三十四輪目

 夏月さんからの話を聞く前に寝落ちしてしまった日から一週間が経つ。

 どんな相談だったのか尋ねてみても、『もう大丈夫』と返ってくるだけ。


 確かに悩んでる雰囲気を感じないし、どちらかと言えば嬉しそうにしているから大丈夫なんだろうけども。

 何だったのか気になってしまう。


 早めに忘れて気にしないのが一番なのは分かっているが、しばらくはこの状態が続きそうである。


「優君、飲み物は何がいいかな?」

「コーヒーで」

「りょーかい!」


 一応仕事をしている身ではあるが、養われている感じが強いため。

 せめて家事ぐらいはと思っていても、家に夏月さんがいる時はこうなってしまう。


 昨日も土曜日なのに仕事で、久しぶりに日曜が休みなのだからゆっくりして欲しいのに。

 どこか俺の反応を見ているような、機嫌を伺っている感じがする。

 俺の気のせいかもしれないけど。


「はい、優君」

「ありがと」


 昼食を終え、皿洗いなど片付けをすまし。

 飲み物や、おかしの用意がされている。


 この後にやることと言えば……。


「あ、そこ右から敵」

「優君、回復アイテム無い?」

「あるけど敵いて余裕ない」


 当然、ゲームである。

 少しずつやってはいるものの、積まれたゲームはまだまだ残っているのだ。


 ……ほんと、買いすぎだと思う。


 夏月さんは普段、それほどゲームをやらないというのは同棲を始めてから知ったことである。

 なぜゲーム機体があるのかといえば、月居さんとオンラインゲームをやるためだけらしい。


 だからどのようなゲームがいいか分からなかったため、適当にたくさん買ってきたというわけだ。


 今では腕前に差が無くなってきているものの。


「おっ」

「きゃっ!?」


 ビックリ系のギミックが来た時、落ち着くまで操作が覚束ないのに変わりはない。




 途中、休憩を挟みつつも日が沈むまで二人してゲームを続けていた。

 あと少しでこのゲームも一先ずの終わりを迎える。


 本当ならこのまま最後まで終わらせたいところであったが、明日は仕事なので疲労を残すわけにはいかないのだ。


「ね、優君」

「ん?」

「……シュリの事、覚えてる? 誕生会の時に来てくれてた」

「覚えていますけど……?」


 急にどうしたというのだろう。

 ゲームを片付け終え、夕食の準備を始めようと思ったところで月居さんの話だなんて。


 空気が少し重く感じ、なんとなく真面目な話なのだと思い。

 夕食の準備は一度置いておき、ソファーへと腰掛ける。


 隣に夏月さんも座るが、まだ先を話す気持ちの整理がついていないのか、俺に体を預けて口を閉ざしたままだ。


 表情が見えないため、話し始めるのを待つしかないが……一体、どうしたというのだろう。

 月居さんの事は覚えてるも何も、夏月さんと同じメンバーなのだから当然知っている。


「いま私たち、来月のライブに向けて練習しているんだけど……シュリの様子が少しおかしい様な気がして。……あ、本人から聞いてないから私の勘違いかもしれないんだけど、なんか引っかかって」

「…………そう、なんだ」


 真剣な話をしているところ大変申し訳ないが、俺の頭の中はいま。

 次のライブ、申し込み忘れてチケット取れていないのを思い出した悲しみによって占められていた。

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