六十五輪目
突然、夏月さんは何を言い出すのだろう。
驚きと共に半ば思考停止になってしまうが、身体が正直に反応していたことに少し節操の無さを覚える。
別に嫌というわけではない。
ただ、俺の気持ちの問題である。
『一夫多妻になって暫く経つけど』
いつだったか、そんな話されたのを思い出した。
正直な話、男なので夢はある。
けど一度やってしまうとその後は堕ち、際限が無くなってしまうのは自分の性格上よく分かっている。
推しと付き合って同棲しているだけでも十分だというのに、これ以上を望むのは欲張りがすぎるというものだ。
……でも夏月さん公認、だし。
……この世界的にはそれが望ましい、らしいし。
外堀が埋められているというか、実は俺が外堀だと思っていたものはただの絵で、本当はいつでも落とせる状態にあるみたいな。
男性の意思が尊重されているから見逃されているだけで、隙あらばいつでも囲いの準備が出来ていそう。
秋凛さんはどう思っているのだろうと見てみれば、夏月さんに『心の準備がまだできてない』と言いつつもどこか嬉しそうに見えた。
──ああ。
自分の事だけを考えていたけれど、女性からしてみたら男性の相手ができるだけでとても嬉しく、幸せな事なんだ。
もしかしたら俺でなくてもよかった事なのかもしれないけれど、でも今この場にいるのは俺なのだ。
「優君も、キチンと責任持たないとだよ? ……まだって言うのなら、私は優君の意思を尊重するけれど」
「いや、ちゃんと責任取るよ。男だもの」
ふとした時、なんで俺がここに来たんだろうと考えたりする。
答えなんて分かるはずもないけれど。
こうして推しと付き合えるよう神様がプレゼントをしてくれるほど、俺は良い子ちゃんであった訳じゃない。
特に可もなく不可もない平凡な生き方をしていただけだが、こうしてここにいる。
色々とあったけれど、今。
俺は
「──ぇ」
「夏月、ちゃん? …………あ、えっ、優ちゃん、本当に今からっ?」
「その為に今日、来たんですよね?」
「そ、そうだけれど……」
座ったままでいる秋凛さんの手を引いて立ち上がらせ、ベッドまで移動しようとした時。
「夏月さん……?」
服の端を掴まれ、引っ張られたため足を止めて振り返れば。
よく分からない表情をした夏月さんがジッと俺の事を見ていた。
「…………」
「大丈夫?」
「あ、うん。ごめんね? 大丈夫だから気にしないで」
声をかけるとパッと手を離し、さっさとヤることヤってくるよう促してくる。
その様子から先ほどのはちょっとした悪戯だと思い、秋凛さんを連れ寝室へと向かう。
この時、パタンと閉まるドアの音がいつもよりも大きく聞こえたような気がした。
───
一夫多妻なので基本的に独占欲はそこまで無いと、前にどこかで書いた気がしますが。
種無しでもないのに、自分しか見ない男性と約三ヶ月も一緒にいれば眠っていたものも起きる訳で。
最初はメンバーと一緒がいいな、早く囲ってくれないかなと思っていた夏月だったが。
今ではずっとこのまま二人がいいなと思い始めた途端、自身の知らないところで気付けば声をかけており。
まだ手を出さないだろうと思っていたら、何の気まぐれか抱くと言い始める主人公。
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