七十輪目
朝、目が覚めたら隣に夏月さん……ではなく、秋凛さんの寝顔が。
何故と混乱したが、意識がハッキリしていくにつれて昨日のことを思い出してきた。
幸せそうな寝顔をしている秋凛さんを見ると嬉しさというか、罪悪感というか……。
「んぅ……あ、ゆうちゃん。えへへ、おはよぅ」
身体を起こした時のベッドの軋みで起こしてしまったようで、まだ寝ぼけているのか少し舌足らずな挨拶をしながらにへらと笑みを浮かべている。
そんな秋凛さんをみて、頬に手を添えおでこにキスをする。
本当は口にしたいところだが、寝起きは口の中が雑菌でいっぱいなので諦めた。
こんな事で体調を崩してはいけない。
「ぁ、ぁぅ……」
徐々に眠気がとんでいくにつれ、先ほど何をされたのか意識してきたのか。
顔を真っ赤にさせ、微かに可愛らしい声を漏らしたかと思えばモゾモゾと毛布で顔を隠してしまった。
「シャワー浴びてくるね」
いつまでもこのままノンビリしていたいところだが、お腹が空いたし身体も綺麗にしたい。
秋凛さんに声をかけ、持ってきた荷物から着替えを取り出して風呂場へ。
どうして場所を知っているのか自分で不思議に思ったが、前にも一度来たことがあったなと。
その時は風呂を借りたわけではないが、なんとなく場所は把握している。
シャワーを浴び、ちょうど服を着たタイミングで秋凛さんがやってきたが、そんな俺を見て少し残念そうにしていた。
狙っていたわけじゃなく、羞恥が落ち着いて動けるようになったのがさっきなのだろう。
まだ少し顔が赤いからきっとそう。
もう少し早ければといった考えが丸わかりであったが、その気持ちはよく分かる。
逆の立場であったのなら俺もそう思っていた。
「ご飯作るけど、冷蔵庫開けてもいい?」
「うん。好きにしていいよ」
許可もいただいたのでキッチンへと向かい、何が作れるかなと冷蔵庫の中を一通り確認したが。
いくつか見過ごせないものがあり、勝手ながら廃棄させてもらった。
料理をする前にちょっとした掃除みたいなことをするとは思わなかったが、まあいいだろう。
近いうちに買い物に行く予定だったのか、何を作るにしてもといった感じなため、申し訳ないが素うどんで。
かき揚げも作れそうだったが、掃除していた時間もあり、そろそろ秋凛さんが出てきそうなので諦めた。
なんて思っていたら、ドライヤーの音が微かに聞こえてきたので髪を乾かしているところだろう。
まだ早いかなと思いつつ鍋に水を入れて火をかけたが、うどんが茹で上がる前には髪を乾かし終えた秋凛さんがやってきた。
もう少し時間がかかると思っていたけれど、少し読みが甘かったか。
「出汁のいい匂いがするけど、もしかして凍らしていたやつ使っちゃっ──あぁあああぁっ!?」
のほほんとした感じで来た秋凛さんだが、俺が先ほど廃棄したものを見て珍しく大きな声を出している。
「なっ、なんで!?」
「なんでって、これこの前きた時に作ったやつだよね? 一ヶ月以上前のやつだよ?」
「優ちゃんが私の為に初めて作ってくれた料理なのに!」
「ダメになるだけだからキチンと食べて欲しかったな」
可愛くデコってあって食べられないとかならまだ分かるが、ただのうどんつゆに野菜スープ。
冷凍庫で凍らせてあったとはいえ、もう食べられない。
「で、でも!」
「これからもこうして作る機会あるだろうし、いいじゃん。ね?」
「それはそうだけど、これはこれなの!」
理屈じゃなく感情的なもので、秋凛さんの言わんとしてることも何となく分かる。
でもそれはそれ、これはこれ。
「取り敢えずうどんも茹で上がったし、ご飯食べよ?」
「むむむ……」
この話はこのまま流されることに気付いたのだろう。
だけどこれ以上何か言って俺の機嫌を損ねたくないといった気持ちが見える。
さっき、料理する機会があるとは言ったものの。
夏月さんと秋凛さんの家の移動が割と面倒臭い。
いっそのことデカい一軒家に引っ越して、一緒に住むといったことでも提案してみようかな。
そうすると色々楽だろうし。
うどんが伸びちゃうと思いつつ、秋凛さんを抱きしめて機嫌をとりながらそんな事を思った。
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