら冬華の腰に手を回して抱き寄せる。


 こんなつもりじゃなかったけど、世の中流れに身を任せれば大体何とかなると思ってるので、何とかなるだろう。

 巻き込まれたらどうにかなれの精神である。


 たったそれだけの事であるが、子供みたいな癇癪が返ってきた。

 こう、情緒が不安定な人を相手にするのって苦手なんだよな……。


「ぼっ、僕のランクは七だぞ! この国で僕より上なんて片手もあれば多いぐらいだ! お前は鈍いから気付いていないかもしれないけど、周りには僕に大事がないよう何十人も守ってる人がいるんだからな!」

「ランク…………それって自分のはいくつなの?」

「そんなこと僕が知るかよっ!?」

「「「「えっ」」」」


 なんとなーく、これも夏月さんが話していたようないなかったような気がするけど覚えていない。


 何の気なしに聞いてみただけなのだが、冬華、樋之口さん、まだ名も知らぬ女性たちから信じられないといった目で見られている。

 確かに自分のことであるから、知っていて当たり前の常識なのかもしれない。


 夏月さんなら知っていそうだし、来たら聞いてみようかな。

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