七十一輪目
「秋凛さん、今日のお仕事は?」
「お休みだよー」
「もともと空けていたなら、何か予定とかあったんじゃ?」
「えっとね、一回お仕事休んだことあったでしょ? それで少しゆとりを持ったスケジュールに組み直してもらってるんだ」
「そっか。ならノンビリして英気を養わないとね」
伸びたうどんを食べ終えた頃には秋凛さんの機嫌も元に戻り、今は食休みも兼ねてソファに並んで座りノンビリとした時間を過ごしていた。
秋凛さんが録画していたバラエティ番組をテレビで流しているが、彼女の意識は繋がれた手に向いている。
逆に俺の方がテレビをよく見ていたり。
慣れてきたとはいえ、いまだに新鮮な感じがして面白いのだ。
そんな中、秋凛さんが恋人繋ぎにしている手の力を強めたり弱めたりと、感触を確かめては幸せな気持ちで頬を緩ませているのを見て懐かしさを感じた。
夏月さんも最初はこんな感じで初々しかったな。
夏月さんは今頃、何してるんだろうか。
普通に仕事だとは思うけど、ご飯はキチンと食べたのかな。
意外と俺が居ないから久しぶりにジャンクを食べれるって喜んでたり。
「ごめんね、優ちゃん」
「ん?」
「夏月ちゃんのこと、心配でしょ?」
「…………少しね」
ずっと俺のことを見ていたからだろうか。
テレビに集中しておらず、どこか上の空になったのを敏感に察している。
「優ちゃんが思うままにしていいんだよ?」
「でも、そしたら今度は向こうで秋凛さんの心配してると思う」
「へっ、私の?」
自分のことを考えてくれることが予想外なのか、目をまん丸にしてこちらを見てくる。
けど、そうだろう。
変なところで現実的な制限があるけれど、基本的には男性の意向が尊重というか、優先されており。
男女関係のあり方も多種多様に存在する。
秋凛さんも自身をパートナーとしての括りというよりは、所有物としての立ち位置を希望しており。
それに喜んでいるマゾヒストではあるが。
結局は自分の女性であることに変わりはないのだから、心配して当然である。
「優ちゃんって……」
「うん?」
「ううん……そう思ってくれているだなんて、すごく幸せ者だなって」
喜びの感情が赴くまま抱きつこうとした秋凛さんだけど、直前で理性のブレーキが働いたのか変なポーズをとっている。
こういった時ぐらいはどんどん来てくれてもいいのに。
なので俺から秋凛さんを引き寄せ、ギュッと抱きしめた。
「んっ……」
少し強く引っ張りすぎたため、秋凛さんの顔が俺の胸に当たってしまったが痛くなかっただろうか。
なんて心配をしていたが、ゆっくりと手を回して抱きしめ返してくれたので大丈夫なのだろう。
……ただ、恥ずかしいのでその体勢のまま深呼吸はやめていただきたい。
夏月さんもよくやるが、そんないい匂いでも無いだろうに。
「同じシャンプー使ってるはずなのに、秋凛さんからいい香りがする」
「ふぇっ!? な、なな何して──んみゅ!?」
せっかくだからと目の前にある頭に顔を近づければいい香りが。
ただ単に自身の匂いに気付きにくいってのもあるが、同じものを使ってもこんなに差があるとは。
同じ事をしているはずなのにされるのは恥ずかしいのか、慌てて離れようとするけどそうはさせない。
今回は万全の状態である為、この前とは違い手加減されていても余裕がある。
本気を出されたら恐らく勝てないと思うが、万が一にも俺に怪我を負わせないようにしているので負けないだろう。
この時点でプライドが色々とアレな気もするけど、気にしたら負けである。
「ね、秋凛さん」
「ん?」
「もし良かったらなんだけど、一緒に住めたらいいなって考えてて。その方がこうして移動する必要もないし」
「それは私と優ちゃん、夏月ちゃんの三人で一緒に住もうって事だよね?」
「うん」
あれ、なんだかあまり反応がよろしくない気がする。
仲が悪いわけじゃないのは確かだと思うけど、それとこれとは別って事かな。
「優ちゃんがそうしたいなら私は大丈夫だけど……でも、夏月ちゃんも一緒に一度話してみよっか?」
というわけで取り敢えず明日、夏月さんも交えて話すことになった。
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