六十六輪目

 目が覚め、微睡みを心地よく感じながら時計を見れば十時を過ぎており。

 遅刻すると認識した瞬間に意識がハッキリし、ベッドから立ち上がり──ほぼニートの立ち位置になっていることを思い出した。


 気が抜けてベッドへ腰掛けたところで自身が全裸であること、シーツなどが色んな液によりカピカピであることに気付く。


 昨夜、変な方に吹っ切れたテンションのまま秋凛さんを抱いたのが夢でなく現実である事に罪悪感や背徳感、高揚感など。

 色んな感情が沸き起こり、混ざり合っている。


 何時までもこうしているわけにはいかないため、取り敢えずパンツだけ履いて換気のため窓を開け、何度もやって慣れた片付けを始めていく。


「…………あっ」


 俺と秋凛さんでベッドを使っていたため、夏月さんはどうしたのだろうと片付けを一度やめて部屋を見て回れば。

 ソファーの上に畳まれた毛布があったので、ここで寝ていたのだろう。

 湧き上がっていた色んな感情は全て、申し訳なさへと変わった。


 家の中に人の気配が無いため、二人はとっくに仕事へ向かったと思う。

 まあ、こんな時間なのだから当たり前か。

 本来ならば俺もこんな事しておらず、慌てながら仕事の準備をしていた筈だ。


 途中だった後始末をさっさと終わらせ、シャワーを浴びてさっぱりする頃には昼近くになっていた。

 なんの気まぐれか普段スルーするところの掃除まで始めてしまったため、何時もより時間がかかっている。


 お腹は空いているものの、ガッツリの気分では無くさっぱりしたものを口にしたい。

 最近また少し頻度が増えた気がするカップ麺は今回見送るとして、作る気力もない。


 冷蔵庫をあさり、未だいくつかストックの残るゼリー飲料を二つ取り出す。

 ついでにこのあとやる予定のゲームの準備も兼ね、別に飲み物とお菓子を用意しておく。


 それらを写真に撮って夏月さんへ送ろうとしたところで、連絡が来ている事に気づいた。

 スマホは基本マナーモードにしているため、弄っていないと連絡が来ても分からない。

 普段、連絡寄越す人なんてこれまで居なかったから仕方ないね。


 夏月さんからは『夜遅くなる』とだけ来ていたので、『晩御飯はどうする?』と返しておく。

 問題は秋凛さんから『また遊びに行くね』と。


 あの時は……いや、うん、言い訳は良くない。

 何だかんだ今まで言い訳を重ねて避けてきていたが、結局のところ俺も男だったというだけだ。

 ……まあ、推しに迫られて拒否れる人なんていないし、俺はある意味で正常なのだと思っておこう。


 『予定が空いていれば大体大丈夫です』といった内容を返し、それだけで昨夜の記憶を蘇らせて少し硬くなっている節操のないモノを見て見ぬ振りしながらゲームの準備をしていく。


 今日、夏月さんを抱くのは何があってもダメだな……。


 そんなこと思いながらゼリー飲料を流し込みつつ、死にゲーの攻略を進めるべく戦いへと赴くのであった。




☆☆☆




「…………ぁ、夏月、さん?」


 何かを感じ取ったのか目が覚め、辺りを見回せばジッと俺のことを見ていた夏月さんと目が合った。


 『夜ご飯は食べて帰るから先に寝ててね』と返事が来ていたのでお言葉に甘えていたのだが、何かあったのだろうか。

 ふんわりとボディーソープの香りが漂い、パジャマを着ているので後は寝るだけのようにも見えるけど。


「おかえり」

「うん、ただいま」


 まだ微睡にいる中、いつも以上に夏月さんが何を考えてるか分からないなー、とぼんやり思っていた。


「……ね、明日は午後からだからゆっくりなんだ。今から、ダメ?」

「……………………あーごめん、夏月さん。昼間ゲームのやりすぎで凄く眠いんだ」

「……そっか。うん、なら仕方ないね」


 代わりにはならないだろうけれど、ベッドに入ってきた夏月さんをギュッと抱きしめる。

 お誘いがあって少し硬くなったモノは腰を引き、触れないようにしたのでバレていないだろう。


 少し覚めた意識だったが、夏月さんから香るいい匂いと程よい温もりによってすぐ睡魔に塗り替えられていく。




「────」




 思わず漏れた呟き。

 聞こえたのか反応したような気がしたが、既に意識は彼方へと飛んでおり。

 この出来事を覚えていないのであった。

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