六十七輪目
目が覚めると、隣には既に夏月さんの姿はなかった。
今日の仕事は午後からだと夜中に話したような気がするのだけれど、随分と早い起床だ。
時計を見れば七時を少し過ぎたくらいであり、もっとノンビリすれば良いのにと思う。
何故だか寝室に柑橘系の香りが漂っており、変に目が冴えてしまった。
家にある消臭スプレーと同じ香りなのだが、もしかして俺、臭うのだろうか……。
このまま二度寝しようとも思えず、起きて顔を洗いリビングへと向かえば。
「あ、優君。おはよう」
「おはよう、夏月さん。わざわざ作ってくれたの?」
テーブルにはご飯に味噌汁、納豆、焼き鮭にほうれん草のおひたしと、旅館の朝食見たいなラインナップが並んでいた。
二人分あるため、朝はいつも軽く済ませる夏月さんも食べるのだろう。
「たまには一緒に食べようかなと思って。……迷惑だった?」
「ううん、とても嬉しいよ。ありがとう」
あと飲み物の用意をしたら起こそうと思っていたらしく、すぐ出来るから先に座っててと言われたので大人しく従う。
「麦茶で大丈夫?」
「うん、ありがと」
飲み物を置いてくれた時、夏月さんからふわりと柑橘系の香りがした。
すぐに対面へと座ってしまったが、午前中どこか出かけるのだろうか。
朝食を作ってもらったため、後片付けは俺がと申し出れば珍しく素直に受け入れてくれた。
「仕事の準備してくるね」
そう言ってリビングを後にする夏月さんをボーッと見送り。
皿洗いなどを済ませてソファーに座り、今日の天気や占いなどを見ていたら荷物を手にした夏月さんが戻ってきた。
「あれ、仕事は午後からじゃ?」
「その予定だったんだけど、今日現場一緒の子とショッピングしてお昼食べることになったんだ。伝えるの遅くなってごめんね?」
「いや、全然大丈夫だよ。楽しんで」
いつもはいってらっしゃいのキスをせがんでくる夏月さんだが、時間がないのかさっさと行ってしまった。
夏月さんを見送り、再びリビングのソファーに腰掛けてリラックスしたところでまた柑橘系の香りが。
寝室だけじゃなく、ここもってことは俺が臭うからってわけじゃ無さそう?
でも、そしたら急にどうして……?
そのままボーッとしていたら、いつの間にやら眠ってしまっていたようで。
昼はとうに過ぎ、おやつの時間となっていた。
寝落ちする前、何か考えていたような気がするけれど思い出せない。
忘れるって事は大した事じゃないだろうし、そんな事よりもまずは腹を満たすのが優先される事項である。
流石にそろそろカップ麺はやめておこうと思うのだが、そうなると何か作らなくてはいけないわけで。
「あ、朝の残りがある」
自分のためだけに作る飯はあまり好きじゃないので簡単に済ませようと思っていたが。
キッチンに味噌汁の入った鍋を見つけ、少し気分が上昇。
味噌汁に火をかけ、少し大きめの器に米をよそう。
程々に温まったところで火を止め、米に味噌汁をかけてねこまんまの完成である。
行儀が悪いって世の中のイメージだが、個人的には上位に入るほど好きなご飯。
何をしてもいいとは言わないが、美味いのだからこれくらいはいいと思う。
カレーだって、シチューだって米にかけて食べるのだから一緒だ。
……シチューは賛否両論あるらしいが、俺は好き。
夏月さんは最初驚いていたけれど、試しに食べておいしいと言ってくれた。
ただ、どちらかといえばパン派であるとのこと。
ねこまんまは夏月さんも好きなので気にせず好きに食べている。
「……………………あっ」
ふと、気付いた。
消臭スプレーがされ、夏月さんがあまり俺に近づこうとしなかったワケについて。
これは夏月さんが帰ってきたら少しお話が必要である。
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