六十八輪目

 一人なので簡単な夕食を終えゲームをしていると、鍵の開ける音が微かに聞こえた……ような気がした。

 気のせいかもしれないが念のためと玄関へ向かえば、ドアを開け中へ入ろうとしていた夏月さんと目があう。


「お帰り、夏月さん」

「た、ただいま」


 夜ご飯は食べてくると連絡があったけども、焼肉とはまた臭いのつくものを。


「どうかした?」

「あ、ううん。何でもない」


 どこか余所余所しい感じのする夏月さんだが、俺が何も言わずに荷物を受け取ったのを見て首を傾げている。

 靴を履いたまま動かないので声をかければ、少し慌ただしく靴を脱いで洗面所へと向かい、手を洗う音が聞こえてきた。


 そのまま風呂に入るだろうから荷物は適当にソファーに置いておき、飲み物のおかわりを用意してゲームの続きへと戻る。




 暫くして風呂から出てきた夏月さんだが、荷物を持って片付けに行ってしまった。

 それほど時間かからずにリビングへと戻ってきたけども、いつもなら隣に座るところをなぜか離れた位置に。


「どうしたの、夏月さん。離れたところに座って」

「あー……っと、もしかしたらまだ臭いが取れてないかもだから」

「そんなの気にしないから、ね?」


 ゲームを一時中断し、隣に座るよう促せば。

 悩んだのち、少し不安そうにしながらもこちらへと寄ってくる。


「へっ? あっ、わわっ!?」


 それでも一人分置いて座ろうとしてたのでケガをしないよう最大限に気をつけつつ、腰に手を伸ばし自身の股の間へとおさまるよう誘導する。


 何をされているのか理解して離れようとする夏月さんだが、既に両手を腰に回してガッチリと固定してるのでそれは叶わない。

 なんとか逃れようと少し暴れたのち、急に大人しくなったかと思えば。


「えへへ。優君、もしかして分かってた?」


 逃げないと分かって少し緩んだ腕の中、器用に体を横向きに変えた夏月さんは俺の首に腕を回し、甘えた声でそう口にするのであった。

 思わず全て許してしまいたかったが、ギュッと抱きしめる事でなんとか持ち堪える。


「前も言ったと思うけど、仕事に関して自分は何も口出ししないよ。ただ、ちゃんと伝えて欲しいだけ」

「…………ちゃんと伝えたら夜、シてくれる?」

「それはそれ、これはこれ」

「ならこれからも言わない!」

「俺、夏月さんのこと大事にしたいの……ダメ?」

「う…………優君は私が断れないの分かってやってるからズルい」


 ただ単に、女の子の日が始まったことを伝えてくれればいいだけなのに。

 そんないじけた表情を見せられたら俺の方が折れてしまう。


 前は4月末ぐらいの時で、その時に調べて周期など色々と変わっていることを知った。

 掲示板などでは期間中も出来る、ヤれるとしか書かれていないが、まあちゃんと病院のをみたら可能な限り避けるようにと書いてある。

 出来ると言えば出来るのだろうが、先にも口にした通り大事にしたい。


 この世界の女性は、愛情の確認が肉体的接触でしか得られていないような気がする。

 まあ男性の性的欲求が薄いため、数少ない弾を自分に捧げてくれたとなればそう思うのも不思議ではないが。


「夏月さん、好きだよ」


 だからそうしなくとも、こうして口で伝えられたら……と、思ったが。

 男性が女性を褒めたり、好意を口にすることも少ないのか効果は絶大で。


 現に今も、夏月さんは真っ赤にした顔を俺の胸へと押し付けてグリグリしている。

 可愛い。


 俺も恥ずかしいため、内心で思っていても口にして伝えることは少ない。

 あまり言葉にすると安っぽくなるような、軽くなって本当にそう思っているのか自分自身で不安になる。


 でも先ほど口にした"好き"は推しとしてではなく、『常磐夏月』を想っての言葉であるのは確かだ。


 なんて考えて少し恥ずかしくなったのを誤魔化すように、ギュッと抱きしめる腕に少し力をこめる。

 夏月さんの嬉しそうな声が耳に届き、この幸せがずっと続くようにと願い──。






 ──一時間後には秋凛さん宅の寝室で秋凛さんを抱いていた。






───

1クール(3ヶ月)に一度、3日程度で終わるようになっている。

基本的に軽く、重い人はごく稀に存在する。

その3日の間も一応、出来なくはないが医者は勧めていない。


終わった後、男性を惹きつけるフェロモンのようなものを1日発するが、基本的にパートナーがいないと機能しない残念な効果。

4月末の時の主人公はもう凄かったとかなんとか。

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